第4回 HTML5の指し示す未来なぜ今、HTML5なのか――モバイルビジネスに与えるインパクトを読み解く(1/2 ページ)

» 2012年08月15日 10時00分 公開
[小林雅一(KDDI総研),ITmedia]
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 HTML5が抱える問題が解決へと向かう流れは、既に形成されつつある。それは主にブラウザの改良という形で現れている。前述のようなWebアプリの様々な問題は、見方を変えれば「ブラウザの問題」と言い換えることができる。なぜならWebアプリとはブラウザの様々な機能を使って実現されたアプリ、あるいはブラウザを構成する各種部品(技術)を使って実現されたアプリであるからだ。

 例えばWebアプリではスマートフォン内蔵のカメラやセンサーを操作できないが、これは「Safari」や「Android付属ブラウザ」など、現在の主要ブラウザにそうした内蔵部品を操作する機能が備わっていないためだ。

 しかしHTML5の仕様には、本来、モバイル端末の内蔵部品を操作する「Device API」と呼ばれる機能が用意されている。先頃Mozillaがリリースした「Android版Firefox」や、Opera Softwareの「Opera Mobile 12」など、HTML5対応が進んでいる一部ブラウザではDevice APIが既に実装されている。つまり、これらのブラウザ上であれば、現在でもWebアプリから端末内蔵部品を操作できる。

ブラウザのHTML5対応で葛藤するAppleとGoogle

 問題は(iPhoneやiPadに搭載されている)SafariやAndroid付属ブラウザなど、多くのユーザーを抱えている主要モバイルブラウザには(少なくとも現時点では)Device APIが実装されていないことだ。なぜAppleやGoogleはそうした対応をとっているのだろうか? それは両社がそれぞれ、iOSやAndroidなど各社固有のプラットフォームを守るためだ。つまりWebアプリの性能や機能があまりに向上してしまうと、せっかくiOSやAndroidで囲い込んだユーザーをHTML5というオープンプラットフォームに奪われてしまう。だから敢えて、ブラウザの仕様を低目に抑えて、Webアプリをネイティブアプリよりも若干劣るような状態にしておく。そうIT業界の関係者は見ている。

 これは若干うがった見方だが、当たらずと言えども遠からずであろう。が、いずれ、こうした状況は打開される。なぜなら当のAppleとGoogleが競合関係にあるからだ。スマートフォンやタブレットに搭載されるブラウザはユーザーがしばしば使う機能であるため、AppleとGoogleがモバイル市場で競合する上で、最も重要な要素となってくる。従って両者は互いに相手を出し抜く上で、今後、モバイルブラウザの改良を図らざるを得ない。いつまでもSafariやAndroid付属ブラウザの仕様を、現在のように中途半端な状態にしておくわけにはいかないのだ。

 例えばDevice APIにしても、AppleないしはGoogleが自社製ブラウザにこれを実装するのは時間の問題であって、仮に両者のどちらかがそれをやった途端に、もう一方もこれに対抗して同じことをやらざるを得ない。以上の点から見て、そう遠くない将来、Webアプリからもスマートフォンのカメラなど内蔵部品を操作できるようになるのは間違いない。

OSとブラウザは一体化する

 こうした改良は、実はW3CやGoogleを中心とするIT業界が企てている、もっと遠大な計画の端緒に過ぎない。その計画とは、これまでMicrosoftのWindowsで培われたOSベースの情報処理から、クラウドベースの情報処理へとコンピューティングパラダイムを完全に転換することだ。

 これまでのクラウドコンピューティングの最大の問題は、オフライン、つまりインターネットから切断された状態では、(例えばGmailのような)Webアプリが使えなくなることだった。しかしHTML5に用意された「Web Storage」と呼ばれるAPI(機能)を使うと、アプリのコード(プログラム)やデータをモバイル端末のローカル記憶装置にキャッシュ(一時保存)できる。これによって地下鉄車内のように、電波の届かない場所でもWebアプリを使い続けることができる。

 これはブラウザの漸進的な改良というより、もっと本質的な進化である。つまり、これからのブラウザが事実上のOS(基本ソフト)になるということだ。これまでのWebページはインターネットとの接続を大前提としてきたが、HTML5によって制作される今後のWebアプリはスタンドアローン(オフライン)環境にある情報端末でも使うことができる。これは結局、Webアプリのプラットフォームであるブラウザが、OS的な位置づけへと昇格することを意味する。あるいは先述のDevice API(端末の内蔵部品にアクセスする機能)にしても、これまではOSの機能として実装されてきた。つまりHTML5によって、これまでOSとブラウザを隔てていた境界線が取り払われ、両者が一体化するのだ。

 そこへと向かう流れは、既に目に見える形で表れ始めている。Googleが2009年にリリースしたChrome OSはその先駆けだが、Mozillaが2011年に開発した「Firefox OS(開発コードネームはBoot to Gecko)」もOSとブラウザを一体化した基本ソフトである。さらにMicrosoftの「Windows 8」や「Windows Phone」も、ネイティブアプリと並んでWebアプリの開発・使用環境を標準的に装備するなど、明らかにOSとブラウザの境界線が曖昧になっている。

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