未来を創る「子どもとプログラミング教育」

AI時代の教育革新とは――Googleと日本マイクロソフトの公演から見えた「Next GIGA」の胎動:EDIX 東京 2025(2/2 ページ)

» 2025年06月17日 16時00分 公開
[石井徹,ITmedia]
前のページへ 1|2       

日本マイクロソフト:「未来を見据えたスキル」にはAIが含まれる

 日本マイクロソフトの基調講演では、冒頭に津坂美樹社長が登壇した。津坂社長は「Microsoft(米国本社)は創業から50年を迎えた。これまでも多くの変革を経験してきたが、今のAIレボリューションは最大級のものだ」と強調する。津坂社長自身も「毎月のようにAI活用スキルが上がってきた」と実感しているという。

津坂社長 日本マイクロソフトの津坂美樹社長

 津坂社長は「AIの未来は今日だと感じている」と述べた上で、MicrosoftがLinkedInと共同で実施した調査「2024 Work Trend Index」の結果を紹介した。

 ビジネスリーダーの約3分の2が今後はAIスキルがない人は採用しない回答していることや、企業において経験が浅くてもAIスキルがある人材を採用したいという傾向が高まっていることなど、AIによって雇用環境が既に大きく変化している現状を指摘した。

2024 Work Trend Index MicrosoftがLinkedInと共同で実施した「2024 Work Trend Index」の結果。AIを使いこなすスキルが、人材採用の意向に影響を与えていることを示唆している

 また、津坂社長はMicrosoftの国内投資案件として、クラウド基盤に4400億円を投入した他、女性のAI人材を育てる「Code; Without Barriers」プログラムを初めとする3年間で300万人のリスキリング支援、そして「マイクロソフト リサーチ アジア東京」の開設といった実績を挙げた。

 講演の中で、津坂社長は個人的な背景にも触れ、教育者であった祖母・富澤カネ氏の話を紹介した。

 富澤氏は現在の山形県で女学校(現在の東北文教大学)を設立し、「敬・愛・信(人を敬い、人を愛し、人を信じる)」という理念を掲げていたという(参考リンク)。津坂社長は「祖母は『女の子でもちゃんと稼げなきゃいけない』と厳しく言っていました」と振り返りつつ、教育を通じて個人の可能性を引き出し、経済的自立を促すことの重要性を強調する。「日本マイクロソフトは、皆様の可能性と成長を支えていきたい」と結んだ。

「未来に備える力」を育むテクノロジー

 続いて登壇した宮崎翔太氏(教育戦略本部長)は、日本マイクロソフトにおいて教育は「Future Ready Skills(未来に備える力)」を育むための手段と定義していると説明する。「テクノロジーは手段であって、目的ではない。どんな時代であろうとも、子どもたちが将来自分らしく活躍するためのスキルを育むための手段として、テクノロジーを提供している」と説明した。

Future Ready Skills 日本マイクロソフトは教育を「Future Ready Skills(未来に備える力)」を育むための手段と定義する

 同氏によれば、企業/公共機関を合わせた法人向けPCにおけるWindowsのシェアは90%以上で(※1)、「Microsoft Office Specialist(MOS)」試験は国内で525万人が受験する最大規模のPC関連資格だという。「日本マイクロソフトは、子どもたちの学び方から先生たちの働き方まで一気通貫で支援する会社」だと胸を張る。

一気通貫 学生から社会人まで活用するプラットフォームを提供していることが、日本マイクロソフトの強みだという

(※1)MM総研/ダイワボウ情報システム「法人向け国内パソコン稼働台数と予測に関する詳細調査」に基づく2024年9月末時点のデータ

 文部科学省では、2024年2月に「教育DXに係るKPIの方向性」を公表した。このKPIでは「AIを活用する学校を令和7年度(2025年度)までに50%」「クラウド環境を活用した校務DXの徹底を令和8年度(2026年度)までに100%」「令和11年度(2029年度)までには全ての先生がいつでもどこでも校務処理を実現」といた目標を掲げている。宮崎氏は、日本マイクロソフトとして、この目標達成を支援すると説明する。

「Minecraft Education」で広がる学びの可能性

 日本マイクロソフトの基調講演では、多数の事例が紹介された。

 つくば市では「Word」「PowerPoint」「Excel」などを使って児童が考えを整理し、「Microsoft Teams」などで共同作業を行う取り組みが実施されている。宮崎氏は「これは社会における働き方そのもの」と評価する。

 Microsoftの子会社であるスウェーデンのMojang Studiosが開発する「Minecraft Education」の活用も進んでおり、さいたま市では市街地を忠実に再現したデータを使った課題解決型学習を実施している。また、青森県立弘前高校では、弘前市長や弘前大学と対話しながら街をMinecraftで再現し、「マインクラフトカップ」で最優秀賞を受賞した事例も紹介された。

Minecraftも学習教材として活用している Minecraftも学習教材として活用している

 また長野市教育委員会では、不登校児童のために市内の全小学校を結ぶ「教育支援センター」を設立しているが、Minecraft上にも施設を再現し、オンラインで集まった子どもたちが協力してコンテスト作品を制作したという。

 「子どもたちは制作段階から協力し合い、時にはぶつかりあいながらも試行錯誤し、中にはオンラインで参加していた子どもが実際にセンターに足を運ぶようになった」と宮崎氏は成果を語る。

セキュリティとCopilotが変える教員の働き方

 学習環境の事例に続いて、宮崎氏は教員の働き方改革の重要性にて言及した。

 宮崎氏は「先生方が働きやすい環境を実現することが重要で、特に今後はライフステージの変化に対応して、いつでもどこでも働くことができるロケーションフリーな環境が不可欠となります」と説明する。一方で、そうした柔軟な働き方を実現するには高度なセキュリティ対策が必要だとも強調した。

