スマートシティ、スマートコミュニティが変える地域社会クラウド ビフォア・アフター

震災から復興し環境に配慮した都市を創るために、スマートグリッドを活用したスマートシティ、スマートコミュニティを構築する官民協働一体となった取り組みが必要だ。

» 2011年08月04日 12時00分 公開
[林雅之,ITmedia]

 東日本大震災以降、限りある資源を有効活用するスマートグリッドの促進が進んでいる。同時に、エネルギーやインフラの全体最適化を再構築する「スマートシティ」にも注目が集まっている。

東北地域におけるスマートシティ、スマートコミュニティのこれから

 東日本大震災復興対策本部は7月29日、「東日本大震災からの復興の基本方針」を決定し、基本方針で、「再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上」や「環境先進地域(エコタウン)の実現」など、スマートシティ、スマートコミュニティ関連する取り組みの方向性を示した。

 スマートシティ、スマートコミュニティとは、スマートグリッドの技術を活用しつつ、再生可能エネルギーの活用によるエネルギー効率の向上や上下水道、行政サービス、交通機関、ライフスタイルの転換などを複合的に組み合わせたICT(情報通信技術)とエネルギーの融合が生み出す環境配慮型の都市のことである。

 本基本方針はまず、被災地域への再生可能エネルギーシステム関連産業の集積を促進することを挙げている。具体的には、避難用施設などの防災拠点に太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーと蓄電池を組み合わせた自立・分散型のエネルギーシステムを導入する。スマートコミュニティ、スマートビレッジを被災地域に先駆的に導入して、被災地域の電力需給を安定させ、将来のスマートシステムの先行事例として活用するという。

 また、地域を限定して規制緩和や税財政上の優遇措置を認める「復興特区制度」を創設する。これを受け、岩手県などが太陽光発電などを活用した再生可能エネルギー特区の導入を検討したり、宮城県が水産業復興特区の導入を検討するなど、被災した自治体が特区を視野にいれた新たな街づくりの計画策定を進めている。

電力不足を解消し新たな市場を創造する「スマートグリッド」

 スマートシティ、スマートコミュニティの構築にはスマートグリッド(次世代送電網)が欠かせない。スマートグリッドとは、ICTを活用して電力を効率的かつ安定的に供給するエネルギー供給システムのことで、二酸化炭素(CO2)排出量削減や電力需要の平準化を実現する21世紀の社会インフラやインターネットに次ぐ革命として注目されている。

 日本では電力会社が高品質の電力を安定供給しており停電がめったに起こらなかったため、「スマートグリッドは投資が大きい割にはメリットが小さい」などの否定的な意見が今までは多数を占めていた。

 しかし、3月11日の震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、状況は一変した。震災直後は首都圏を中心とした地域で計画停電が実施され、企業や住民は電力が供給されないというリスクに直面した。その後も全国各地で定期検査やストレステスト(耐性調査)などによる発電の停止が相次ぎ、夏場には15%の節電が実施され、日本全体が今、電力供給不足に陥っている。そこで社会システムの安定運用という観点から、スマートグリッドを促進しようという気運が高まっている。

 中でも注目を集めているのが「デマンドレスポンス(電力需要の即時反応)」である。デマンドレスポンスとは、工場やオフィスビルや家庭などの需要サイドで、スマートメーターによって自動的に電力需要を制御し、他の需要サイドに余剰電力を供給する手法である。デマンドレスポンスによる電力需要のピークカットが実現すれば、発電所を新設するのではなく、市場のメカニズムによって需要を削減することで、電力不足を解決できるようになる。

 政府は7月28日、「第2回エネルギー・環境会議」を開催し、当面3年間の電力需給見通しと対応策を示した「当面のエネルギー需給安定策」を公表した。

 電力需給見通しでは、原子力発電所のすべてを停止した場合、来夏に全国ベースで9%の電力不足に陥る可能性があり、それを火力発電で代替すれば3兆円を超えるコスト増になると試算している。コストを電気料金にそのまま転嫁すれば、約2割の料金引き上げになるという。これらを回避するため政府は、スマートメーターの5年間集中整備プランなどの対応策を示した。

 5年間集中整備プランでは、今後5年以内に電力総需要の8割をスマートメーター化することで、スマートグリッドの早期実現を目指す。従来の通信機能がない電力計は現在全国に約7000万台あるので、今後5年間で約5600万台がスマートメーターに切り替わる計算となる。またスマートメーターの普及にって時間帯別の電力消費を把握できる体制が整うので、小口需要へのピークカット料金の導入も加速させる。

 2010年6月に閣議決定した改訂エネルギー基本計画では、2020年代の可能な限り早い時期に、原則すべての需要サイドにスマートメーターを設置する方針を固めていたが、今回の震災により計画が大幅に前倒しとなった。

 5000万台を超えるスマートメーターが設置されることになれば、膨大なデータがクラウドに蓄積されると考えられ、これらのデータの収集や受け渡しや認証などの処理をするためのクラウド基盤の整備も、今後対応を進めていく必要があるだろう。

東北復興に向けた環境配慮型都市「スマートシティ」

 今回の震災を契機に、スマートシティに対する意識も大きく変わってきた。これまでは、電力の効率的供給や新たな産業創出など、経済成長を支えるモデルとして期待をされていたスマートシティだが、震災後は、新しい街づくりなどの社会的視点の比重が高まっている。今後は、経済社会の構造変化を見据え、地域づくりやインフラ整備をしていくことが求められる。

 その点、スマートシティのようなコンパクトで効率的な都市設計は、平安時代の京都平安京などの過去の歴史や風土に根ざした日本の得意分野であり、東北の地域再生とともに、海外へのモデル展開可能な新産業創出の両立を目指すことも可能である。

 災害に強く高齢化社会に対応した「スマートシティ」を構築していくためには、住民ニーズにあわせた利便性や安全性を高めた都市を再生すると同時に、エネルギーやICTやクラウド、そして水道や交通や鉄道などインフラの分野でも、住民視点で総合的に計画する全体最適化が必要となる。

 また、東北だけではなく、高齢化と人口減少と空洞化が深刻化し、効率的な公共投資が困難なスプロール現象が大きな問題となっている全国の地方都市でも、同様の発想が求められている。新たな社会インフラ、社会サービスをつくっていくためには、社会システムの最適化に向けて事業を構築できる人や仕組みづくりと、それに向けた官民協働一体となった取り組みが必要となる。

 過大な投資ではなく、選択と集中と適切な投資、そしてそれに見合った収益を生み出せる経済発展と持続可能な社会を創る営みが、今の日本には必要である。

用語解説

スマートシティとスマートコミュニティの定義に大きな差はないが、スマートコミュニティはある定義されたエリアを対象とし、スマートシティは特定の自治体の範囲と定義している。


著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)

 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)

ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点

2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。

国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究(予定)。

著書『「クラウド・ビジネス」入門


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