“紙をデジタル化”の、その先へ〜セルシス続:ケータイ漫画の新潮流

» 2004年06月15日 20時48分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 先日、ITmediaでは携帯で視聴する漫画に“新たな流れ”ができつつあるとお伝えした(ケータイ漫画の新潮流前編後編参照)。紙の漫画からスタートするのでなく、デジタルで書き下ろしたマンガコンテンツを配信する試みが始まっている、という内容だった。

 記事の中ではセルシスのコミックビューワに触れ、こちらは「まず紙ありき」の姿勢だと紹介した。しかし、必ずしもそうではない――という声がセルシス側から聞こえてきた。デジタルならではのコンテンツ提供も含め、幅広い可能性を考えているという。同社が真に考えていることは何なのか、改めて確認しよう。

漫画をデジタル化――そして新しいメディアへ

 セルシスといえば、1994年に発表したアニメ制作をデジタル化するツール「RETAS!」で知られる企業(2001年7月の記事参照)。1999年頃からは、漫画の世界も同様にデジタル化しようと考え、マンガ制作ソフト「ComicStudio」シリーズを手がけている(2002年11月22日の記事参照)。

 セルシスの川上陽介社長は、この流れの中で「漫画だったら、デジタル化して新しいメディアにも持っていけるだろう。それを新しい事業の柱にしよう」と考えたと話す。

 “新しいメディア”とは、たとえばモバイル端末を指す。実際、セルシスはモバイルでのデジタルコンテンツ展開に積極的だ。2003年12月にコミックビューワ「ComicSurfing」を利用したCDMA 1x WIN向けコンテンツ配信サービスを開始したほか、2004年1月にドコモの「M-stage book」向けサービスも開始(2004年1月19日)。

 2004年3月には、ゲームボーイアドバンス向けサービスも発表している(3月15日の記事参照)。携帯からPDA、ゲーム機器にいたるまで、さまざまなフォーマットにワンソースで対応する考えだ。

PHoto ゲームボーイアドバンスで漫画を閲覧しているところ(3月15日の記事より抜粋)
Photo これは、PDAでコンテンツを表示させた場合。漫画をデジタル化することで、さまざまなデバイスに対応させられる

多様な機能を提供

 同社が“モバイル漫画”向けに提供する機能は、さまざまだ。具体的に見ていこう。

 ComicSurfingでは、紙の漫画をそのまま携帯のブラウザに落とし込むようにして閲覧する(下写真)。携帯画面が小さいため一度に全ページを表示できないが、十字キーの下ボタンを押せば「横移動〜斜め下移動〜横移動」とスライドして、順に読めるようになっている。

Photo ページの一番下にくると、次のページの左上へとジャンプする

 画面を拡大・縮小できるのも、ComicStudioシリーズで漫画のデジタル化を進めてきたセルシスならでは。ある程度フォントを小さくすれば、携帯上でページ全体を眺めることも可能だ。ビットマップではなくベクタデータで情報を持っているため、解像度を上げてもジャギーが出ることはないという。

Photo フキダシは、画像とは別のレイヤーで持っている。このため、フキダシだけを拡大することも可能だ

 横に移動〜斜め下に移動を繰り返す読み方では、カット割が複雑な作品の場合、少々読みにくいのではとの懸念もある。ただし、ComicSurfingでは1コマずつを表示し、十字キーの下で“下スクロール”しながら閲覧する方式にも対応している(下写真)。

Photo 下スクロール方式は、4コマ漫画などに向く。もっとも、通常のストーリー漫画を各コマごとに切り離して“縦長表示”にすることもできる

モバイル発のコンテンツにも期待

 このように、セルシスは既存の漫画作品を携帯に落とし込むことにある程度成功している。しかし川上氏は、モバイル発のオリジナルコンテンツにも期待しているという。

 「結局は紙で(過去の名作を)……というスタンスでは、世界が狭まる」(川上氏)

 セルシスは、モバイルコミックをデジタル世代の新しいコンテンツにするような技術も用意している。ComicSerfingでは、たとえば簡単なBGMを流すことができるほか、クリックすれば出版社のサイトに飛ぶような“リンク”を用意することも可能。いわゆるインタラクティブな仕掛けをすることもできる。

PHoto 紙の漫画と異なり、カラーでコンテンツを作ることも考えられる。上写真では、クリックするとフキダシが変わるようなコンテンツの作り方をしている

 「プロの漫画家の考え方も変わってきた。最近では、携帯向けに作品を描こうと『携帯のサイズの原稿用紙をください』という人もいる」

 描き手にしても、コミケのアマチュアを含めれば山のように世界が広がる、と川上氏は話す。同社が提供するのは、あくまでプラットフォーム。せっかくのプラットフォームの可能性を、制限するようなことはしたくないとした。

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