高さ4メートル分のカタログをiPadに、情報共有で営業力向上も――iPad 6000台導入のLIXILSoftBank World 2012

» 2012年07月12日 15時00分 公開
[日高彰,ITmedia]
Photo LIXIL代表取締役上席副社長・LIXILジャパンカンパニー社長の大竹俊夫氏

 「SoftBank World 2012」の基調講演では、iPadを大規模導入したユーザー企業として、建材・住宅設備を取り扱うLIXILの事例が紹介された。

 同社はトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が2011年4月に合併して誕生した企業で、持株会社LIXILグループの傘下企業全体で従業員数約6万5000人、売上高約1兆3000億円に上る業界最大手だ。同社代表取締役上席副社長の大竹俊夫氏は、5社統合の目的を果たすため行った営業体制の改革に、iPadが大きな役割を果たしたと説明する。

iPadの導入で「即答・即対応」の営業スタイルを実現

 現在、同社国内営業部門であるLIXILジャパンカンパニーの社長を務める大竹氏は、5社の統合前まではサッシ最大手トステムの社長だった。大竹氏はトステム時代の2010年に「小さい本社・強い現場」を掲げた経営改革を実施しており、iPadはそのときに初めて導入された。

 人口や経済環境の変化に伴い、国内では住宅の着工が減少しているが、情報化によって顧客のニーズはより多様化している。また、住宅業界では新規着工に代わってリフォームの市場が成長するなど、ビジネスの潮流自体が変わりつつもあった。このような環境の中でトステムが収益を上げていくには、経営の意思決定スピードを上げるとともに、できるだけ顧客に近いところに権限と責任を委譲し、営業現場での対応力を高める必要があった。

 とはいえ、建材メーカーの営業担当者が取り扱う商品数は膨大であり、顧客からの問い合わせや要望にはすぐに応えられないことも多い。そこで、1人1人の営業担当者の情報力を高めるために行ったのが「現場におけるデジタルの力の活用」(大竹氏)、すなわちiPadの導入である。

 2010年10月、まずは一部地区の担当者40人にiPadを配布し、2カ月間の効果検証を行った。車を使わなければ現場に持ち込めないほど大量のカタログを電子化してiPadに搭載したほか、その場でバックヤードに注文を伝達できるワークフローを導入。これにより、顧客からの全ての問い合わせの9割が現場で「即答」できるようになり、バックヤードへの連絡も87%が「即対応」となった。

 1人1日あたりの営業時間を37分(8%)増やせるという時間創出効果や、カタログコストの削減もほぼ確実に行えることなどが確認できたことから、トステムの全営業担当者へのiPad配布を決定し、同年12月には2000台規模の導入に至った。

Photo iPadの導入で「即答」「即対応」の営業スタイルを確立

 ノートPCやスマートフォンではなく、なぜタブレット型デバイスを選択したのかについて大竹氏は、起動の速さや操作性のよさ、1つの画面を顧客と同時に見られるスクリーンサイズ、丸1日の動作が可能なバッテリー駆動時間などを挙げる。

 「(機器の選定にあたっては)あくまでも現場の利用を想定した。営業が現場で使いやすいものでなければならない。『使ってみなきゃ分からん』ということで、私自身が使ってみてニーズに対応できるかを確認し、『できる』という認識の下に進めた」(大竹氏)

Photo PCやスマートフォンよりも、より営業の現場に適したデバイスとしてタブレットを選定した

厚さ4メートルのカタログをiPad1台で

 トステム時代にツールとしての効果が実証できたiPadは、規模を拡大する形で経営統合後のLIXILでも採用され、導入の意義はそれまで以上に大きいものとなった。

 単独でも大きな事業規模の5社が統合して目指すのは、家1棟を建てるにあたって求められるあらゆる建材・住宅設備を「トータルハウジングソリューション」として提供できるベンダーだ。実際に、サッシ、システムキッチン、バスルーム、タイル、シャッターなどさまざまなカテゴリでLIXILは高いシェアを獲得している。

 しかし、5社から集まった営業担当者が従来のやり方のまま営業活動を続けていては、自分がそれまで属していた社の商品しか扱うことができない。また、組織が一気に拡大したことにより、部門間の情報共有をどのようにして行い、営業現場から得られる顧客ニーズをいかに速く経営判断に反映させるかが課題となっていた。

 既にiPadの有用性が確認できていたため、LIXILでのiPad展開は即決で進められた。全営業担当者にiPadを行き渡らせるため3000台、またバックヤードの部門にも1000台をそれぞれ追加導入。トステム時代からのものも含めると、全社では現在約6000台のiPadが活用されていることになる。

 LIXILでも、最も分かりやすい効果が得られているのは商品カタログだ。5社統合後の取り扱い商品数はトステム単体の約3倍で、カタログを積み上げるとその高さは実に4メートルに達するという。「これをライトバンに積み込んで出かけていた」(大竹氏)。

 電子化により、持ち運びの負担が軽減され、カタログ制作のコストも大幅に軽減できたと大竹氏は振り返る。また、カタログ更新に自動化が可能になったことから、商品情報の管理の手間もかからなくなった。大竹氏は「iPadを入れた経費の何倍も削減できた」と話し、現在はiPadで見ることを前提としたカタログ制作を行っているという。

Photo 持ち運ぶのに大変な労力がかかっていたカタログを電子化し、コストも48%削減

 また、物件の情報が営業担当者で共有されていないと、サッシの担当者は売り込みをかけているのに、キッチンの担当者は見込み物件の存在自体を把握していない――といった機会損失が生まれるため、物件情報の共有システムも構築。住宅の着工数が低い水準にとどまる中、把握物件数を1.2倍に増やすことができた。また、1人の担当者がどのカテゴリーの商品でも提案できるよう、9600件におよぶFAQを用意し、顧客からの問い合わせに対して3ステップ程度の操作で回答を引き出せるようにしているという。

Photo 営業先物件の情報を共有したことで把握物件数が1.2倍に

 さらに、iPadを利用して営業活動内容をその場で入力できる日報システムの導入で訪問件数を従来の1.7倍としたほか、iPadで受講できるEラーニングシステム「LIXIL SalesCollege」上に営業スキルを磨くための289講座を開設するなど、営業部門の業務をiPadがトータルでサポートする体制を整えている。

Photo 日報や教育など、営業部門のさまざまな業務をiPadがトータルでサポートする体制を構築

 現在では社内のiPad向けに8アプリ、6100コンテンツを用意しているということだが、大竹氏は今後、顧客の求める住宅のイメージをiPad上でビジュアル化できるアプリなども開発していく意向を明らかにした。また、顧客の声と経営の距離を縮めるとともに、“家1棟分のトータル提案”という経営方針を実現するため、社内だけではなく販売代理店などからもiPad対応の業務ソリューションを利用できるようシステムを拡充していく方針だ。

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