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» 2008年05月21日 10時24分 UPDATE

神尾寿の時事日想・特別編:「私のミッションは終わった」――ドコモ退社直前、“おサイフケータイの父”夏野氏が語る (1/2)

iモードの企画・立ち上げで知られる夏野剛氏は、おサイフケータイを仕掛けた人物でもある。その彼がドコモ在籍最後に出席したのが、おサイフケータイを使ったマクドナルドの新サービス「かざすクーポン」の記者会見。おサイフケータイに対する夏野氏の想いとは……?

[神尾寿,Business Media 誠]

 5月19日、日本マクドナルドとThe JVが、おサイフケータイを使った新クーポンサービス「かざすクーポン」を発表した。その狙いと詳しいサービスについては別記事のとおりだが、この記者会見に姿を見せたのが、NTTドコモ執行役員 兼 The JV取締役の夏野剛氏だ。

 夏野氏はiモードやおサイフケータイの企画や立ち上げに深く関わり、1999年以降の携帯電話ビジネスを語る上で欠かせないキーパーソンの1人。今年6月30日付けでドコモ退社が決まっている(参照記事)彼は、「ドコモの執行役員としては最後の仕事」(夏野氏)で何を語ったのか。今日の時事日想は特別編として、夏野氏の語ったおサイフケータイの“今”と“想い”についてレポートしたい。

 →“かざす”だけでクーポンが使える――日本マクドナルド、おサイフケータイ活用でCRM強化

 →“テレビ離れ”時代の携帯eマーケティングによる革新──マクドナルドの「かざすクーポン」

 →スタートから4年――海外展開も視野に、新たなステージに入るおサイフケータイ

12年前のウォレット・フォンが、今のおサイフケータイ

 「私がドコモに11年間いた中で、いちばん大きかった仕事がiモードの開発でしたが、その次に大きかったのが、(かざすクーポンでも使う)このおサイフケータイ。

 僕は新聞などで『iモードの父』とよく書かれますけれど、1回くらいは『おサイフケータイの父』って書いてほしいのですが。あ、ちなみにFOMA(のビジネス)を再生したのも僕なんですけどね」

ay_natsuno01.jpg NTTドコモ執行役員とThe JV取締役を兼任する夏野剛氏「1回くらいは“おサイフケータイの父”って呼んでほしかった」と笑った

 軽妙な冗談交じりの話し口でプレゼンテーションに入るのが、いつもの“夏野流”。おサイフケータイの可能性と自らの思い入れについて、茶目っ気たっぷりに話す。

 「11年前、僕が携帯電話業界に入ったときから『キャッシュレス』が究極の携帯電話の姿だと思っていました。

 ちょうど12年ほど前に(マイクロソフトの)ビル・ゲイツが『ウォレットPC』という言葉を言い出したわけですけれど、これはコンピューターが小型化していって、それが(生活に関わる)すべての機能を集約して、それさえ持っていればいいという世界観でした。僕は12年前に、ウォレットPCについて書かれたビル・ゲイツの本を読んで、『もしかしたら勝てるかも』って本気で思ったわけです。どう考えても、PCやWindowsが持ち歩けるほど小さくはなりませんから、むしろウォレット・フォンにした方がいい。これが『おサイフケータイ』の始まりだったわけです」(夏野氏)

 1997年、夏野氏は“ウォレット・フォン=おサイフケータイ”のアイディアを胸に温めたまま、ドコモに入社した。その後、iモードを立ち上げ、iアプリを企画し、徐々に“おサイフケータイ”の土壌を整備。ソニーとともに携帯電話用の非接触IC FeliCaである「モバイルFeliCa」を作ることで、2004年におサイフケータイを実現した。

 「(ドコモ入社から)11年が経って、おサイフケータイを世の中に普及させることができました。そしてついに、おサイフケータイが『入りにくい』と思われたファストフード業界にまで、大きく進出しようとしている。これがドコモの執行役員として出席する最後の記者会見になったことが、とてもうれしい」(夏野氏)

ファストフード業界はなぜ「最後の砦」だったのか

 ところで、夏野氏はなぜ“ファストフード業界”を、おサイフケータイにとって重要かつ難しい分野と見たのだろうか。それはこの業界特有のビジネス環境にある。

 「ファストフードはスーパーやコンビニエンスストアと違って、かなりインタラクティブにクルー(店員)が接客をしなければならない。さらにお客様からオーダーを受けてから、キッチンで調理し、その上で商品を出すといった具合に、フローにタイムラグがあります。このようにオペレーションが複雑です。また、ファストフード業界は利幅が薄く、電子マネーやクレジットの手数料負担が大きい。これらの課題があり、ファストフード業界では、なかなか電子マネーやおサイフケータイが普及していかない」(夏野氏)

 電子マネーへの対応やおサイフケータイの活用はさまざまな業種業態で進むビジネストレンドになっているが、ファストフード業界では構造的に“受け入れにくい”背景があったのだ。だからこそ、「マクドナルドがおサイフケータイ活用に取り組んだことは、大英断といえる」(夏野氏)のだという。

 「ファストフード業界でのおサイフケータイ活用で、鍵になるのが『クーポン』です。この業界ではクーポンの活用が一般的なものになっていますが、かざすクーポンならば、集客力のアップや顧客単価の向上が狙えます」(夏野氏)

 おサイフケータイを使った「かざすクーポン」の可能性を説く一方で、夏野氏はドコモが取り組むiDDCMX(参照記事)の近況も報告。決済分野においても、おサイフケータイの利用が増えていると話した。

 「iDは後払い方式の電子マネーなので、じわじわと利用が伸びる傾向にあります。特にiDは、他の(FeliCa方式の)電子マネーや現金よりも利用単価が高くなっている。かざすクーポンでは、リーダーライターがiDと共用型のため、この(利用単価が高くなる)効果もマクドナルドにもたらすことができるんじゃないかと考えています」(夏野氏)

ay_natsuno02.jpg コンビニにおける、iDと他電子マネーの利用単価比較
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