 その解決策として、「ゼロトラストセキュリティ」の導入事例が紹介された。2021年度に校務のクラウド化においてゼロトラストセキュリティの先駆けともいえる取り組み行ったのが、埼玉県の鴻巣市教育委員会だ。場所を問わず安全に校務処理ができる環境を構築したという。

 さらに秋田県教育委員会でも、2023年度に県全体での「次世代校務デジタル化」を実現したという。

ゼロトラスト 教員の働き方改革のためにゼロトラストセキュリティを導入する事例も増えている

 「サイバー攻撃を受けている分野の第1位がITで、第2位が教育機関/研究機関」というMicrosoftの調査結果も引きつつ、「意識しなくても守られている環境」を目指す日本マイクロソフトの取り組みが説明された。

「Copilot」の校務活用

 続けて登壇した西脇資哲氏(業務執行役員エバンジェリスト)は、Copilotとエージェントを活用したデモを披露した。

 デモでは「学習指導要領」「単元計画書」「他の教員の指導案」「会議の議事録」といった文章をCopilotに取り込み、授業の流れや指導計画を短時間で作成する様子を紹介した。

 さらに、「年間行事予定計画」「運動会の実施計画書」「修学旅行計画書」「文化祭実施要項」などの文書からエージェントを作成し、学校全体で共有する方法も実演した。エージェントに「修学旅行の旅程を教えてください」と質問すると、関連文書から適切な情報を抽出して答えてくれるという。

 西脇氏は「入り口は全てCopilotです。校則や年間行事予定、出張申請などの情報を扱うエージェントも作成できるので、組織のさまざまなデータの参照窓口となりうる」と利便性の高さを強調した。

次世代教育アプリ「Project Spark」を披露

 講演の後半では、「Copilot+ PC」上で動作する新しい学習アプリ「Project Spark」が紹介された。

 Project Sparkと聞くと、かつてMicrosoftがリリースしていた“ゲーム開発ゲーム”のことを思い出す人もいるかもしれない(参考記事)。しかし、今回のProject Sparkはそれとは別物で、強力なNPUを搭載する「Copilot+ PC」上で動作する次世代教育アプリとなる。

Microsoftが公開している「Project Spark」のイメージ動画

 YouTubeでも公開されているティーザー動画を元にした説明によると、このアプリは教員のPC上に蓄積された教材や指定された信頼できるインターネット上の情報源を参照し、指定した科目やテーマに応じて生徒向けのテキストやドリルを生成できるという。

 宮崎氏は「このツールにより、先生は短時間で生徒ごとに個別最適化された教材を提供できる。生徒はドリルに回答したり、自分の結果を振り返ったりしながら、インタラクティブに楽しく学習を進められる」と説明する。Project Sparkに盛り込まれる機能は、Microsoft 365のアカデミックライセンス保有者には無償で提供される予定だ。

Project Spart Project Sparkは教員が学習教材をオンデバイスAIで作成できるツールだ

 クロージングで宮崎氏は「Future Ready Skillsとは、何歳になっても学び続けること」と定義。「教育現場において先生が幸せになっていただかなければ、子どもたちの幸せは実現できない。我々大人が幸せで、学び続けることが楽しいということを子どもたちに見せること、それこそが日本の教育や日本の未来を作る」と締めくくった。

教育変革を支える2つのビジョン

 2つの講演を通じて、Googleと日本マイクロソフトは共に生成AIを活用した教育の未来に向けた強いコミットメントを示した。Googleは「Gemini」と「NotebookLM」を、日本マイクロソフトは「Copilot」と「Project Spark」という独自の生成AIソリューションで、子どもたちの学びと教員の働き方改革を支援する姿勢を明確にしている。

 両社は単なる技術導入にとどまらず、AIスキルの必要性や未来に備える力の育成など、社会変化を見据えた教育の在り方を提案している点もポイントだ。Next GIGAを迎えて、教育現場におけるAI活用はますます加速していくことだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年10月24日 更新
  1. “置き場所に困る”大容量ポタ電の壁を打破! 冷蔵庫を3日動かすEcoFlow「DELTA Gen4」シリーズが日本上陸 (2026年10月23日)
  2. 若者向けのカラフルな新「Dell 14S」が日本上陸 11月1日まで4.5万円引きの14万9800円から (2026年10月22日)
  3. FCCLが「FMV Keyboard X」の一般販売を開始 ハイスペックマウス「FMV Mouse X」も同時発売 (2026年10月22日)
  4. 折りたたみ型から薄型まで! スマホやタブレットで“本気”の文字入力に使える持ち運び用キーボードを選ぶコツ (2026年10月23日)
  5. 「Galaxy Watch9」を1週間使って分かったこと Pixel Watchと比べた使い勝手は? (2026年10月23日)
  6. 「iPhone Duo」を1週間使って分かった、全部盛りではない“上質さ” 心地いい開閉ヒンジの内部を見るために“非破壊検査”してみた (2026年10月21日)
  7. 天空が12月25日に発売する「GPD WIN Max 3」国内正規版 実機に触れてきた (2026年10月23日)
  8. 約22万円の新型「Mac mini」で初めてのローカルAI体験 ストレージの価格高騰対策にピッタリかも (2026年10月20日)
  9. スマホは「バッグの中」から「外」へ AULUMUのスリングバッグ2種で移動時のプチストレスを解消した (2026年10月22日)
  10. PFUから33万円キーボード「HHKB Professional Elite」登場! 英語配列のみで有線特化の“原点回帰” 全世界300台限定 (2026年10月22日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー