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» 2014年02月03日 10時00分 UPDATE

「売らない」から売れる!:ボクシングの試合で投げ入れられるタオルの意味

「世界で一番愛されないタオル」――。ボクシングや格闘技の試合でセコンドが白いタオルを投げ入れることは、試合放棄の表明を意味します。では、そのタオルをセコンドがどんな気持ちで投げ入れているかご存じですか?

[寺田元,Business Media 誠]

連載『「売らない」から売れる!』について

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 小さな会社でも「新規性」「話題性」「社会性」の3つがあれば、ブランドを作れる!

 著者は自ら動き、学び、実践した結果、ブランド構築に必要なものは、「新規性」「話題性」「社会性」の3つという答えにたどり着きました。本書ではその真意とともに、独自の「マーケティング哲学」、すなわち、

  • 「インターネットはモノを売る場ではない」というセミナー講師の言葉から学んだエッセンス
  • 「私に似合うタオルって何ですか?」という1通のメールで悟った商売の本質
  • タオルを生産している工場に行って初めて分かった「三方よし」という考えの大切さ
  • ネット通販で「肌ざわり」まで伝える方法や、お客様が感動する梱包のやり方など具体的なノウハウ

 などなど、どの商売にも通じる「売ろうとしなくとも、売れる」法則を公開しています。

 この記事は2013年11月14日に発売された日本実業出版社の『「売らない」から売れる! どこにでも売っている商品を「ここにしかない」に変える5つの法則』(寺田元著、単行本)から抜粋、再編集したものです。


 2007年12月31日の大みそか、私はテレビでK-1の試合を観ていました。食い入るように観戦していたとき、ノックアウトされかけている選手のセコンドから白いタオルがリングに投げ入れられました。ボクシングでもたまに見かけるシーンです。それを観て、ふと思いました。

 「何でタオルなんや?」

 ご存じの方もいるかもしれませんが、セコンドがタオルを投げ入れることは、試合放棄の表明を意味します。もう1つ疑問が湧いてきました。

 「ひょっとして、これは『世界で一番愛されないタオル』ではないのか?」

 このとき、私の頭の中の商売のアンテナが何かをキャッチしました。「この『世界で一番愛されないタオル』をボクシング界や格闘技の世界で使ってもらえたら、メーカーさんの助けになるんじゃないだろうか」。衰退産業であるタオル業界をひと言で言えば、今日は1万枚タオルが売れたけれど、明日は何枚売れるかどうか分からないという状況です。

 そのような中で、例えばあるメーカーさんに格闘技用の「世界で一番愛されないタオル」をお願いする。1つ1つのメーカーごとに常に必要とされる、ビジネスとして計算できるタオルを作れるようになったら少しはタオル業界の役に立てる、そう考えたのです。

 「世界で一番愛されないタオル」を作ろうと、早速行動に移すことにしました。まず、ボクシングジムに行って、どんな気持ちでタオルを投げているのか、トレーナーに聞いてみようと思いました。

 そんなときに、サラリーマン時代の同期が東京にいて、たまたまボクシングジムにレッスンに行っているという情報を得ました。同期に連絡をとり、そのジムについて聞くと、なんと元世界チャンピオンの内藤大助さんを輩出した宮田ボクシングジムというところでした。

 同期が段取りをしてくれて、2008年4月に東京都葛飾区にある宮田ボクシングジムにうかがうことになりました。ジムの中に入ると、春先なのにとにかく暑い。やせたいと思って来ている人もいれば、もちろんプロを目指している人もいて、さまざまな目的を持つ人が練習をしていました。

 その中で、「ナイスボディ!」「いいよ! 今のパンチ!」とジムに響き渡る大きな声を出している人がいました。その人が宮田博行会長です。宮田会長の姿を見つけたのはいいのですが、なかなか話しかけるタイミングがつかめません。暑さに加え、汗の匂いが充満するジムの熱気の中で、リング上でスパーリングをしている選手、リングの外で縄跳びをしている選手の姿をずっと見ていました。

 そして心の中で、「ああ、今、目の前にいるこの人たちにも『世界で一番愛されないタオル』を使ってもらいたいなあ。そして、壁に貼ってある写真の世界チャンピオンたちにも使ってもらいたいなあ」と思いながら、宮田会長とお話しできる機会をうかがっていました。

 数分経ったころでしょうか。「今なら、いいよ」と宮田会長のほうから私に声をかけてくださって、お話を聞かせてもらえることになりました。これまで3000試合以上のセコンドを務め、世界チャンピオンも育ててきている有名な方なので、かなり緊張しながら、まずご挨拶をさせていただきました。

 宮田会長はとても気さくに受け答えしてくださいました。そして私は「世界で一番愛されないタオル」を作るうえで、ぜひ聞いてみたかった質問をぶつけてみました。

 「宮田会長はセコンドとして選手の側にいて、試合を止めなければならないときに、タオルを投げることもあるわけですよね。試合を止めるときというのは、やっぱり選手も『まだ戦いたい』と思っていて、ファンも『まだまだやってほしい』と思っている。そのようななかで投げ込むタオルというのは、誰からも愛されない『世界で一番愛されないタオル』と違いますか?」

 そして、私はこう続けました。

 「この『世界で一番愛されないタオル』を、ボクサー専用のボクシング協会の規格認定を受けたタオルとして作成したいと思っています。そのためにも、どういう思いでタオルを放られているのかをお聞きしたかったのです」

 まず、宮田会長はこう口にしました。

 「僕は世界チャンピオンをはじめ3000試合以上のセコンドをしてきています。こうやっていろいろな人の練習風景から始まって、試合をずっと見てきています。選手たちとともに一所懸命汗を流して、僕も試合に臨んでいるのです」

 そして、思いもよらない答えが返ってきました。

 「セコンドである自分は、一番身近なところでいつも選手を見ていて、選手のことも1番よく分かっています。だからレフェリーに試合を止められる前に、取り返しのつかないことになる前に、もう1回リングに上がれるように、愛情を持って投げているんです。『世界で一番愛されないタオル』じゃなく、『世界で一番愛している(から投げる)タオル』なんです」

 宮田会長のこの言葉を聞いて、自分は何と恥ずかしい、まったく的外れな発想をしていたのだろうかと思いました。セコンドはそこまでの思いを持って、いつも選手を支えているということがこの言葉にすべて集約されている気がしました。私はすぐに自分の誤った思い込みをお詫びし、次に湧いてきた疑問をうかがいました。

 「大変失礼しました。では、どういったタオルを作れば選手たちに受け入れてもらえますか?」

 すると宮田会長は「それは今、寺田さんが持って来られたこのタオルですよ」と言いながら、たまたま私が手に持っていた「GOOD LUCK」と書いてあるタオルを指さしました。私は「GOOD LUCK」という言葉が好きだったので、その文字を入れたタオルを作ったことがありました。当時は、自社のオリジナルスポーツタオルの商品はそれだけで、本当にたまたま持っていたのです。

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 そのタオルは、今、私のサイトで宮田会長公認「GOOD LUCKタオル」として販売しています。

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