非化石価値を取引する2つの市場、その最新動向と今後の制度変更の見通し(5/5 ページ)

» 2023年09月20日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]
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非化石証書トラッキング対象の見直し

 現行のFIT制度では、以下の2つの場合においては、小売電気事業者は市場を介さずに特定のFIT電源から電気を調達することが可能である。

  • 2017年の全量送配電買取となる以前に小売事業者が義務的に買い取っていたものが継続している場合(小売買取。図9の3)
  • 一般送配電事業者が発電事業者から買い取った上で、契約に基づき、特定の小売事業者が供給先となる場合(特定卸供給。図9の2)

 よって、小売買取または特定卸供給の対象となっているFIT電源のトラッキング情報は、当該小売買取義務者または特定卸供給者に対してのみ付与されている。これら2つの存在により、希望する小売事業者へ任意にトラッキング情報を割当可能な量は、FIT証書全体の35%に留まっている。

図9.FIT証書トラッキング割当可能量(供給)の内訳 出典:制度検討作業部会

 そもそも非化石証書とは、電気の価値と環境価値を分離する制度である中、FIT電源の電気としての属性「情報」と、FIT証書に附随する非化石電源のトラッキング「情報」の関係について、今後検討を深める予定としている。

 また現在、原子力発電は再エネ指定のない非FIT証書として扱われているが、トラッキングの対象外とされている。これは、小売事業者からトラッキングの希望がなかったことが理由とされている。

 他方、今後は水素やアンモニアを燃料とした非化石火力発電が始まるなど、再エネ指定のない非FIT証書に対してもトラッキングのニーズが生じると見込まれる。このため、今後は再エネ指定のない非FIT証書についても、トラッキング対象とすることが提案されている。

 また現在、再エネ指定のある非FIT証書はトラッキング対象であるものの、事前に発電事業者がトラッキングを希望しない限り、トラッキング情報が付与されない。このため非FIT証書についても、今後は全量トラッキングを行う方向で、検討を深めていくこととする。

非化石証書に関する入札方法・約定ルールの見直し

 先述のように、小売事業者が非化石証書の入札時点で、トラッキング情報の希望を示すことが求められるようになる場合、電源種や電源所在地(県単位・市町村単位等)、運転開始後の年数等、どのような粒度で小売事業者が希望を出せるようにするか等を定める必要がある。

 これは非化石証書の入札方法や約定ルールなど、事業者の実務面についても、大きな変更が伴うものとなる。

 よって今後は、小売事業者や需要家の意見を聴取しつつ、市場参加者の利便性の向上や取引の効率性の確保等の観点から、検討を深めていく予定である。

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