ドコモ本社内に設置されたバーチャルな研究組織、「モバイル社会研究所」。そのシンポジウムでは、携帯電話と社会との関わりについて行われた学術的な研究成果が発表された。
「災害時における携帯メディアの問題点」について語るのは、東洋大学社会学部教授の中村功氏。新潟・福島県で起きた水害や新潟中越地震など災害現場での調査を踏まえた研究を行っている。
中村氏は災害時に携帯ができることとして「避難する」「助ける」「安心する」という3つの役割があるという。ただし災害の種類によって有効度は変わってくる。新潟中越地震の場合はいきなり起こったために、避難するということはできなかった。一方、津波や洪水は避難情報が大事になる(1月7日の記事参照)。
また、基幹メディアとしての携帯の重要性を考えた場合、災害時にどの程度インフラが影響を受けるのかをあらかじめ理解しておく必要がある。中村氏は、被災地や消防庁などへのアンケートや聞き取り調査を行うことで、問題点を解き明かそうとしている。
全国の消防署300カ所を対象にした、災害時の連絡手段に関する調査が興味深い。消防署では通信回線として一般固定電話のほか、災害時優先電話、防災無線、防災行政無線、携帯電話といった手段が利用できる。だがこの中での携帯電話への依存率が非常に高いのだ。
「救急隊から病院への連絡、あるいは救急隊と患者との連絡は、そのほとんどが携帯電話です。携帯電話が不通になったときに問題が生じると考えている人は、約9割にも上ります」
また、災害用伝言板サービスについては、その効果は認めるものの(2004年11月9日の記事参照)、被災地での利用が少ないという。その理由は、「存在を知らなかった」ということよりも「相手が使うとは思えなかった」という回答が多い。つまり“非常時にどうするか”という相手との打ち合わせができていないのだ。
中村氏は最後に一層の利用者増対策と、相手との話し合い促進を中心に、4つの提言でセッションを締めくくった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.