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» 2010年01月13日 11時00分 UPDATE

東京各地に「物語の芽」――エアノベル後日談を“中の人”が語る (1/3)

モバイルできる情報共有メディアが、物語の新しい姿を作っていく――。セカイカメラを使った物語体験として無事成功を収めた「エアノベル #15a24 」を、“中の人”である作家の新城カズマ氏と頓智・の井口尊仁氏が振り返った。

[ITmedia]
photo 「15×24」 (C)2009 新城カズマ/箸井地図/集英社スーパーダッシュ文庫

 +D Mobileでも体験リポート(前編後編)を掲載した「エアノベル #15a24 」。作家・新城カズマ氏と頓智・(とんちどっと)のiPhone向けアプリ「セカイカメラ」とのコラボレーションで実現した今回の取り組みを、新城氏と頓智・の井口尊仁代表が振り返る。エアノベルを運営視点で分析しつつ、Twitterやセカイカメラなどの“モバイル可能な情報共有メディア”を使った、新しいストーリーテリングの手法に両氏は興味を寄せる。


「エアノベル #15a24 」とは

作家の新城カズマ氏がオーガナイザーを務め、セカイカメラを使った“参加する物語”として2009年12月31日に東京で行われたイベント。新城氏の小説「15×24」のキャラクターを救うべく、イベントの参加者が「ピンクのケータイを持つ男」を探すという、一種のARG(代替現実ゲーム)として実施された。参加者は、東京各地に投稿された男の情報(エアタグ)をセカイカメラで探し、Twitterやメーリングリスト、掲示板などで互いに情報共有を図りながら男の居場所を探った。実際に東京で男を追う「捜索隊」には約20〜30人ほどが名乗りを上げ、屋内から捜索隊を支援した「協力者」も多数現れた。参加者のやりとりの多くは、Twitterのハッシュタグ#15a24でうかがい知れる。ルールの詳細などは、新城氏のブログや、非公式まとめWikiで見ることができる。


エアノベルは実現可能だと証明できた

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井口尊仁氏(以下井口) 大晦日の東京で起動した「エアノベル #15a24 」ですが、想像を超えた成功だったように思います。「読む」行為の拡張に加え、「楽しむ」体験としてのソーシャルゲームが現実空間で繰り広げられました。“エアノベルゲーム”と呼んでも良いのかもしれません。

新城カズマ氏(以下新城) そうですね、確かにその通りだと思います。

井口 今回のような「筋書きがなく、参加者の動向でいくらでも変化する」参加型のゲームが、オープンな環境のなかで実現した事は奇跡的だと感じたのですが、新城さんご自身としては、どのような成果があったとお考えですか?

新城 まずなによりも、「エアノベルは可能である」と証明できたのが最大の成果かと。気分的には、暗中模索でマーキュリー計画を必死になって実行したら、いきなり月面着陸に成功しちゃって、むしろ司令本部の中の人がびっくり仰天、みたいな感じでしたが。

井口 言い得て妙ですね。司令本部支局(頓智・)も同じく仰天でした。

新城 幸いなことに事故もなく、最後も大人数による大団円になったのはおっしゃる通り奇跡的でしたね。本当に皆様ありがとうございました。

井口 SUKIYAKI(セカイカメラの新バージョン発表会)で発表した時点では、エアノベルにはソーシャルゲームとしての構想はあまりなく、むしろ「現実空間での読書体験」というイメージを持っていました。最終的にRPG的な体験として結実したのは、新城さんの狙い通りだったのですか?

新城 「ゲームっぽくなった」のは、狙いというより「そのほうが新城のやる作業が少なくて楽だなあ」というモノグサ精神の発露だったのですが。なので、システム設計の根幹は「いかにして参加者自身にモノガタリを記述してもらうか」だったわけです。すいません(笑)

井口 いえ、参加者が勝手に物語的空想をふくらませていくのを目の当たりにした立場として、リアルな告白に感謝します(笑) ARGのニュータイプとして、記念碑的なプロジェクトになったと感じています。

新城 けがの功名とでも言いますか……。

井口 「男」を時間内に捕まえるという、ドロケイ(あるいはケイドロ)的な要素に加え、捜索隊の中に裏切り者が紛れ込むといった、「汝は人狼なりや?(※1)」のゲーム設定を盛り込んだ事が、今回の成功を支えたように思います。こうしたゲームバランスに関して、どう考えていましたか?

