スパコン「富岳」×モーションキャプチャで見えた金メダルへの「空気のつかみ方」(2/2 ページ)

» 2026年02月08日 06時00分 公開
[大河原克行,ITmedia]
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見えてきた世界で戦える4つの動作スタイル

 Aの動作スタイルは、飛び出した直後に身体を伸展し、身体全体を前傾させるという独特のもので、小林陵侑選手の動作スタイルが含まれるそうだ。体幹を起立させ、短時間にフライト姿勢を作ることから「起立ブースト」と名付けた。また、「小林陵侑選手の空力特性を分析すると、揚力獲得型になる」とも述べた。

 Bは、体幹の前傾を極力維持しながらフライト姿勢を取るもので、二階堂蓮選手がこれにあたり、「前傾ニー・ブースト」と呼んでいる。二階堂蓮選手の空力特性の分析では、揚力値が低いものの抗力値も低く抑えており、「抗力抑制型」と位置付けた。

 Cはバランス型と呼び、伊藤有希選手の動作スタイルとなる。膝関節の屈曲が深い位置にあり、体幹の前傾を維持した姿勢になっているという。AやBに比べ、フライト姿勢を作るまでに時間をかけていることから「前傾スムーズ移行」と呼んでいる。空力特性については「バランス型」とした。

 そして、Dには高梨沙羅選手の動作スタイルが含まれる。飛び出した直後に体幹が一度起立し、その後に前傾になるというものだ。「起立→前傾スムーズ移行」と名付けた。

ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック メダル スキージャンプ 富岳 スパコン 富岳を使って動作スタイルを分類

 A〜Dまでの4つの動作スタイルでは90mを超えるジャンプが多くみられる一方、E〜Gまでの動作スタイルでは90m以下のジャンプが多く、「A〜Dまでの4つが世界で戦える動作スタイルと考えている。今後はFスタイルのジャンパーの育成において、Cスタイルを目指すのか、Dスタイルを目指すのかといった指導にも応用できるようになるだろう」とした。

ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック メダル スキージャンプ 富岳 スパコン 7つに分類された動作スタイルのうち、世界で戦える飛距離を出せるのはA〜Dの4つの動作スタイルだったという

 今回の調査対象となった選手のデータを分析したところ、シニア国際レベルの選手では男性ではAスタイルが最も多く、BとCを合わせるとほとんどを占める一方、女性ではCとDの2つのスタイルが多く、AおよびBは全くないという結果になった。また、ジュニア国際レベルの男性選手の全てがCスタイルだったという。

 今回のプロジェクトへの取り組みを通じて、北翔大学の山本教授は、「サンプル数を増やすことで統計的な信頼性と一般化可能性を高めたり、飛行スタイルのより細かな分類を進めたりしたい。現時点ではテイクオフ後から0.2秒間という短い時間を解析しただけであり、今後は助走から着地までを解析し、ジャンプ全体のパフォーマンスを強化できるようにしたい」と述べた。

 また、空力特性評価については、姿勢の微小変化、非定常効果、乱流モデルの違いなど、より高精度の解析が必要であること、ジャンプの成否の差異を比較して、パフォーマンスの安定性や再現性の要因を明らかにすることにもつなげたいとしている。

ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック メダル スキージャンプ 富岳 スパコン 空力特性評価

 理研 R-CCS 複雑現象統一的解法研究チーム チームプリンシパル兼神戸大学大学院システム情報学研究科 教授の坪倉誠さんは、「同じ動作スタイルでも、わずかな姿勢の違いで成功したり、失敗したりする。小林陵侑選手は、体幹が起立するため抵抗が大きくなり、一見不利に見えるが、そこを犠牲にしながらも下肢をダイナミックに動かすことで距離を稼いでいる。

 また、同じ飛び方をしても下肢の動かし方の速度が違うと距離にはつながらないということも発生する。同じ選手でも飛び方の少しの違いで距離に影響する。選手の体力/体格/関節の強さなどの違いによって、適しているスタイルがあるのではないかとも考えている。

 動作のメリットなどについては慎重に分析していく必要がある一方で、力学として可視化したものを、ジャンパーに分かりやすい言葉で伝える必要もある。その点では、選手だけでなくコーチを始めとした指導者との連携も必要になる」とまとめた。

ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック メダル スキージャンプ 富岳 スパコン 理研 R-CCS 複雑現象統一的解法研究チーム チームプリンシパル兼神戸大学大学院システム情報学研究科 教授の坪倉誠さん

 なお、同プロジェクトは、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究「スキージャンプ選手の空力特性を個別解析するためのフレームワークの構築」、「スキージャンプのテイクオフ動作における運動学的・空気力学的成功要因の解明」による助成を受けている。

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