連載
» 2009年04月20日 11時00分 公開

クリエイティブ・チョイス:いつの時代にも求められている「創造的な選択」

やるか、やらないか――、そんな二分法的思考から脱却し、第三の選択肢を模索する連載「クリエイティブ・チョイス」。この考え方自体は決して新しいものではありません。古代ギリシアのソクラテスの時代から、人間は二分法的思考を乗り越えよう試みて来たのです。

[堀内浩二,Business Media 誠]

連載「クリエイティブ・チョイス」について

 問題を「イエスかノーか」に絞り込んでしまってませんか?――。新連載「クリエイティブ・チョイス」は、選択肢以外の「第三の解」を創り出し、仕事や人生の選択において、満足度を高めることを考えます。4月23日発売の書籍『クリエイティブ・チョイス』から抜粋したもので、今回も序章からです。


 二分法的思考を乗り越えようとする試みは、もちろん古くからあります。古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、「対話」によって矛盾を超越するスタイルを確立しました。これはのちに「弁証法」という哲学の方法として発展します。

 ソクラテスの時代から2000年を経てなお、そのような思考の重要性は指摘され続けています。成功をめざす企業にとっても、成長をめざす個人にとっても、カギとなる思考とみなされています。実際、東西のベストセラーにおいて「創造的な選択」がどのように扱われているかをざっと眺めてみましょう。

ANDの才能(『ビジョナリー・カンパニー』)

 時の試練を超えて成長を続ける企業を選び出し、その成功原則を解き明かした『ビジョナリー・カンパニー』。著者のジェームズ・コリンズらは、成功企業の特徴の1つとして「ANDの才能」を挙げています。

 ビジョナリー・カンパニーは、この「ORの抑圧」に屈することなく、「ANDの才能」によって、自由にものごとを考える。「ANDの才能」とは、さまざまな側面の両極にあるものを同時に追求する能力である。AかBのどちらかを選ぶのではなく、AとBの両方を手に入れる方法を見つけ出すのだ。(太字は引用者による)

ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス著『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(山岡洋一訳、日経BP社、1995年)

 コリンズらは「ANDの才能」に繰り返し触れています。最終章では、「今後のビジネスに活かし、周囲の人たちに伝える教訓として、以下の4つの概念だけは覚えておいてほしい」という概念の1つに、「ANDの才能」を選んでいます。

第三の案(『7つの習慣』)

 スティーブン・コヴィーが著した自己啓発分野のベストセラー『7つの習慣』では、第六の習慣「相乗効果を発揮する」に、「第三の案を探し出す」という項目があります。相乗効果は『7つの習慣』がめざす成功(原則中心リーダーシップ)の本質で、「第三の案」を探す態度をそのカギとして位置付けています。

 Win−Winを考えているからこそ、第三案の存在を確信し、最初のいずれの提案よりも相互利益をもたらす案を探し出すことができるのだ。

スティーブン・R・コヴィー、ジェームス・スキナー著『7つの習慣―成功には原則があった!』(川西茂訳、キングベアー出版、1996年)

 続編の『第8の習慣』では、こうも述べています。

 第三の案とは、私のやり方でもあなたのやり方でもなく、私たちのやり方である。相手のやり方と自分のやり方の中間で妥協することではない。(略)第三の案は、それまでに提案されたどの案よりも優れたもので、純粋な創造的努力から生まれる。

スティーブン・R・コヴィー著『第8の習慣「効果」から「偉大」へ』(フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社訳、キングベアー出版、2005年)

矛盾の統合(『イノベーションの本質』)

 知識経営論の生みの親として知られる野中郁次郎教授は、市場を、勝ち負けを競う「競争の場」でなく、相乗効果を生み出していく「共創の場」ととらえるべきとしています。

 なぜなら、知識社会に生きる企業にとって最も重要なのは、単なる市場競争力にとどまらず、さまざまな矛盾を統合してより高次元の知を生み出す、あるいは、異なる知的要素を結びつけて一つの一貫性を持った知識体系を形成することのできる知の綜合力経営であると考えるからです。

野中郁次郎、勝見明著『イノベーションの本質』(日経BP社、2004年)

 どのようにして矛盾を統合していけばいいのか。野中氏は弁証法的なアプローチの重要性を強調しています。個人は、理想と現実、組織の方向と個人の思いといった矛盾にとことん向き合う必要がある。解決の方向性は、「自分は何のために生きるのか」という根源的な問いにまでさかのぼって考え抜き、「自分にはこの道しかない」と思い定めて行動したその先に見えてくる。そう訴えかけます。

 日本産業の将来像から個人の生き方にいたるまで、先駆的な提言を続けている田坂広志氏も、優れた企業は弁証法的な止揚(矛盾するものをさらに高い段階で統一し解決すること)によって矛盾を見事に乗り越えていると述べています。

 例えば、(略)企業における「利益追求」と「社会貢献」の矛盾。

 この二つの矛盾を「止揚」するとは、「利益追求」か「社会貢献」かの一方を否定し、一方を肯定して「割り切る」のではなく、この両者を肯定し、包合し、統合した企業をめざすことです。

田坂広志著『使える弁証法』(東洋経済新報社、2005年)

創造的なアイディア(『ハーバード流交渉術』)

 交渉というと、それこそ勝つか負けるかの二分法的思考で考えてしまいがちです。しかし交渉術の定番『ハーバード流交渉術』において、ロジャー・フィッシャーらは創造的なアイディアの必要性を次のようにまとめています。

 複雑な状況においては、創造的なアイディアが不可欠である。どのような交渉でも、斬新なアイディアによって道を開き、双方に満足のいく合意案を生み出すことができる。したがって、決断する前に、できるだけ多くの選択肢を並べることである。まず考え出す。決定は後でよい。そして共通の利害や、うまく組み合わせられる異なる利害を捜す。さらには、相手が決断しやすいようにせよ。

ロジャー・フィッシャー、ブルース・パットン、ウィリアム・ユーリー著『ハーバード流交渉術』(金山宣夫、浅井和子訳、阪急コミュニケーションズ、1998年)

 ANDの才能、第三の案、矛盾の統合、創造的なアイディア――。すべてに共通しているのは、二分法的思考を乗り越え、選択肢を自ら創造していこうとする姿勢なのです。

今日のクリエイティブ・チョイス「まとめ」

 二分法的思考を乗り越えて選択肢を創り出そうとする「クリエイティブ・チョイス」は、普遍的に求められている思考と行動のスタイルです。

著者紹介:堀内浩二(ほりうち・こうじ)

株式会社アーキット代表。「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意志決定力を強化する研修・教育事業に注力している。外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)でシリコンバレー勤務を経験。工学修士(早稲田大学理工学研究科)。著書に『「リスト化」仕事術』『リストのチカラ』の文庫化/ゴマブックス)がある。グロービス経営大学院客員准教授などを兼任。


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