小型燃料電池の量産を簡単にする新技術「Mobion」

» 2004年06月22日 15時07分 公開
[IDG Japan]
IDG

 ニューヨーク州オールバニーの燃料電池メーカーは6月21日、ノートPCやハンドヘルドデバイス向けの燃料電池を製造する際の大きな問題を解消する技術として、新設計の燃料電池を発表した。

 MTI Micro Fuel Cellsの社長兼最高経営責任者(CEO)、ウィリアム・アッカー氏によれば、同社の新技術「Mobion」は、工業用およびコンシューマー用のハンドヘルドデバイス向けに寿命の長いダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)を開発する上で役立つという。

 燃料電池技術は既に、大型産業機器の稼動期間の延長に役立てられている。現在は、この技術を携帯電話やノートPCでも使えるように小型化すべく、数社の企業が取り組みを進めているところだ。だが、電力が切れる度に燃料カートリッジを購入するというやり方にコンシューマーが納得するかどうかなど、問題は数多く残っている。

 燃料電池は、メタノールと水の混合物がセルに入り、酸素と反応してエネルギー、二酸化炭素、水を発生する際に電力を生む。初期の燃料電池技術の多くは、ポンプとバルブを利用して、化学反応中に生じる余分な水をメタノールリザーバーに戻すようになっている。そしてメタノールリザーバーで2種類の液体が混合され、燃料電池に戻される。

 Mobion技術は100%のメタノール溶液を薄膜の片面で燃料電池に送る。メタノールは膜上の触媒、および電池のもう片面から引き出される水と酸素の組み合わせに反応する。こうした分子の陽子は膜を通過するが、電子はセルの外に出され、エネルギーとしてキャプチャされる。

 化学反応で発生する少量の余分な水は水蒸気として放出されるとMTIの最高技術責任者(CTO)、シムション・ゴッテスフェルド氏は説明している。また、稼動中に放出される水の量はユーザーにとっては気にならない程度という。

 ゴッテスフェルド氏によれば、Mobionは化学反応中の水が完全に燃料電池の中で管理され、複雑なポンプの必要がないという点で、ほかの燃料電池の設計と異なる。

 アッカー氏によれば、この方法で製造された燃料電池は、ほかの燃料電池の設計よりも可動部品が少ないため、大量生産はこれまでよりも容易になる。また、化学反応が生じるまで燃料が水と混じらないため、動作もより効率的という。

 MTIによれば、Mobion燃料電池は標準的なリチウムイオン電池より2.5倍長くデバイスを動作させられる。いずれコンシューマーには、拡張カードのようにデバイスの背面に接続できる燃料カートリッジを提供したい考えだが、そうした設計はまだ準備段階にあるとアッカー氏は語っている。

 DuPontやGilletteなど、一部の大手コンシューマー製品メーカーがMTIのアプローチを支持している。DuPontはMTIの燃料電池で使われる膜を製造しており、Gilletteは子会社のDuracellの電池とともに燃料カートリッジを販売すべく、MTIと提携している。またFlextronics Internationalも製造パートナーとして契約を交わしている。

 燃料電池を商業的に成功させるためには、まだいくつか解決すべき問題があるとInStat/MDRの主席アナリスト、アレン・ノジー氏は語っている。1つには、米連邦航空局(FAA)に飛行機への燃料電池の持ち込みを認めてもらう必要がある。

 また同氏によれば、いくら利用時間が長くなるとは言っても、電力が切れる度に新しい燃料カートリッジを購入しなければならないという負担をコンシューマが受け入れるかどうかという問題もある。確かにこのアプローチは大半の電池式家電ではうまく機能しているが、ノートPCや携帯電話の場合、ユーザーにとっては、電力が無くなったら壁のコンセントにデバイスを差し込むというのが当たり前になっている。

 だが、このモバイルコンピューティングのビジョンを実現させるためには、半導体メーカーが電源管理機能で果たしたのと同じような改善が電源機構にも求められるとYankee Groupの上級アナリスト、ジョン・ジャクソン氏は指摘している。

 「あたかも、リチウムイオン電池メーカーはムーアの法則に関するメモを読み過ごしたかのような状況だ」と同氏。

 ムーアの法則とは、Intelの共同創設者ゴードン・ムーア氏がかつて述べた「コンピュータチップ上のトランジスタの数は18カ月ごとに2倍になる」という予測のこと。実際、半導体業界では20年以上に渡り、この予測が現実となってきたが、電池業界の技術はそれほどの勢いでは進歩していないとジャクソン氏。

 アッカー氏によれば、MTIはまず手始めに今年、携帯式のRFID(無線ICタグ)リーダ向けに燃料電池を投入する計画だ。おそらく、産業用ハンドヘルドデバイスのユーザーの方がコンシューマーよりも先に燃料電池技術のメリットを理解するようになるだろうと同氏は語っている。

 もう1つ、可能性があると見られている市場は軍隊だ。最近の軍隊は重い電池を動力源とする電子機器を大量に用いている。燃料電池であれば、より軽量かつ強力な方法でそうした機器に動力を提供できるとアッカー氏は語っている。

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年03月29日 更新
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年