45gの押下圧は、HHKBが守り続けてきたこだわり――ということではあるが、個人的には「あ、そこがこだわりだったんだ」という思いの方が強い。
もともとメンブレン方式だったHHKBが、静電容量無接点方式スイッチを採用したのは2003年だ。それまでの「タイプ感のREALFORCE、レイアウトのHHKB」という位置付けが、ノーマルレイアウトのREALFORCEに対して、こだわりレイアウトのHHKBに変わったという印象を持っている。
しかも、45gはキーボード界全体においても1つの標準として落ち着きつつあり、特にこだわらなければ45gを選択するのではないか、と感じるのだ。
30gという押下圧そのものは、実のところ目新しいものではない。ユーザー自身がラバードームを交換して、より軽量なキー荷重へ変えるMODは以前から行われてきた。HHKBに並ぶ国産高級キーボードの雄である東プレのREALFORCEも、人差し指や中指のキーは重め、小指で押すキーは軽めという変荷重モデルが長らく代名詞だった。
もっとも均等荷重のモデルも古くから併売されており、近年は重い55gを整理して、標準の45gと軽量の30gを軸とするラインアップへ落ち着いている。
しかし、同じ30g、同じ静電容量無接点方式でも、REALFORCEとHHKBでは驚くほどそのフィーリングが異なる。
REALFORCEはキーの数も多く、机にどっしりと据えて使うオーソドックスな安定感が持ち味だ。対するHHKBは、60キーの狭い範囲に指を構え、最小限の動きで打っていく。いや、打つというよりは「なでる」に近いかもしれない。
跳ね返りが薄い分、指があまりキーから離れないということもあるのか、気が付くとなで回すようなタイピングになっていた(気色悪い描写で申し訳ないが)。この心地よさは、同じHHKBでも45gにはない特有のものだ。
HHKBらしさとは、「45gにこだわる」よりも「変わらない」ことを選択してきたことだと感じている。
カウボーイが馬を変えても鞍を使い続けるように、生涯使えるキーボードを、という思想がHHKBにはあるが、馬と異なり、PCは年々進化していく。それに応えるように、HHKBも内部的にはUSB Type-CやBluetoothのハイブリッド接続、キーマッピングの変更など、高級キーボードのトレンドをしっかり押さえたスペックへと変化している。
セールス的な観点から言えば、消費者には適当なところで買い換えてほしいはずだ。前述のようなPCの進化による買い替え需要はあるだろうが、何しろHHKBは鞍なみに丈夫なのだ。
であれば、さまざまなバリエーションを用意して、「今度はこっちにしてみようか」という選択肢を増やす方向にかじを切るのも1つの手だろう。だが、HHKBはそうはならなかった。むしろ、前モデルでClassicとHYBRIDの2系統にラインアップをまとめているほどだ。
変わらないことがポリシーだからこそ、30gの押下圧というのは30周年モデルというタイミングでしか出なかったものなのではないかな、という気もしている。言ってみれば、いつも同じ服装、同じ髪型をポリシーとする人が、誕生日という節目に思い切ったイメチェンをしたようなものだ。
このアニバーサリーモデルが、今後通常モデルに追加されるのかどうかは現時点で分からない。Controlキーとキープラーを除けば違いはラバードームのみだから、前例となる雪よりは、はるかに通常製品化のハードルは低いはずだ。
今買わなければ、もう手に入らないのかもしれない、でも売れれば今じゃなくても買えるかもしれない――そのジレンマを打ち破る理由として、赤いControlキーと通常モデルとの約3000円の価格差をどう考えるか。
悩ましい命題ではあるが、30gのHHKBには45gのバリエーション以上の違いがあることは間違いない。
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