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» 2010年08月18日 12時00分 UPDATE

挑戦者たちの履歴書(41):肩すかしなほど順調な立ち上げ当初

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、青野氏がサイボウズを創業するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

[吉村哲樹,@IT]

 1997年10月10日、設立間もないサイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)は、同社初となる製品「サイボウズ Office」をリリースする。Web技術を使った「簡単、手軽」なグループウェアという斬新な製品コンセプト。そして、ダウンロード販売とネット広告という、当時としては目新しいビジネスモデル。

 まさに「初物尽くし」である。ビジネスが軌道に乗るまでは、さぞや苦労したのであろうと思いきや……。

 「10月10日に製品を発売して、12月にはもう黒字になっていました。ですので、ある意味“苦労知らず”なのかもしれません……」

 ベンチャー企業の設立には付き物ともいえる「苦労話」が聞けると思っていた筆者は、完全に肩透かしを喰らった格好だ。会社設立の2カ月後に早くも初の製品をリリース、そしてそれが順調に売れ、その2カ月後にはもう黒字達成である。ベンチャー企業の立ち上げとしては、これ以上はないといってもいいぐらい順調なスタートを切った。

 しかし、単に運が良かったというわけではない。青野氏らが世に送り出した製品は、確実に世間のニーズをとらえたのだ。その証拠に、実際に発売したばかりのサイボウズ Officeを購入したのは、もともとの知り合いや身内といった顧客ではなく、ネット広告で初めて同社のことを知り、試用版をダウンロードして初めて製品に触れたユーザーばかりだった。

 「ぼく自身、かつてシステム管理者としてグループウェアの導入に携わった経験から、こうした“簡単”“お手軽”なグループウェアへのニーズは、絶対にあるはずだと確信していました」

 製品コンセプトは「10分のインストールで100台まで使えます」。

 ユーザーが製品をインストールする際の手間を省けるよう、畑氏が独自に開発した簡易版Webサーバを製品に同梱した。これなら、Webサーバの煩雑な設定作業が不要になり、専門知識のないユーザーでも簡単に導入できる。

 広告やサイトを見て製品に興味を持ったユーザーは、試用版をダウンロードして60日間無料で使うことができる。これも、ユーザーに安心感を与えるためには有効な仕掛けだ。そして、試用版を使ってみた結果、最終的に気に入ってライセンスを正式に購入するとなっても、その価格は何と、わずか8万8000円! これは単に安いというだけでなく、大企業の部門が独自決済で気軽に購入できる価格設定である。煩雑な稟議を通すことなく、研究開発費などの部門予算で気軽に購入できる。そして、実際の導入作業も実に簡単……。となれば、なるほど、確かに売れるわけである。

 青野氏自身は「苦労知らず」と謙遜するが、世間のニーズを確実にとらえる感覚と、こうした周到な仕掛けが相まって、初めて成功を勝ち取ったのだといえるだろう。こうして、サイボウズ初の製品であるサイボウズ Officeは、飛ぶように売れた。初代バージョンの機能はスケジュール帳と行き先案内板、掲示板、施設予約という、ごくごく簡便なものだったが、そのシンプルさが逆にユーザーニーズをとらえた。

 こうして、青野氏らが設立したサイボウズは、その産声を上げた直後から順調にビジネスを伸ばしていった。いや、「伸ばしていった」という言葉では足りないだろう。何せ、「3カ月で売り上げが2倍になった」こともあったというのだから、その急成長ぶりはすさまじいばかりだ。当然、すぐに人手も足りなくなり、2DKのオフィスはあっという間に手狭になった。1998年5月、会社を設立してまだ1年も経たないうちに、松山市内のもっと広いオフィスに移転する。

 こう聞くと、人も羨むようなサクセスストーリーに聞こえるが……。実態は、そう甘くはなかったらしい。「いやもう、実は大変でした……」。青野氏はそう言って、当時を振り返る。


 この続きは、8月20日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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