新城 「裏切り者」(※2)の要素は、捜索隊が30人を超えるような大人数になった場合でも「男」が簡単に捕まらないようにするための保険として、挿入しておいた部分が大きかったです。もうちょっと前半に皆さんが疑心暗鬼になるかなと予想していましたが、後半にそうした傾向が集中したのが幸いし、物語が盛り上がりましたね。

井口 なるほど、そのあたりは参加者の規模に応じて変更可能に設計されていたということなのですね。

新城 そうです。ちなみに今回のエアノベルにおける最適戦略は、過半数が裏切り者でないことを確認してから3人1組(1人がiPhone担当、1人がケータイ連絡担当、1人が周囲を観察)に分散して、都心のJRの結節点である新宿と秋葉原を中心にエアタグを打ちまくりヒントをかせぐ……ではないかと、想定してました。

井口 なるほど。振り返ってみると、エアタグを打った回数に応じてヒントがもらえるという仕組みがありながら、「捜索をせずにエアタグを打ちまくる」的な戦略は意外と発動しませんでしたね。プレイ期間が長かったり、参加者がリピーターだったりすると、こうしたハッキングがもっと起こりえたはずで、今回はゲームそのものの新鮮さ故の“愉快”を強く感じました。

(※1)同ゲームでは、「村人」と、村人に化けた「人狼」とにプレーヤーが別れ、人狼は正体がばれないように村人を捕食していく。村人らは互いに情報を交換して、村人の勢力が人狼より衰える前に人狼を特定し、処刑する。
(※2)ルールでは、「男」と1対1で対面した際、男に「じゃあ正解を教えようか」と言われるとプレーヤーは裏切り者になり、男の支援者として活動することになっていた。当日は、参加者の人数などを踏まえながら、事前に新城氏と連絡を取った「最初から裏切り者として活動するメンバー」が投下されていた。

参加者が増えると、難しい問題も

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井口 今回のエアノベルの参加者は「15×24」ファンとセカイカメラファンが入り交じっていて、その好対照も面白かったですね。下手に作品を読んでいない方が、謎解きの上では有利だった気もします。

新城 そこが一番バランスに苦労しました。原作「15×24」を既に読んでいた参加者の方々が推測したように、原作ゆかりの場所にエアタグが集中してしまうと、まだ読んでない方はつまらなくなっちゃうし……。それに、小説のネタバレ的なエアタグやつぶやきが参加者から大増殖する危険性もありましたので(笑)。

井口 そこを「2009年設定」ということで、相当ズラしたのが良かった気がします。

新城 あるいは「協力者」として暖かい室内にいた方が、いちばん冷静に参加できてたのかも? と思いますね。

井口 当日の「寒さ」は激しく阻害要因になっていましたね。そもそもiPhoneの(タッチパネルの)操作が困難だったり。

新城 あの寒さで敢闘された皆さんに敬意を表します。

井口 あと、開催前は参加人数が予想できず心配した面もありましたが、結果としては非常にバランスの良い参加人数になったと思います。しかし、万が一「参加者が非常に過少あるいは非常に過大」だった場合の打ち手はあったのですか? また、準備期間や告知期間がかなり短かったと思うのですが、苦労はありませんでしたか?

新城 僕の方は、少ない分には5名くらいでも全然OKなように設計してまして……。むしろ、大人数になるほうが危険だったと思います。仲間が多いと、人間というのはつい大胆になるものですし、そうなると路上で「男」を追って走り出す人とか、知り合いと口喧嘩はじめちゃう人とか、無関係の通行人を尾行しちゃうとか、いろんなアクシデントが考えられますからね……。

井口 人数が多いと、集団を制御するための別の注意や方法論が求められそうです。

新城 告知期間も、ちょっと短いかなーとは思ったのですが、昨今の電子メディアの発達を考えると、おそらく1週間以上前に公式ルールを発表していたら「最適戦略」がバレバレになっちゃったり、学生時代のヒマな友人を大挙して動員したり、いろいろバランスが崩れてたかもしれません。

井口 そうですね、あんまり周到に準備してしまうと面白く有りませんね、きっと。

新城 そういった意味で、ホントに今回は初めてだからこその奇跡的な好結果だったと言えます。

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