町の文房具屋から、年商30億円企業へ――山崎文栄堂を変えた“徹底ルール”全社員がiPhoneを活用(1/2 ページ)

» 2010年08月19日 10時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 青山学院大学にほど近い、国道246号に面した交差点の角に、「渋谷区渋谷四丁目五番五号」という看板を掲げた小さなビルがある。これが、従業員約30人で年商30億円を稼ぐ山崎文栄堂のオフィスだ。

 山崎文栄堂は終戦直後、町の文房具屋として創業。長年“学校前の文具店”として営業してきたが、大規模店やオンラインショップの台頭、ITの普及などの影響で、次第に経営が悪化。こうした厳しい時期に社長を継いだのが、3代目の山崎登氏だった。

 事業の立て直しを支えたのは、新たにスタートした文具通販大手アスクルのエージェント(販売取扱店)事業だが、それを軌道に乗せるために行った山崎氏の社内改革も注目に値する。山崎氏は、危機的状況にあった会社をどうやって“年商30億円規模”に成長させたのか。モバイルなどのIT活用も含めた取り組みについて山崎氏に聞いた。

Photo 山崎文栄堂の今(左)と昔(右)。昭和30年代に文房具店として創業した同社は、オフィスと人の環境整備をサポートする企業へと生まれ変わった

ポイント1:何事も全員で徹底してやる

Photo 山崎文栄堂 代表取締役社長の山崎登氏

 「中小企業にとって大事なことは、徹底すること。やったりやらなかったりするようではだめ」――。これが、山崎氏の社内改革のポイントだ。約30人という小規模な企業では、“あの人はやるけれど、あの人はやっていない”という不公平が社内の士気をさげるという。そのため山崎文栄堂では、掃除からIT活用にいたるまで“全員で徹底してやる”ことをルールにしている。

 例えば同社は毎日の朝礼後の30分、全員でオフィスの清掃を行っている。全社員をチームに分け、受け持ちを決めて実施。この結果が賞与にも影響するので、チーム全員が協力して行わねばならず、結果としてチームワークの向上にも役立つ。フリーアドレス制も導入し、社員は業務の多寡にかかわらず、自分のロッカーに入る必要最低限の資料しか持たないようになった。

 IT活用も徹底している。同社では毎月、日を決めて全員のサイボウズOfficeのスケジュールをチェックしている。社員には、何らかの予定を10日分入力することが義務づけられており、予定が埋まっているかどうかを確認するのだ。予定を入れていない人に対する罰則が決められているため、社員はサイボウズのスケジュール機能を使うようになる。

 「むりやりでもいいからスケジュールを入力させるようにして、全員が“予定を入れるのがあたりまえ”になるまでやる。そうすれば、社員は諦めて使うようになり、全員が使うようになればITが生きてくる。さらに全員が社長のスケジュールを監視するようにもなってくる(笑)」(山崎氏)

Photo 細かい点検項目が並ぶ、山崎文栄堂の環境チェックシート。オフィスが整理されていることで、必要な情報にアクセスしやすくなる

ポイント2:使いやすいツールを長く使う

Photo 山崎文栄堂 営業本部長の若狹謙治氏

 「ITの活用も掃除と同じ。一部の人がやらないなら、全員やらない方がいい。でも全員でやれば、それがいかに生産性を向上させるかを実感できるはず。そうやって一つ徹底したら、次をやる」――。これが山崎氏の方針だ。

 しかし、ただペナルティを決めて強制するだけでは、うまくいくはずもない。全員が使うようにするために、ITツールは「全員が使える使いやすいものを採用し、いったん導入したら長く使い続ける」(山崎氏)のがポイントだ。

 例えば1年ほど前には、それまで社員ごとに異なっていたメールクライアントをGmailに統一した。既存のメール環境から移行する際、ある週末に講習会を開き、翌週月曜から全員が使うよう指示。「使わないと罰金100円」というルールもあって、全員が使うようになったというが、使いづらいツールではこうはいかなかったはずだ。

 同社はまた、Gmailとほぼ同じ時期にiPhoneを導入。当初は幹部全員と希望する社員に支給したが、今では全社員が使っている。まだ、試験的に導入している段階だが、Google マップや営業訪問履歴入力を手軽に使えることで外回り担当社員の時間の使い方が大きく変わるなど、すでに効果が表れ始めているという。

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