CeBIT開幕〜「ITは目を覚ますべき」とSAP会長CeBIT 2005

» 2005年03月10日 21時06分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

 世界最大規模の通信・情報技術の展示会「CeBIT 2005」が今年も独ハノーバーで開幕した。オープンニングを飾る前夜祭には、独首相のゲハルト・シュレーダー氏やハノーバー市長と共に、ドイツが世界に誇る業務アプリケーションベンダー最大手のSAPの会長兼CEO、へニング・カガーマン氏が登場し、IT業界を展望した。

Photo 中央左がシュレーダー首相、中央右がSAPのカガーマン氏

 3月に入り、寒波に見舞われている欧州。9日もハノーバーは、時折小雪がちらつく寒さだった。だが主催者を初め、出展者の表情は明るい。通信バブルの崩壊から2003年までは業界全体が暗い雰囲気に包まれたが、回復の兆しを誰もが感じたのが2004年。そして今年、それは確信に変わっている。

 今年のCeBITは、総面積は30万8881平方メートルと昨年より減ったものの、出展社数は151社増えて世界69カ国から6270社が集まる。ここ数年のトレンドだが、半数以上を占める非ドイツ企業の中でも、台湾や中国などアジア諸国の参加社の増加は目を見張るものがある。今年、台湾から777社、中国から310社が参加する。

 このように、楽観ムードが感じられる中、カガーマン氏のスピーチは、IT業界がこれまで達成してきたことを認めつつも、それに甘んじることなく成長に向けて進まなければならないことを示す、現実的なものだった。カガーマン氏は中でも、SAPの専門であるソフトウェア業界の課題を中心に話を進めた。

PHoto

 カガーマン氏はまず、ITが達成してきたこととして2つのトピックを挙げた。生産性の向上、それにほかの業界のイノベーション支援だ。ITにより生産性は、米国で60%、欧州で40%増加したという。ほかの業界への寄与としては、バイオや製薬、製造と幅広く、ドイツのSPIEGEL誌では、将来、自動車業界のイノベーションの8割はITがもたらすと推測しているという。

 「2004年の世界IT投資は100億ドルだった。今年も上昇傾向が予想されており、2008年まで年平均6%増で成長するとの予測もある」(カガーマン氏)

 同氏はまた、ITの重要性を示す3つのトピックを挙げた。「ユビキタスになった情報・通信技術」「ITと科学進化の結びつき」そして「分離不可能なITと企業ビジネス」だ。

 情報・通信技術がユビキタスになったことの例としては、2003年夏に米ニューヨークなどで発生した大規模な停電が挙げられる。この停電は、ITインフラのトラブルに起因するものとされた。「電気」といった日常的な存在まで、ユビキタスネットワークの影響を受けるようになったわけだ。

 当時から1年半が過ぎ、可用性は大幅に改善されたとカガーマン氏。いまでは世界に従業員が6万人、というような大企業のITシステムを、24時間365日稼動し続けることができる。

 ITと科学進化の結びつきでは、ゲノムや原子物理学、気象などのさまざまな分野の計算にITが不可欠になっている状況を指摘。さらには、仮想化技術の進歩により、現実では構築し得ないような大規模な計算能力をふんだんに利用できる素地も整いつつある。

 分離不可能なITと企業ビジネスについては、事業とITの連携に触れた。ノウハウは“ベスト・プラクティス”として残り、ロシアや中国などのIT後発国は効率よくITによるメリットを享受できるようになった。

 だが「技術とベストプラクティスは、(企業が生き残るのに不可欠な)競争力をもたらすことはできないし、運営面や戦略面での不足を補うものではない」とカガーマン氏。「良い経営の代わりとなるものはない。IT業界は企業の競争力にも責任を担うべきなのだ」

 カガーマン氏は、ITプロジェクトの20%が失敗しているというGartnerの統計を引用し、「IT業界は変化を求められている」と主張する。グローバリゼーションにより安価な労働力が手に入る状況下、企業はますます競争力を求められている。「われわれはいまこそ目を覚ますときだ。われわれIT業界は、企業の競争力を高めるために大きく貢献できるし、その中心的役割を果たすべきだ」

 ITやソフトウェアはいままでよりも重要な役割を果たすべきだ、というのがカガーマン氏の提案だが、これを実現するうえで、複雑性の削減、標準、相互運用性、高度なセキュリティ、可用性、使いやすさなどを業界全体の取り組み課題に挙げた。

 カガーマン氏はこのほか、ソフトウェア業界の欠点として、業界の生産性の低さも指摘。ムーアの法則に準じて成長しているハードウェア業界に比べ、ソフトウェア業界は相変わらずのバグに始まり、セキュリティ、統合、運用性の問題などがまだ山積しており、ユーザーは常にいらだちを感じている。カガーマン氏は、業界が見出した解決策として、SOA(サービス主導アーキテクチャ)に触れる。SOAのもたらす柔軟性により、顧客は再プログラミングすることなくビジネスプロセスをモデリングでき、コストの削減にもつながる。カガーマン氏はこれを、「嵐の後、われわれは成長したのだ」とまとめた。

欧州経済の発展のために

 CeBITのオープンニングのスピーチは例年、ドイツ経済、欧州経済をテーマとする。この日もシュローダー首相が高齢化社会、失業者問題などへ対策を示した。

PHoto スピーチするシュレーダー首相

 この問題について、カガーマン氏は業界リーダーの立場から、いわゆる先進国と後進国の争いは避けるべきだと話す。

 「週に35時間働く地域(EU圏内では週35時間労働が定められている)と、週に35時間しか眠らない地域との戦いは止めるべきだ」。先進国は、労働時間の長さをいたずらに競うのではなく、ITで獲得した生産性向上を利用すべきだという。

 カガーマン氏はITを企業や地域経済の競争力強化に利用すべきとうたうが、これを反映するように今年のCeBITは、“エンタープライズアプリケーション”フォーラムが新設されるなど、ビジネス寄りのトピックも多い。目を引く“ガジェット”だけではなく、エンタープライズ色も濃いものになりそうだ。CeBITは3月16日まで開催される。

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