東京の電話を変える?? 鷹山「VSフォン」の実力

» 2004年07月14日 18時42分 公開
[江戸川,ITmedia]

 サービスの申込者に、端末の配布が完了していない、と伝えてから1カ月余り(6月4日の記事参照)。ついに、待ちに待ったボイススポットフォン(以下VSフォン)が筆者の元に到着した。入手してから約2週間、使い込んだ上でのレビューをお届けしよう。

第一印象は良好……だった

 いつになったらVSフォンが届くのかと、不安に明け暮れていた6月中旬、YOZANお客様センターより一通の速達が届けられた。まさか生産中止のお知らせではあるまいな――と開いてみると、それは商品到着日時のお知らせ。代金が着払いということもあり、受け取りを円滑に行うための配慮だとしたらありがたい。

 そして6月24日午前、予告どおりにVSフォンはやってきた。さっそく段ボール箱から取り出し、ハンドセットを接続して、電源を入れてみる。ここまでわずかに数分の作業であり、確かに商品さえ手に入れば開通まではあっという間だ。取扱説明書はB5サイズでノート程度の厚みと、扱いやすさに好感度もアップする。

PHoto これがVSフォン。「東京の電話が変わります」とうたう製品だ
Photo 本体裏のシールには、「MADE IN JAPAN」との文字が見える

 ところが電話機をしばらく眺めていると、少々不自然なところが見えてきた。液晶表示部の下に位置する4つのキーが、いずれもやや右肩上がりなのだ。最初はデザインの影響なのかと思ったのだが、穴の形状はだ円で水平になっている。一方で、ダイヤルキーに印刷されている数字は“右肩下がり”のフォントが使われている。詳細は不明だが、きっとこういうデザインなのだと信じ込むしかない。

Photo 非常に微妙だが、だ円キーが右肩上がりになっている。ダイヤルキーの印刷も、心なしか右肩下がりのような……(クリックで拡大)

屋内に限らず屋外でも利用できる

 筆者の自宅の近くを高架道路が走っていることもあって、電波の入りが今ひとつなのは仕方のないところ。窓の近くにVSフォンを持ってくれば、アンテナバーは2本出るし、窓から離れたところでも1本は確保できる。一緒に届けられたパワーアンテナ(以下PA)「PX-11」と比較すると、VSフォンそのものの感度はPAよりいいようだ。屋内で使うことを考えたスペックなのかもしれない。

 だが、屋内で使うより屋外で使ったほうが、電波は確実にキャッチできる。そこで屋外でVSフォンを使ってみようと、家の中から車の中へと設置場所を変えてみた。車のシガーライターに接続したDC-ACコンバータを経由して、VSフォンに電源を供給すればバッテリーの心配もない。電話機本体をしっかり固定しておけば、(停車時に限られるが)自動車電話のように使うことができるのだ。

Photo

意外と使える? エリアの広さ

 車に載せたついでに、首都圏のエリアチェックをしてみようと、国道16号線沿いを中心にドライブをしてみた。神奈川県から時計回りで半周ほど、埼玉県の大宮駅まで走った限りではVSフォンが使えない地域はほとんどない。途中、東京工科大学の手前で数分ほど圏外表示が出たくらいだ。

 事前の情報では16号線より外側ではあまり使えないという話もあったが、神奈川県藤沢市や寒川町、厚木市周辺でも問題はなく、東名高速の中井パーキングエリアでもアンテナ0本ながら発着信は可能であった。これらはPAのアンテナ表示とほぼ同じ動きをしていたので、基本的にアステルのPHSが使えればVSフォンも使えるように思われる。

 調子に乗った筆者は、東名高速の清水IC(静岡県)まで車を走らせた。富士川の西側に位置するこの辺りは中部テレコミュニケーション、いわゆる名古屋を中心とした中部地域会社の管轄になる。中部では5月12日をもってPHSの新規受付を終了しており(5月19日の記事参照)、将来的にはサービス終了も予定されている。

 さて結論をいえば、VSフォンは中部地域でも発着信が可能であった。

 (編集部注:鷹山によれば、VSフォンはアステルグループとのローミングを行っており、その地域でサービスが終了していない限り利用可能です。ただしその場合、100回まで利用できる無料通話プランの適用外となり、3分42円の料金がかかります)

