「空間を理解するAR」が到来する?――見えてきたARの課題と次の姿:「AR Commons Summer Bash 2010」リポート【1】(1/2 ページ)

» 2010年08月03日 11時29分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo AR CommonsはARの産業化や普及について話し合う任意団体。運営は、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の岩渕潤子教授(写真)をはじめ、ARサービス関係者をはじめとした会員らが支えている

 ITを駆使して現実環境に情報を重ね合わせるAR(拡張現実)は、2009年ごろからスマートフォン向けサービスが複数登場したことをきっかけに注目を集めている。日本ではベンチャー企業の頓智ドットが開発したアプリ「セカイカメラ」がブームを牽引。KDDIがauケータイ向けに「セカイカメラZOOM(実空間透視ケータイ)」を発表し、NTTドコモも冬モデルのPRIMEシリーズ全機種でAR機能に対応することを明かすなど、今後もさまざまな進展が予想される分野だ。

 一方で、モバイルARの技術やサービスはまだまだ成熟しておらず、利用者を継続的に得るには乗り越えるべき課題がある。7月28日にAR Commons、内田洋行、アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所が主催した「AR Commons Summer Bash 2010」では、こうしたARの問題点や、ARの表現をより高度にする技術の進化が語られた。

空間を認識する次の技術 そして「見える」から「分かる」へ

photo アルバート・キムCEO

 「ARで重要なのは、コンピューター自体が風景を理解していること」――そう話すのは、Zenitumのアルバート・キムCEOだ。Zenitumは韓国でモバイルゲームやARサービスを展開する企業であり、画像認識によるモバイルARを研究している。

 現在、モバイルARはGPSや6軸センサーなどを使った“位置情報型AR”が主流だが、位置の精度に限界があり、ビルや看板といった対象物とARコンテンツをピッタリとマッチさせるのは難しい。特定の画像マーカー上にARコンテンツを出現させる“マーカー型AR”も存在するが、ありとあらゆる物体にマーカーを貼り付けるわけにはいかない。

 こうした中で注目されているのがマーカーを用いない画像認識型AR技術であり、Zenitumも同分野に注力している。その成果の1つが、zFT(Zenitum Feature Tracker)と呼ばれるARエンジンだ。zFTでは、AR表現を付加したい対象物のテクスチャーをあらかじめ登録しておくことで、ポスターやイラストなど街中に普通にある対象物をトリガーにしたARが可能になる。対象物が半分程度隠れているような状態でも、認識できるという点もポイントだ。


photophoto zFTを使ったAndroidアプリ「Space InvadAR」。地球が描かれたポスターにカメラをかざすと、ゲームタイトルに続いて地球が立体的に浮かび上がり、ARシューティングゲームが始まる

 また、さらに一歩進んだ技術として、3次元空間の認識技術であるPTAMをベースにしたD-Track(Depth Tracking Engine)というARエンジンも手掛けている。こちらの特徴は「あらかじめ対象物を登録することなく空間を把握する」という点。不特定多数の環境で、ARキャラクターを卓上で歩かせたり、壁にぶつからないようにしたりと、リアルなAR表現ができるようになる。

photophoto D-Trackのデモ。空間の特徴点を探しだし、面の上にARキャラクターを自然に配置する
photo

 こうした画像認識、空間認識の技術と位置情報を組み合わせれば、モバイルARの表現力はさらに高まるとキム氏はみている。また、画像から対象を認識することで、対象物のコンテキストに合ったコンテンツを提供できるとも考えているようだ。例えば目の前にあるトルストイの絵にカメラをかざせば、トルストイの絵そのものをカメラが認識し、トルストイの生きた時代や作品に関する情報を利用者に与える――そんなサービスが、同氏の見すえるARの将来だという。

 ARというと、キャラクターなどが飛び出す視覚的なインパクトが注目されがちだが、「ARで重要なのは“見えること”ではなく“理解できる”ことだ」とキム氏は指摘する。目に見えるものが隠し持っている価値ある情報を利用者が理解できることが、ARのあるべき姿であり、位置情報型ARはまだこうした価値を提供できていないと同氏は考えている。



photo 今回のイベントには、KDDI研究所でARサービスの開発に携わる小林亜令氏も出席。同社の取り組みを説明した

 こうしたキム氏の問題提起を踏まえた上で、筆者が注目しているのが、KDDI研究所のAR研究だ。同社はauケータイ向けの位置情報型ARサービスとしてセカイカメラZOOMを提供しているが、先般の「ワイヤレスジャパン2010」では、位置情報と画像認識とを組み合わせた新しいサービス像を披露していた。

 詳しくは別記事に譲るが、その仕組みは、まずGPSで現在地を割り出し、その場に関連するARコンテンツをメタデータとしてダウンロードする。そして看板などの矩形オブジェクトにカメラをかざした瞬間、色などの特徴から対応するARコンテンツを判別し、表示するというものだ。デモを体験すると、アーティストの看板にカメラをかざせば音楽が流れ、洋服の看板にかざせばECサイトにリンクするといった、“かざせば分かる”という快感があった。同社の研究が実れば、モバイルARの体験性がより豊かになると筆者は感じている。


photophoto ワイヤレスジャパンでの開発版セカイカメラZOOMのデモ。看板にカメラを向けると、瞬時にARコンテンツがポップアップ。ARコンテンツを選択すると、かざした商品のWebサイトやECサイトへ遷移するサービス像が提示されていた
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