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» 2008年04月28日 18時59分 UPDATE

コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく:第3回 「見過ごされているわけで……」――底辺の著作権事情にぼやく

著作権談義が花盛り……というかけんけんごうごうですが、自分たちのようなコンテンツ業界の末席にいるライター・デザイナー・カメラマンなどの意見は少ないですね……。ということで、IT業界と出版業界を比較しながらぼやきたいと思います。

[トミヤマリュウタ,ITmedia]

 竹熊先生の話を取り上げたITmediaの記事、『「漫画トレースもお互いさまだが……」 竹熊健太郎氏が語る、現場と著作権法のズレ』を読んで、深くうなずきました。特に、“著作権について正面から話すこと自体、出版界ではタブー”というところにです。

 当社は、IT業界と出版業界を行ったりきたりしていますが、秘密保持契約書がないと話すら始まらないIT業界に比べ、出版業界で何かしらの契約書を結ぶことは、非常にまれです。ライター、デザイナー、イラストレーター、カメラマン、編集者などなど、著作権が発生しそうな人々が大勢で1つの雑誌やら書籍やらを作るのに、権利の帰属が明示される契約書がない場合が多いので(出版契約書のある著者本は別ですけれど)、そりゃ著作権議論はタブー視されるよなぁと思います。

 正直、業界の最下流にいるわれわれのような人間がこの話題に触れるのは、本当に怖くて(仕事なくなっちゃうかもしれませんし)、いつもは仲間内でグチグチぼやいているわけですけど、今回は思い切って……書いてみます。

契約書のない出版業界と契約ガチガチのIT業界

 竹熊先生が、「僕は、本を出す前に出版契約書を交わしたことが一度もない」とおっしゃっていますが、出版業界に慣れていなかったころ、自分もこれには驚きました。何度か自分名義やペンネーム、会社名義で著者本(共著を含む)を出させていただきましたが、竹熊先生と同じで、すべて書き上がってから出版契約を結びました。「締め切り設定が難しいから」という事情はあるでしょうが、“印税率も部数もあいまい=売り上げ不透明な状態で、仕事として、数カ月かけて原稿を書くのってリスクあるよなぁ”と最初は面食らったものです。

 ただ、まだ著者本はいい方です。最終的には出版契約書を交わすわけですし、著作権の所在も分かりやすいですから。ちなみに、創作性のあるものに関しては、下請法の対象外とされているので、その問題もクリアです。しかし、雑誌での無記名原稿やデザイン、書籍のゴーストライティングなど、つまりは下請法が適用される案件(詳しくは「出版社における改正下請法の取り扱いについて」を参照してください)で、契約書を結ばないっていうのはどうかなと……。正直、自分の経験で言いますと、そうした仕事で契約書を結ぶことは少ないといえます。

 ちなみに、以前こんなことがありました。とある会社の社長自伝本でゴーストライターをしたときのことです。そのときは、ゴーストにしては珍しく、契約書を結ぶことになりました。が、そこに出版社さんの名前はなかったのです。つまり、「とある会社」と当社の2社間で契約を結んだのです。出版社さんは蚊帳の外。奇妙な気分でした。

 ここまでお読みになって、「雑誌の原稿で契約書? ゴーストライターに契約書? あんた何言ってんの?」と思われた方は、おそらく出版業界の方なんじゃないかと思います。情報系のWebサイトなどで原稿を書く場合(デザインの仕事ももちろんですが)は、ほぼ100%、何らかの契約書を交わしています。

 このITmediaさんの記事もそうです。契約書を交わし、事前に原稿料を決めた上で、原稿を書いているわけです。こうした記名原稿でなくとも、私の知っている範囲では、Web媒体ではたいがい契約書を交わしています。そして、著作権はクライアントに帰属することなども明示されています。

 でも、それはいいんです。きちんとお金を払った人に著作財産権が渡ることについては、妥当だと思うので。少なくとも当社は「文章を書く」「デザインをする」「企画をする」「イラストを描く」「映像を作る」というサービス業をしているという認識なので、サービスに対する対価さえもらえれば、もう全然かまいません。

 著作者人格権こそわれわれに属しますが、契約書にはたいがい「著作者人格権は一切それを行使しない」って書かれていますし、自分たちも行使する気なんてさらさらありません。どこかに、行使しようとする人っているのでしょうか。大御所の先生とかだとあるのかな……。

「下請法(笑)」

 いずれにせよ、IT業界でのみ仕事をしていたときは、権利の帰属を明確にした契約書を結んで、仕事するのが普通だと思っていました。先にそれが明示されて、納得してハンコを押して、仕事をするものだと。実際には、仕事が進んで後から契約書を取り交わすことも多い……というか、半分くらいはそうですが、とにかくなんらかの契約文書は残ります。

 IT業界に限らず、メーカーさんなどそのほかの一般企業さんとお仕事するときもそうです。当社から見て、親事業者になる企業さんは、必ず契約書を交わしてくれました。そしてそこには、「著作権はクライアントに帰属する」ときちんと明記されている。これはつまり、「著作権はそれを作ったライター・デザイナーなどにも発生した。が、それはクライアントに譲渡される」ということなんだろうと考えています。つまり、僕らが著作権の源になったことを認めてくれているんだろうと。権利が行使できずとも、その事実を認めてくれているだけでも、僕はうれしいです。

 翻って出版業界はどうか。こちらは、雑誌やゴースト書籍の編集・制作にあたって、そうした契約書を取り交わすことって、あまりないんですよね。いや、契約書を結んでくれるところももちろんありますよ。ただ、少ない。非常にまれというのが問題なんです。現役のライターさんやデザイナーさん、カメラマンさんなら、「契約書ナシで仕事するパターンが多い」という実情には、激しく同意していただけるのではないでしょうか。