不思議な仕様のスピーカー機能

 VSフォンのパネル部手前に、大きな丸いボタンがひとつある。スピーカーの絵が描かれているとおり、スピーカーホンとして使うためのボタンである。VSフォンがハンズフリーで使えるのならば、道路交通法が改正(6月3日の記事)された今、車載用として本格的に導入する理由にもなる。だが、VSフォンのこのボタンは、一般的に想像するスピーカーホンとはちょっとばかり違っている。

PHoto

 取扱説明書によれば、「通話中の相手の声を受話器からスピーカーへ切り替えることができる」とされている。ここで注意したいのは、この機能にマイクは含まれていないということだ。つまり、受話器を置いたままで相手と会話をすることができないのである。VSフォンの手前にはマイクの穴があるように見えるのだが、実はここには何も存在しない。ただ穴が開いているだけだ。

 それならば、発信時の操作性が向上することを期待したいところだが、前述のとおり“通話中”にしか動作しないボタンのため、相手につながるまでは受話器を持ち上げておく必要がある。電話番号をダイヤルしてスピーカーボタンを押しても、発信はしてくれないのだ。

 つまりこのボタンが役立つケースは、「天気予報などの音声サービスをスピーカーから聞く」という用途に限定されそうだ。やや見掛け倒しといえるボタンで、車載用としては期待しないほうがいい。

PA固定モードがほしい

 感度のいいVSフォンとはいえ、アンテナ表示2本でも通話中に雑音が乗ることもあり、屋内で使うにはやはりPAに頼りたいところ。ところがここにやっかいな問題がひとつある。筆者の環境において、室内のVSフォンよりも窓際のPAのほうが圏外になる確率が高いのだ。つまりVSフォンを“PAモード”で動かしておいても、PAそのものが圏外になってしまうため、いつの間にかVSフォンはPAを使わない“公衆モード”に切り替わってしまう。かかってきた電話の雑音が気になる場合は、たいていこの状態になっている。

 ところがPAが再び電波を捉えて、電波状況がよくなっても、VSフォンは自動的にPAモードには切り替わらない。ダイヤルの「*」キーを長押しして、PAサーチ機能を呼び出さなければならないのだ。常にPAを優先する“固定モード”はVSフォンに用意されていないので、電波の不安定なところでは注意が必要だ。

Photo 「*」キーを長押しすれば、PAサーチ機能を呼び出せる

「家電」としての辛口採点

 VSフォンのターゲットは、個人か法人かと考えれば、個人向けということになる。1回線辺りのコストが安くなる可能性があるとはいっても、内線としての転送もできず、ハンズフリーもない、電話帳の使い勝手もいまひとつと感じたので、ビジネス向きではないだろう。無線なので、電波の影響によっては通話が途切れる可能性もある。

 では個人が自宅用の電話としてVSフォンを導入することを考えた場合、その出来はどうなのだろう。筆者はこれを100点満点中30点と評価した。

 これまでに述べた問題点のほか、チルト機構のない液晶パネルのため表示が見にくいことや、漢字が利用できないメニューや電話帳、機能キーの小ささや表示の分かりにくさなど、周辺のマイナスポイントが多かった。これまでに家庭用電話機を作ったことのないメーカーが、初めて手がけたというような”ノウハウのなさ”が目に付いてしまったのだ。

 例えば、一般家庭には電話機を壁掛けタイプで使うニーズもある。市販されている電話機のほとんどは、特別なパーツなしに壁掛けが可能になっている。VSフォンはもちろん平置きでしか使えない。背面にネジ用の穴がないばかりか、受話器がひっかかるフックもない。使い勝手を熟考するより、見た目のウケを優先したのだろうか。

 筆者なりに2週間使ってみての結論は「アイデアはいいが、商品に魅力がない」ということ。仮に着信向け(専用ではない)プランが“月額980円”で提供されるのならこの電話機でも十分だし、“機能満載でとても使いやすい”端末が出るのなら2万円でも3万円でも検討に値するだろう。しかし本体価格が1万290円、月額基本料1480円のVSフォンは、デザイン、機能、価格の面で、中途半端な印象を受けてしまった。

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