家電量販店のPC売り場を見ていると、QualcommのSoC「Snapdragon Xシリーズ」を搭載するWindowsノートPCが徐々に存在感を増している。スマートフォン/タブレット向けSoC「Snapdragonシリーズ」から派生して生まれたこともあり、Snapdragon Xシリーズを搭載するノートPCは「バッテリー駆動時のパフォーマンス低下が少ない」「バッテリー駆動時間が比較的長い」といった特徴を備えている。
一方で、Snapdragon XシリーズのCPUコアは「Armアーキテクチャ」ベースで、IntelやAMDが採用する「x86アーキテクチャ」との互換性を有しない。しかし、Qualcommによるとグローバルにおける利用者数でトップ100のWindowsアプリは全て、トップ200まで広げても99%以上のアプリはSnapdragon Xシリーズで稼働するという。
これはArmアーキテクチャにネイティブ対応するアプリが増えていることと、Armアーキテクチャ向けのWindows 11(以下「Arm版Windows 11」)に搭載されているx86/x64エミュレーターの“でき”が良いことが奏功した結果……なのだが、よくよく見てみるとArmアーキテクチャでは稼働しない、あるいは機能面で無視できない制約のあるアプリも存在する。
この問題について、Qualcommはどう考えているのか――クアルコムジャパンが7月8日に開催した記者向け説明会において、クアルコムCDMAテクノロジーズの井田晶也氏(クライアントPC事業統括)が説明する場面があったので紹介したい。
Snapdragon Xシリーズは、最上位の「Snapdragon X Elite」から展開を開始し、そこからラインアップをエントリー方面(Snapdragon X)に広げていくという戦略を取った。エントリークラスの製品も含めて、NPUのピーク性能を45TOPS(毎秒45兆回)にそろえていることが強みだ
7月8日の説明会に登壇したクアルコムCDMAテクノロジーズの井田晶也氏。同氏はインテル(Intelの日本法人)の副社長やサードウェーブの社長を歴任した後、この4月にクアルコムCDMAテクノロジーズへと入社したQualcommの説明にもある通り、Arm版Windows 11において動かないアプリは“少数派”だ。筆者は普段Snapdragon X Eliteを搭載する「Surface Pro(第11世代)」を使っているが、動かないアプリは思っている以上に少ない。アンチチートツールを使わない限り、低〜中負荷のゲームなら意外と遊べてしまう。
Arm版Windows 11で稼働するアプリは思っている以上に多い。グローバルでよく使われるアプリについてはArmネイティブ化も進んでいて、Qualcommによると時間ベースで93%はArmネイティブアプリを使う状況だというしかし、非対応または利用に制限のある“少ない”アプリの存在が、日本ではSnapdragon Xシリーズ搭載PCを普及させる上で阻害要因となりうる。
その典型例が日本語入力で欠かせない「IME(文字入力アプリ)」だ。Armネイティブのアプリと組み合わせて日本語文字入力を行えるIMEは、OS標準の「Microsoft Japanese IME」しか存在しない。
ジャストシステムのIME「ATOK」の場合、Arm版Windows 11にインストールすることは可能で、x86/x64アプリや「Arm64EC」を使ってビルドされたアプリでは日本語入力を行える。しかし、完全にArmネイティブなアプリでは動作しないのだ。
加えて、ソフトウェアによる「仮想デバイス」を利用するアプリもArmアーキテクチャでは動作しない。その典型例がEpic Gamesのアンチチートツール「Easy Anti-Cheat」だったが、最近同社がArmネイティブ版の投入を表明したため、アンチチートツール回りの問題は徐々に解消していくものと思われる。
著作権保護に仮想デバイスを利用しているDTCP-IPによる著作権保護に対応するDLNAクライアントアプリも、Arm版Windows 11では動作しない。こちらは、問題解消に向けた動きが見受けられない。
ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ製のクライアントアプリ「PC TV Plus」は、著作権保護のチェックに仮想ドライバを使っている。x86/x64エミュレーターにデバイスドライバに対するエミュレーション機能がないこともあり、Arm版Windows 11ではアプリの起動こそ可能だが、著作権保護フラグの立ったTV番組を再生できない上記に挙げた「IME」と「DTCP-IP対応DLNAクライアント」の例は、事実上たった1カ国(日本)でしか使われないアプリの問題だ。しかし、日本市場では、そのアプリが使えるかどうかが死活問題となりうる。
この問題について、日本のクアルコムはどう考えているのだろうか。記者と井田氏のやりとりを抜粋したい(一部体裁を整えている)。
―― 先ほど(アプリ対応率)はグローバルでの話をしていましたが、各国においてローカルで使われているアプリでは(Snapdragon Xシリーズに)非対応なものが多いように見受けられます。日本ではジャストシステムの「ATOK」が典型例で、(使えないという事実が)かなり大きな問題だと思います。このようなローカルアプリについて、対応に向けてローカルのISV(ソフトウェア開発者)支援するといった取り組みはしないのでしょうか。
井田氏 ご指摘のATOKを含めて、ローカルアプリにおける(Snapdragon Xシリーズへの)対応が遅れていることは事実です。現在、私どものチームとローカルISVの皆さんとでディスカッション(対話)を進めているところで、できるだけ早期に対応できるように努力しています。
私から「このアプリはいつまでに対応しますよ」という話はできませんが、いくつかの未対応アプリについてはポジティブな形で話が進んでいます。近日中に“グッドニュース”として発表できるようにしたいです。
クアルコムも、ATOKを始めとして“存在感のある”ローカルアプリへの対応は急務であると考えているようだ。
Webメディアや雑誌/書籍の執筆に関わっている人、あるいは企業広報に携わっている人の中には、利用する辞書の関係でATOK以外のIMEを使うことが難しいという人も少なくない。筆者もその1人だったりするわけだが、「ArmネイティブアプリでATOKが使えない」という事実が、Snapdragon Xシリーズ搭載PCを仕事で使う際に“最大の障壁”となっている。
Arm版Windows 11でATOKやDTCP-IP対応DLNAクライアントが使える日は来るのか――朗報を待ちたい。
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