ITエンジニアをあこがれの職業にしたい!挑戦者たちの履歴書(23)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、漆原氏が起業し、上場するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年07月02日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 「発注側の立場に立ったコンサルティング」という独自のサービスモデルを確立し、現在もそれに沿ったビジネスを展開しているウルシステムズ株式会社(以下、ウルシステムズ)。かつてIT業界の構造的な問題に一石を投じるために同社を設立した漆原氏に、日本のIT業界の現状について聞いてみた。

 「顧客満足度や労働集約性などの構造的な問題は、間違いなく改善していけると思います。日本の経営者は、そんなにアホではありませんから」

 自社についての話をするときには少し控えめだった漆原氏の口調が、一転して熱を持ってくる。

 「発注側の『発注力』を上げることが、ITプロジェクトの成功率を高め、結果的に経営に貢献できる最も効果的な方法です。ITプロジェクトには巨額の予算が掛かりますから、本当はそこに最も優秀な人材を配置しなくてはいけないはずです。しかし、いままでは、そこをベンダ側に丸投げしていたのです」

 これまではIT業界全体がこうしたやり方に甘んじていて、誰も何も言わなかった。しかしこれでは、いつまでたっても膨大な数の「役に立たないIT」が作られては捨てられていくという、悪しき循環を断ち切ることはできない。特にリーマンショック以降の不況で、どの企業もIT予算を根本から見直す中、「IT不要論」すら聞かれるようになってきているのが現状だ。筆者のような気弱な人間は、ついつい悲観的になってしまいがちなのだが……。

 「発注側は、今後はアウトソースの流れなどもあって、人数が減っていくと思います。でも逆に、質は上がっていかなければならない。これはある意味、技術者にとっては理想像の1つだと思うんですよ」

 技術者にとっての理想像とは?

 「わたしの個人的な意見では、日本の技術者は、難しい業務システムをさまざまな技術を駆使しながら、高い品質と高い満足度でしっかり仕上げられるという面で、世界のトップレベルだと思います。しかも、そういう仕事をするには、大きな仕組みは決して必要ではなくて、腕に覚えがある人間が何人かいれば作れるのです。そういう人たちがピカイチの仕事をして、顧客の売り上げとビジネス成長に大きく貢献していく……。こういうふうに、ビジネスに本当に貢献できるITをやっている人たちが光り輝いていて、『かっこいい!』『あこがれの職業だよね!』と言われるようになれば良いと思いますし、そうしていきたいんです」

 なるほど。しかし一方では、業務パッケージを導入して、自社業務をその仕様に合わせてしまえば、高い技術力や膨大な予算がなくてもITを十分に活用できるという主張もあるが?

 「IT全体の7割を占める『業務効率化のためのIT』は、それで良いと思います。しかし、残り3割の『戦略型IT』はそうはいきません。会計システムが優れているから売り上げが上がっている会社なんて、ありませんよね。でも、販売システムや生産管理システムの優劣は、そのまま売り上げや利益に直結します。こうした分野はパッケージではなく、独自の要求をいかにうまくこなせるか、というスクラッチ開発のスキルで勝負できる『業師の世界』です。この場所こそが、日本の技術者が光り輝くところだと思います。要素技術も重要ですが、それだけではなくて、ITとビジネス・業務の両方が分かる人材こそが、日本ではものすごく重宝されて光り輝くことができるし、ひいては世界でも通用するのではないかと思います」

 そして、そうした人材が正当な評価を受けられるシステムも重要なのですね?

 「その通りです。そういう極めて高度な仕事をこなせる人間にたくさん給料を払う、というモデルを作らなくてはいけないのです。もちろん、真っ先にウルシステムズの社内制度をそのようにしなくてはいけません」

 「若者のIT業界離れ」が言われるようになって久しいが、こんなふうに日本のIT技術者が光り輝けるようになれば、IT業界を志す若者ももっと増えるかもしれない。

 「わたしが言うのも変ですが、IT業界は若くして起業することだってできるんです。IT技術の世界は日進月歩ですから、たとえまだ若くても、勉強を怠っているオヤジ連中は簡単に抜けますよ。これが、もうすっかり確立されて枯れた分野では、そうはいきません。例えば、経済学の知識を生かして起業して上場するなんて、普通はできませんよね。その点、ITは知恵で勝負できる世界ですから、若手にもどんどんチャレンジしてほしいですね」


 この続きは、7月5日(月)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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