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» 2009年01月14日 22時47分 UPDATE

コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく:第18回 不況ブーム真っ只中で思うコンテンツ屋の心意気

東京の片隅で零細企業を経営している自分を心配してか、ことあるごとに「おたくは大丈夫?」的な質問をいただいてしまった2009年初頭。うまく答えられなかったので、ココでまとめてみたいと思います。

[トミヤマリュウタ,ITmedia]

 いきなりですが、改めて自己紹介させてください。これを書いているトミヤマリュウタという者は、r.c.o.株式会社(昨年の11月に有限会社から組織変更してみました)の代表でございます。会社の代表……なんて書くと、なんだか偉そうですが、その実スタッフは自分も含めてわずか4名+ウサギ1匹という、絵に描いたような零細企業でして、「会社の社長」というより、「バンドのリーダー」といった風情で、日々各種制作業務に勤しんでおります。

 具体的にどんな制作物を作っているのかといえば、紙媒体・Web媒体に関わらず、編集・執筆・デザイン・イラスト・動画、はたまたマンガ制作(今年から、某所で4コママンガの連載を開始)に至るまで、ほぼ何でもアリ。自分個人の器用貧乏がそのまま会社にも乗り移っている感じですが、おかげで1つの業界だけでなく、さまざまなクライアントさんとお仕事をする機会を頂いております。

年末年始のご挨拶は「不況でしょ?大変でしょ?」でした……

 今回なんでこのような話をしているのかと言いますと、年末年始の休み中、ことあるごとに「で、会社の方はどうなの? 景気悪いっていうじゃない」的な話を振られたためです。

 世の中、すっかり不況ブーム。テレビをつければ、「本日の不況動向」がヘビーローテーションされている時代ですから、挨拶代わりに不況話を振りたくなる気持ちも分かります。分かりますが、年末年始のめでたい席でお金の話をするのも嫌ですし、2、3分で説明するのも難しいので「どうなんですかねー」なんてお茶を濁してやり過ごしていたわけですけど……。ぶ、ぶっちゃけ、皆さんどうですかね? そんなに業績悪いですか??

 当社は底辺の請負会社なので、結局のところ売り上げはクライアントさんの業績に左右されてしまうわけですが、それで連鎖倒産なんてことにはならないよう、日頃から、複数のクライアントさんとお付き合いしたいという方針を持っています。

 そこにはとある苦い思い出がございまして……。あれはもう7年前のこと。フリー(個人事業主)として独立してから1年位たったときのことですが、当時重点的に仕事を請けていた、某ケータイ系クライアントさんからの仕事量が、ある日突然ガクッと減り、売り上げが激減してしまいました。いま考えると、たいした額ではないのですが、当時の自分にとっては収入が3分の1になるという事態で、即赤字転落に。

 そのまま、貯金取り崩し生活へ突入したわけですが……。本当にあの頃を思い出すと、自分がいかに何も考えていなかったのかと悲しくなります。なんの備えもなく、なんの気構えもなく、ただただ慌てふためいていたように思います。もちろん、たいした貯金もなかったので、あれよあれよと「やばい、来月の家賃が払えない」状態になりました。

 最近テレビでよく見る、貧乏な若者ドキュメンタリーそのままの世界です。テレビでそうした若者を見ると、当時の自分がフラッシュバックしてきて気が滅入ります。毎日毎日、パスタを茹でては、塩だけをふりかけて食べていた自分。古本を読んで、散歩して、ノートに落書きしてといろいろしても時間がつぶれず、うっかり時間が生まれるとネガティブな思考にとらわれてしまうため、とりあえず安上がりに寂しさを埋めようと2ちゃんねるばかり見ていた自分。ほんと、ステレオタイプですねぇ。

 しかし、「これはもう実家に帰るしかないな……」というタイミングで、ありがたいことに、とある雑誌から急な仕事が入ります。「ライターが飛んで16ページ白紙になっちゃうから1週間でなんか書いて埋めて!」という仕事です。これぞ天の助け(笑)。まだ紙媒体の勝手がよく分かっていなかった当時の自分には不安な仕事でもありましたが、寝ずに仕事をしてなんとか臨時収入を得、その収入を元に、借金などしつつ、なんとかかんとか家賃を払えたのでした。

 えー、思い出話が長くなりましたが、つまりはそんな体験から、1社さんと多くのお付き合いするのは、深い仕事がしやすく仕事も受けやすくなる反面、こうしたリスクもあるという至極当然なことを実感し、それからは、常に複数のクライアントさんとお付き合いすべきだなと考えるようになったわけです。

 で、不況が叫ばれる現在ですが、結論から言うと「A社さんからの仕事が減ってしまった……けど、B社さんからは新たな仕事が入ったので、結果トントン」みたいな状態でございます。いま極端に業績が悪いということはないので、年末年始にご心配頂いた皆さん、安心してください。

広告モデルの仕事はやっぱり厳しい…

 しかし、繰り返しになりますが、世の中は空前の不況と呼ばれています。テレビや新聞を賑わせているのは、世界同時株安に端を発する円高の煽りを受けて、輸出依存度の高いメーカー、製造業が不振に陥っているという話ですよね。そして、メーカーの不振による広告費削減で、広告や出版も不振に陥っている……という。この中では、広告・出版業界と、当社は近しい位置におります。とくに出版業界ですけども。

