テキスト検索に取って代わる技術になる――ケータイ画像検索「写リンク」、日本に上陸

» 2008年09月03日 07時10分 公開
[後藤祥子,ITmedia]

 “ケータイカメラ”と“通信”という、ケータイならではの特性を生かしたサービスが「画像検索」だ。ケータイカメラで撮影した写真を送信し、その画像に合った情報をユーザーに提供するというサービスは、すでにバンダイネットワークス(カメラでケンサク! ERサーチ)やジェイマジック(Magic Loupe)、ゼータ・ブリッジなどの企業が提供しており、それぞれが収益につなげるビジネスモデルを模索している。

 この市場に新たに参入するのが、米Evryxだ。同社はこれまで、画像検索技術を提供する形で各社のケータイ向けマーケティングをサポートしてきたが、今夏の日本法人の立ち上げを機に自社ブランドのサービス展開し、サービスプラットフォームの構築に本腰を入れるという。NASAのエンジニアが開発した画像認識技術を使った検索サービスを「写リンク」というブランド名で展開し、日本市場での認知向上とシェア拡大を目指す。

 米Evryxの日本法人、エブリクス・ジャパンが9月2日、写リンクのサービス説明会を開催し、同社代表取締役の河合秀義氏が競合サービスに対する優位性やビジネスモデル、同サービスが目指すビジョンについて説明した。

 なお、写リンクの利用にあたっては端末にアプリをダウンロードする必要があり、同社ではドコモ、au、ソフトバンクモバイル向けのアプリを提供中。iPhone 3G向けアプリも開発中で、現在App Storeの承認待ちだという。

Photo 写リンクのサービス概要(左)と機能(中)、これまでの採用実績(右)

静止画、動画の検索に対応、来年末には音声検索も

 ケータイを利用した画像検索の利点は(1)写真を撮って送るだけで情報を得られ、テキスト入力をする必要がない (2)QRコードのように誌面のデザインを損なうことがない (3)すでに掲載された写真でもデータベースに登録すれば使えるため、急なプロモーションにも対応できる(4)携帯電話のWeb経由で情報を提供するため、情報の更新がしやすい といった点で、これは他社の画像サービスにも共通するメリットだ。

 写リンクならではの優位点として河合氏が挙げるのが、多彩なビジュアル検索に対応している点だ。複数のモデルが写っている写真でも、それぞれが身につけているアイテムの情報をまとめて提供できる「マルチマッチ」に対応するほか、缶に印刷されたロゴや立体物などの認識にも対応。また、秒間7フレームの動画も認識できることから、テレビで流れる映画の予告編などの検索も可能だ。Evryxでは音声認識の可能性も模索しており、「2009年末くらいまでには、音声検索を投入する予定」(河合氏)だという。

Photo 雑誌の誌面、立体物に印刷されたロゴ、映画の予告編など、多彩なビジュアルコンテンツを検索できる

 もう1つの特徴は、位置情報との連携に対応している点。GPS機能を備えたケータイで対象物を撮影すると、その写真を撮った場所の周辺情報をユーザーに提供できるという。「例えば東京タワーを撮影すれば、その周辺の飲食店などの情報も合わせて提供できる」(河合氏)といった具合だ。「(同じものを撮影しても場所によって異なる情報を提供できるなど)絞り込んだマーケティングが行える」(同)

Photo 競合サービスに対する写リンクの優位点

雑誌やテレビで見たものが“分かる”“買える”

 ブランド名や商品名が分からなくても、“写真を撮って送れば、それが何かが分かる”ことから、写リンクはECサイトとの連携で強みを発揮できる――。こう話すのは、インターネット総合研究所の中村高根氏だ。特にファッション関連のEコマースは今後、大きく伸びると予想され、静止画や動画がプロモーションで重要な役割を果たすことから、画像検索を生かせるという。

 「雑誌で見たものを買いたいと思ったとき、現状ではブランド名を覚えて検索して探すか、雑誌に印刷されたQRコードで購入サイトにアクセスする――といった手段で買うことになる。しかし、テキスト入力が面倒という人もいるし、QRコードは『雑誌のイメージを損ねる』と媒体側が懸念するケースもある。雑誌から、どのような方法で連動させるかが課題になっている」(中村氏)

 写リンクならテキスト入力の手間がかからず、雑誌の誌面にQRコードを埋め込む必要もないなど、ユーザー側と情報配信側の両方にメリットをもたらせるというわけだ。

 エブリクス・ジャパンも、雑誌と写リンクの連携強化を目指しており、ポスターや屋外広告、テレビなどとも連動したクロスメディア・マーケティング展開による相乗効果を狙う。「雑誌と連動したり、通販雑誌をデータベース化して雑誌を写すだけでサイトに飛ばせるようにすることを、この年末にも実現したいと考えている」(河合氏)

Photo

 ほかにも、写リンクで生じる広告収入を代理店やパートナー企業で分け合うレベニューシェアモデルや、キャンペーンモデルなど、多彩なビジネスケースが想定できると河合氏。将来的には、GoogleのAdWordsの画像版的な広告モデルの導入も検討しており、その準備を進めているという。

Photo 写リンクの用途とビジネスモデル(左、中)、キャンペーン価格のモデル(右)

サービス展開には課題も

 多彩なビジュアル検索を可能にする写リンクだが、いくつかの課題も残っている。1つは、利用するのにユーザーがアプリをダウンロードしなければならない点だ。これについては、あらかじめアプリをプリセットしてもらう方向で、キャリアやメーカーに働きかけるとしている。

 2つめは、データベースの強化策だ。データベースが充実していないと、ユーザーが検索したにもかかわらず“検索結果が表示されない”ということになり、継続して利用してもらうことが難しくなる。

 河合氏は、現状ではCDやDVDなどの情報が比較的充実しているとし、今後は提携先からの画像提供や、雑誌などのメディア連携を通じてデータベースの拡充を図りたい考え。また、著作権などの問題をクリアできれば、SNSやブログなどとの連動も検討したいという。

 3つ目は、“一語検索”的にしか利用できない画像検索で、多彩な情報をどのように見せていくかだ。写リンクでは、撮ったアイテムそのものの情報に加え、位置情報に基づいたショップ情報や、そのアイテムが買えるショップ情報、価格情報など、さまざまなデータをユーザーに提供できる。画像検索はテキスト検索と異なり、検索時に複数の条件を設定できないことから、最初の段階で情報を絞り込むのが難しく、利用者に最適な情報の見せ方にも工夫が必要になる。

 これについては、カテゴリーごとのリスティングやソートで情報を見やすくするとともに、GPS利用の有無などで目的を絞り込んで結果を出すなどといった工夫で対応するという。

 さまざまな課題はあるものの、画像検索がケータイ市場にもたらすメリットは大きいと河合氏は胸を張る。「画像検索は、テキスト検索に取って代わる、人の役に立つ技術だ」(河合氏)

Photo 写リンクサービスの課題
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