携帯電話メーカーに対して“逆風”が吹いている。
ワンセグや番号ポータビリティ制度(MNP)の開始といった「特需」が一巡し、端末買い替えのニーズが減退。さらに各キャリアが導入した新販売方式によって利用者の買い替えサイクルも伸びて、携帯電話販売市場は過去に類をみないほどの縮小基調にある。MM総研の調査によると、2008年度の国内出荷台数は前年同期比29.3%減の3589万台だという。
市場が冷え込み、さらにAppleやHTCなど海外メーカーが勢力を伸ばす中、国内の携帯電話メーカーは生き残りをかけてどのように戦うのか。
シャープ 執行役員 通信システム事業本部長である大畠昌巳氏に、国内携帯電話市場の今後と、シャープの戦略について話を聞いた。
ITmedia(聞き手:神尾寿) 大畠さんはMebiusやZaurus、W-ZERO3シリーズやSidekickなどのプロジェクトを手がけ、直近では中国事業の拡大に貢献した後、今年4月から国内携帯電話市場のトップに就任されました。幅広い経験と視野をお持ちなわけですけれども、その大畠さんの目に、国内の携帯電話事業が置かれている現状はどのように映っているのでしょうか。
大畠氏 (私が)思っていた以上に状況が厳しくなっています。率直に、そう感じました。3年くらい前の国内携帯電話市場は、番号ポータビリティ制度による追い風もあり、ハイエンドモデルを中心によく売れていました。(販売奨励金による端末値下げ減資により)半年くらいすればハイエンドモデルが多くの人にとって買いやすくなりましたので、高性能で“いいモノ”を作れば、すぐ売れる――という恵まれた市場環境でした。
しかし、この1年の状況を見ますと、我々メーカーが“いいモノ”を出しても、必ずしも売れるとは限らない。端末の販売価格が長期にわたり高止まりしますので、とりわけハイエンドモデルの売れ行きには逆風が吹いています。こうした市場の潮目が変わることは我々も予想はしていましたが、想定以上のスピードで環境が変わってしまったのです。
ITmedia 2008年からの端末販売不振には、携帯電話業界内の構造的な市場環境変化に加えて、金融界を震源地とした世界同時不況という外的要因も加わりました。総販売数の落ち込みは、想定外だったと。
大畠氏 予想以上の悪化でした。そうした影響もあり、シャープも販売数とシェアを落としてしまいました。この市場環境の変化に対応できるように、今まさに大きく舵を切りなおしているところです。
ITmedia 国内市場の今後の見通しはいかがでしょうか。
大畠氏 2008年から2009年にかけて、国内の総販売数が改善するということはないでしょう。私は2009年が底であると考えています。
このような市場環境下で、今後の成長領域として開拓しなければならないのは「2台目需要」になるでしょう。例えば、先日もAppleの「iPhone 3GS」が発売されました。私自身もウィルコムの「W-ZERO3」シリーズを手がけましたが、(iPhoneやW-ZERO3といった)こういった端末を“1台目の、唯一の携帯電話”として使う人はほとんどいません。ほとんどが2台目需要です。こういった2台目の新しい需要を創出していく必要があります。
ITmedia 直近の市場環境の変化を鑑みますと、とりわけ縮退傾向が強いのがハイエンドモデルの市場です。ここは以前から「全部入り」としてシャープが強かった分野ですが、このセグメントが地盤沈下を起こしています。また、ワンセグ需要が一巡したことで、「AQUOSケータイ」におけるテレビ機能での優位性も、かつてほどの訴求力にならなくなっているように感じます。
大畠氏 おっしゃるとおり、2年前であれば「ワンセグに強い」ことが販売上の優位性になりました。日本のお客様は、とてもテレビが好きですから、液晶の品質の高さと画面が横向きになる「AQUOSケータイ」がブランドとして強い訴求力になったのですね。しかし、ワンセグ需要が一巡したことで、新たな訴求力が必要になっています。そこで我々が注力したのが「カメラ」です。
ITmedia シャープは「J-SH04」で世界初のカメラ内蔵携帯電話を発売していますし、カメラへの注力は“原点回帰”ともいえますね。
大畠氏 ええ。それに我々の強みが出しやすい。それは何かというと、デバイスから垂直統合で開発・投入できるという点です。我々はデジタルカメラ用のCCDを製造していますので、こうしたデバイス開発で強みを持つ優位性を生かして1000万画素のCCDを内蔵し、シャープの新たな携帯カメラのブランドとして「AQUOS SHOT」を立ち上げしました。
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