 実際、出版業界では暗い話が多いです。ウチの仕事でも、長年関わっていたとある雑誌(ここのおかげで家賃が払えた)が休刊になってしまったり、一時期元気だったフリーペーパーの仕事がめっきりなくなってしまったり、知り合いの編集者さんたちからことごとく人生相談されたり(1週間家に帰っていない状態で「俺、いつまでこの仕事続けるのかなぁ」とつぶやかれる)……と、ダークな話が盛りだくさん。

 出版系メインでやっていた底辺仲間にも、倒産がささやかれる編集プロダクションや、廃業を口にするライターさんが現れたりと、厳しさは増しています。

 とはいえ、一連の株価ショックとは関係なく、以前から出版業界は不況だったわけで、突然紙媒体が売れなくなったというわけじゃありません。売れないけれど、それでも広告費でなんとかやっていた雑誌媒体が、メーカーの広告費削減で大きな打撃を受けて、追い討ちをかけられたという状態です。現在のこの状況は、いわゆる「すでに起こった未来」(P.F. ドラッカー)というやつですよね……。

 実際問題、当社の売り上げに占める「紙仕事」の割合は、去年1年でぐぐぐーっと下がりました。

 2006年から2007年には売り上げの4割を占めていた紙仕事が、2007年から2008年には、2割にまで下がったのです。では具体的にどんな紙仕事がなくなったのかといえば、やはり雑誌やフリーペーパー、もしくは広告モデルで作られる書籍(企業本)などといったもので、残ったのは純粋に部数で勝負する一般書籍やムック系といった形。つまりは、「広告モデルで成り立っていた仕事がなくなっていった」ということですよね。

不安な時代ほどエンターテイメントが求められる……のかも

 前にも触れましたが、じゃあその下がった分の売り上げはどうなったのかというと、減った分は「Web仕事」が穴埋めしております。当社の場合はとくにケータイ系の仕事ですけども。

 ケータイ業界的には、端末買い替え需要が落ち込んで大変などといわれていますけど、じゃあコンテンツ業界の景気ってどうなんでしょう? といわれたら、個人的には「なんだか逆に忙しくなってるかも??」という印象です。

 理由はいろいろ考えられます。

 まず、「ウチがたまたまそうなのかもしれない」という話(笑)

 とはいえ、そうなると話が進まないのでそれは置いておきまして、ほかには「2年間買い替えられない分、中身を変えたい」ということで、きせかえコンテンツやらデコメやらといったデジタルコンテンツ利用が増えているのではとか、「不況で節約したい人が増え、故に定額料金で遊べるケータイコンテンツを使い倒して暇を潰そう」と、バーチャル安・近・短的な発想によるケータイ利用が増えているのではないか……などなど。

 まぁ、自分が分析するよりは、コンサルタント、アナリスト、ジャーナリストの皆様からご意見を拝聴した方がいいと思うので、これ以上は割愛しますが、少なくとも、案件数は増えているように感じるんです。

 で、ふと思い出したのが、この言葉でございます。

 「死という、逃れられない運命。
 その運命をいっとき忘れるために、人はエンターテインメントを消費する。」

 ……突然なに言ってんだお前とお思いだと思いますが、これは幻冬舎の社長、見城徹さんがよくおっしゃっる話でございます。あくまで自分が記憶している言葉を書いただけですから、若干ニュアンスが異なると思いますけども、要は、人は寂しさを埋めるために本を読んだり映画を見たり音楽を聴いたり舞台を見たり、はたまたゲームやネットに勤しんだりするというお話です。

 この、「寂しさ=逃れられない死」という運命があり続ける限り、エンターテインメントは必要とされ続けると。実際、「来月の家賃が払えないかも」という事態に自分が直面したとき、ネガティブな思考から抜け出すために欲していたのは、エンターテインメントだったように思います。だから、自分としては、大変腑に落ちる話でした。

 空前の不況ブームである今は、よりこの運命を身近に感じさせ、かつ漠然とした不安と寂しさを掻き立てている時代ともいえるんじゃないでしょうか。となると、その寂しさを埋めるための何かが、より必要とされるはず。

 人によっては、それが家族との触れ合いであったり、はたまた神様(!?)であったりもすると思うのですが、見城さんの言葉を借りれば、エンターテインメントにもその役割が求められているといえます。本にもテレビにも、そしてケータイ上で楽しめるエンターテイメントにも……きっと。

 だからこのご時勢に案件数が増えている……なんていうセンチメンタルな断定はしませんけども、こうした側面もひょっとしたらあるのかなと思う次第です。

 「不況でしょ?大変でしょ?」という新年の挨拶を頂きながらも、暗い時代に暗いことを言っても仕方ないですし、2009年は毎日が楽しくなるようなコンテンツをケータイという身近な道具の中へ、たくさん提供できたらいいなと思った年の始めでございました。

 まぁ、今年最初の回はそんな格好つけた話で終わりたいと思います。さ、不況ブームに乗ってお金稼ぎするぞー(笑)。

プロフィール:トミヤマリュウタ

ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。


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