 出版社に出入りされているクリエイターの皆さんの多くは、いわゆるフリーとして、個人で活動されているんじゃないかと思います。法人化されていても、資本金は1千万円以下の会社が多いはず。となると、大抵は出版社さんとの間に親事業者と下請け事業者の関係が成り立つはずなんですが、実際には発注書も契約書もない。そして、著作権が誰に発生したのか、著作人格権は誰のものなのかも分からないまま、原稿やデザインや写真などの成果物がただただ買い取られていく。不思議ですね。これも一種の業界慣習ってヤツですかね。

 指摘している部分は違えど、竹熊先生のお言葉を引用させていただくと、

「漫画界や出版界は、法律論とは別の所、慣習で動いていて、現場と法律の齟齬(そご)はよく実感する。『これはなんとなくまずいだろう』という慣習をベースにした判断基準があるが、出版社によって違うし、人によって違っていい加減」

という問題が、ここにも横たわっている……と感じずにはいられません。もうあらゆるものが慣習、慣習……。

 クリエイティブの現場で、慣習が味となり文化となるのは分かるんですけど、契約・権利意識もその世界なのは困ります。しかも、同じ会社でも編集部ごと、編集者ごとで異なるのだからまた困る。

 「金銭が発生した上での二次利用」時における支払いなんかだと、同じ会社、同じ編集部あてに原稿を書いていても、二次利用時の対価が支払われたり支払われなかったりするんです。払うなら払う、払わないなら払わないと、契約書に明記してあればいいんですけど、それもないので、なんだかキツネにつままれたような気分です。

 これはつまり、「この原稿はライターに著作権がある」「この原稿はウチが買い取ったものだからウチに著作権がある」という考え方の違いからきているんじゃないかと思うんですが、普通そうなった場合って、契約書をひっくり返して、権利の帰属を確かめますよね。でも、それができないんです。だって契約書ないんだもの。

 2004年に下請法が改正されて、出版やIT業界にもこの法律が適用されるようになった直後は、出版社さんからも「ライターさんやカメラマンさんと契約書を結ぶ時代になるね」的な話がありました。でもその後は……。正直、「下請法(笑)」って感じです。

 「締め切りに追われるなかで、ライターやデザイナーやカメラマンと逐一契約なんてしてられるか!」という声も、現場を知るものとしてはすごーく分かるんです。現場では、きちんとお金さえ払っていれば&もらっていれば、特に問題を感じない。無記名原稿だろうがデザインだろうが、著作権なんて買い取りに決まっている。正直、自分はそういう感覚でいます。いろいろ面倒くさくて、「別に著作権なんていらないや」という気分になっているだけかもしれませんけど(本音)。

 ただ、まっとうに考えれば、初めて仕事をするときには、やはりなんらかの契約書を結ぶべきじゃないかなと思うのですよ。「情報成果物に係る知的財産権の譲渡等に関する記載」、つまり著作権の帰属も含めて。というか、そもそも、日本書籍出版協会、日本雑誌協会が出している「出版社における改正下請法の取り扱いについて」を読むと、「そうしなさい」って書いてあるんですけどね…。

このままだとネット著作権論議のはざまで見過ごされそうな………

 文化庁のWebサイト(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/touroku_seido/index.html)を見ると、「著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生し、その取得のためになんら手続きを必要としません」とあります。ということは、ライター、デザイナー、イラストレーター、カメラマンなどといった人々は、そんな気はまったくなくても、なんだか著作権を持ってしまうのだろうと理解しています。

 そうした、著作物を創作する(してしまう)外部業者さんたちと仕事をする以上は、出版社さんだけでなく、親事業者となりうるあらゆる企業は、なんらかの形で「著作権はクライアントに帰属する」ということを、書面として残したほうがいいでしょう。

 底辺仲間(?)と話していると、「そんなはっきりさせんでもグレーのままでいいじゃん! 著作権あるかも? って状態キープしたほうがいいし」という人もいるんです。ですが、実際には、仕事が終わった後、もしくはもうかる案件に化けた瞬間、「底辺のお前にそんなもんあるわけないだろ!」って言われるじゃないですか、やっぱり。

 だったら最初から「この権利はわれわれ(クライアント)に帰属しますからね」って言われて仕事を始めるほうが、フェアだと思うんですよね。僕はそっちのほうがやりやすい。お金で解決する問題ですから。

 そもそも、著作物のすべてを1人で作り上げることなんて、仕事の中ではそうそうないでしょう? それはもう、芸術、ファインアートの世界。デジタルコンテンツだろうが、紙の上のコンテンツだろうが、編集、カメラマン、デザイナー、ライター、さらにはメイクさんとか校正さんなどなど、さまざまな人の創造が積み重なって1つの表現になっていくわけで。

 それで個人個人に著作権を残しておくと、あとあと面倒じゃないですか。著作権のオバケのようなコンテンツは、二次利用もできず、人の目に触れる機会が減っていくばかり。テレビ番組の著作権がんじがらめ状態はまさにコレですよね……と、いうようなことを面と向かって言うのもタブーなんでしょうか、出版業界では。

 著作権にまつわる、ネットでのあり方論にももちろん注目なんですけど、われわれのような、コンテンツ業界の末席で仕事をしている人間にとっては、業界内自体に著作権にまつわる問題が、下請法とも絡んで、ドカッとあるよなぁと思う次第。ケータイ業界からはちょっと外れてしまいましたけど、紙でも放送でもWebでもなんでも、底辺でコンテンツを作っている会社には気になる話……ということでお許しを。

 ふー。正直、今回は書いていてドキドキするネタでした。

プロフィール:トミヤマリュウタ

ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。


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