編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、青野氏が中学生時代にゲームプログラマを目指し、挫折するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。
生徒会と運動部の活動に打ち込む日々を送った中学校時代の青野氏だったが、これらと平行して小学生のころからはまっていたPCの趣味にも熱中していたという。自宅にあった父親のPC-9801をいじるだけでは飽き足らず、どうしても自分のPCが欲しかった青野少年は、中学2年生のとき、お小遣いやお年玉をこつこつためた貯金をはたいて、ついに念願のマイPCを手に入れる。
選んだ機種は「MSX パソピアIQ」。当時発表されたばかりのPCの統一規格「MSX」の仕様に準拠した東芝製のPCだ。
早速、部活動や生徒会活動の合間を縫ってゲームのプログラミングに熱中する。愛読書も、小学生のころ購読していた『子供の科学』から、MSXの専門雑誌『MSX MAGAZINE』にステップアップだ。ゲーム用途が主だったMSXの専門誌には、当時各ゲームメーカーでヒット作を開発したカリスマプログラマたちの名前が踊っていた。中でも青野少年のあこがれは、後に『ぷよぷよ』というゲームで大ヒットを飛ばすことになるゲームメーカー「コンパイル」に所属する有名プログラマだった。
「ぼくが持っていたMSX機は非力なマシンでしたが、それでもコンパイル製のゲームは驚くほどスムーズなキャラクターの動きを実現していました。『これはすごい!』と思いました」
また、当時青野氏が住んでいた愛媛県と、コンパイルがオフィスを構える広島県が地理的に近かったことも、同社に対して親近感を覚える理由の1つだったという。日に日にコンパイル社に対するあこがれは募るばかり。ついに青野少年は、中学卒業後の進路を考える段になって、高校には進学せずにコンパイルに就職してゲームプログラマの道を歩もうかと真剣に考えるまでに至る。
「当時、学校の勉強にも少し嫌気が差していたんです。得意な数学や物理ならともかく、苦手な古文や地理なんて、生意気にも『こんなこと勉強したところで、将来何の役に立つんだ!』と思っていました」
しかし、勉強は決して苦手ではなかったようだ。それどころか、得意な数学のテストは「常に満点でないと気が済まない」というぐらいだったから、かなり勉学優秀な生徒だったに違いない。
最終的に青野少年は、ゲームメーカーに就職する道をあきらめ、適度に勉強して地元の進学校である県立今治西高校(甲子園の常連校として有名)に進むことになる。しかし、いってみれば“妥協の結果”としての進学。高校に入学した当初は、勉強に対するモチベーションはどん底まで落ちていたという。しかし、このことが逆に青野氏にとって1つの転機になった。
「『MSX MAGAZINE』に、コンピュータ支援教育(CAI:Computer Aided Instruction)の専門家の方が担当していた連載記事がありました。そこに、『将来、コンピュータ支援教育に携わりたい!』という内容の投書をしたら、それが誌面で大々的に取り上げられたんです。その背景には、日本の教育制度に対する当時のぼくなりの異議申し立ての意図があったのですが、学校教育に対する個人的な恨みつらみも多分に含まれていたのかもしれません」
日本の教育は間違っている。なぜ生徒自身が面白いと感じることをもっと自由に勉強させてくれないのか。
これがコンピュータ支援教育の学習法であれば、学ぶ人が学びたいことを自由に選択しながら学習を進めていくことができる。ただ教師が言うことを一方通行で聞かされるような勉強はもうたくさんだ。
こうした問題意識に突き動かされていたところ、青野氏は1冊の本と出合う。TRONの提唱者である坂村健氏が書いた『電脳社会論──TRONの予言』だ。そこには、「何かを学びたい人は、いつでも欲しい情報を自由に手に入れることができる」という、現在のインターネット時代を先取りしたかのような未来社会の姿が描かれていた。これはまさに、青野氏が当時理想としていたコンピュータ支援教育の姿と合致した。
「これだ! と思いました」
コンピュータと教育。そのときまだ高校に進学したばかりの青野氏は、この2つこそが自分の進むべき道だと確信したという。
この続きは、7月23日(金)に掲載予定です。お楽しみに!
▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。
その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
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