それは紙の再発明――「enchantMOON」製品説明会iPadとは違う設計思想

» 2013年04月23日 22時52分 公開
[ITmedia]

enchantMOONで「我々は紙を再発明した」

enchantMOONを持つUEIの清水亮CEO

 ユビキタスエンターテインメント(UEI)は4月23日、タブレット端末「enchantMOON」のプレス向け説明会を実施した。enchantMOONは、独自機能に特化した専用OS(Androidベース)を採用する“デジタルノート”。1024×768ドット表示の8型液晶ディスプレイを搭載し、静電容量式タッチパネルとアクティブ式デジタイザペンにより、指でのタッチ操作とペン入力の両方に対応する。「MOONPhase」と呼ばれる専用OSは、ホーム画面やアプリのアイコンといった概念がなく、スクリーンに書いた文字でそのままWeb検索を行ったり、カメラなどの機能を呼び出せるほか、手書きしたページにハイパーリンクを設置して情報を整理できる。また、ビジュアルベースのプログラミング開発環境「MOONBlock」を備え、容易にアプリケーションやゲームの開発が行えるのも特徴だ(スペックの詳細はUEI、手書きメモに特化した独自OSの8型タブレット「enchantMOON」を参照)。

 UEIの清水亮CEOは、手で文字を書き視覚でフィードバックを受けるという一連の過程に人間の思考が影響を受ける点に着目し、紙が持つ表現力の高さと、情報を検索・共有できるコンピューターの利点の両方を実現するものとして、enchantMOONを開発したと説明する。

 同氏は「紙は単なる記録のための媒体ではない。何か新しいことを考えるとき人は紙に書いて考える。いわば紙とペンの発明によって人類は進歩してきた。この点、スティーブジョブズ氏は、iPhoneで1つ大きな間違いを犯したと思う。それは『人間の指こそが最高のスタイラスだ』としてペンを捨てたこと。しかし、本当にそうであれば、粘土板から発達しなかったはずだ」と述べ、iPadに代表されるタブレット端末とは異なる設計思想から出発したデバイスであることを強調した。

 もっとも、これまでのタブレット端末との違いは、実際のデモを見たほうが早いだろう(ホーム画面やアイコンがなく、書いた文字を指で囲んでWeb検索したり、書いたメモをEvernoteにアップロードする、といった操作が実演されている。なお、初期設定が済むと12のチュートリアルが用意され、基本的な操作は分かるようになっている)。

1024×768ドット表示の8型液晶ディスプレイを搭載し、前面に200万画素カメラを内蔵する。外装はマグネシウム合金製だ。「XGAの解像度はiPad miniと同じで“古い”のではなく“適切”。この製品にスペックは関係ない」と清水氏。ちなみに本体前面側にはロゴなどが一切ない(写真=左)。スタンドを兼ねる取っ手には、カメラ用ストラップを流用できるストラップホールを用意。背面には取っ手を収納するくぼみがある(写真=中央)。デジタイザペンは電池駆動のアクティブ式。大きく、重くなるが、コストを抑えつつ、高い精度を得られるという利点がある(写真=右)

「自分の好みで育っていく紙」(清水氏)をコンセプトに、ブロックの組み合わせでプログラミングができる開発環境「MOON Block」を搭載しているのも特徴の1つ(写真=左)。6歳の子どもでもプログラミングが可能という(写真=中央)。同社のプログラマが90分ほどで作ったシューティングゲーム(写真=右)

哲学者・思想家の東浩紀氏(右)、イラストレーターの安倍吉俊氏(中央)、映画監督の樋口真嗣氏(左)もenchantMOONのコンセプトやデザインに関わっている

 上のデモ動画を見れば分かるように、従来のタブレット端末とはかなり異なるユーザーインタフェースを持つenchantMOONだが、同社が公開した製品プロモーションビデオ(映像監督は湯浅弘章氏)も、その設計思想の違いを示唆する内容になっている。廃墟で拘束具に身を包んだ人々の中から、ひとりの少女がenchantMOONを手にし自由を求めて逃げ出す、というストーリーで、冒頭に出てくる青リンゴは、Apple(リンゴ)とAndroid(緑)のメタファーだ(少女はリンゴを拒否するように蹴飛ばす)。また、このPVからかつてリドリー・スコットが撮影した“最も有名なAppleのCM”を連想してしまうのも偶然ではない。同CMはジョージ・オーウェルの「1984」を題材にしているが、enchantMOONのPVも同じく、20世紀のディストピア小説である「すばらしき新世界」から着想を得たという。

 enchantMOONの企画に関わった思想家の東浩紀氏は、「MacintoshのCMでは、IBMを全体主義になぞらえ、それに対して自由の象徴であるApple、という構図だった。これを超えるPVを考えたとき、今の時代のディストピアは、全体主義ではないし、検閲もない、何かに支配されているわけでもない、むしろすべてが肯定され、すべてが即座にかなってしまうことで、かえって考えることをやめてしまうようなオルダス・ハクスリーの描いたディストピアに近い。例えば、人々がキーボードを叩かなくなってしまった世界。AppleがiPad的な進化で目指しているのは、あるいはGoogleが目指しているのは、(人が)検索する前に(機械が)検索してくれるような、デバイスが人間の欲望を先取りしてくれるような未来だろう」と述べ、“Apple的な専制”からの逃走をほのめかした。

 なお、enchantMOONのPVは以下で視聴できる。

enchantMOONの外観デザインを手がけた安倍吉俊氏によるスケッチ。デジタルガジェット好きと語る同氏は、「これまでいろいろなデバイスを試してきたが、ペンの追従性や筆圧感知などが不満で紙のメモ張と行ったり来たりしていた。これはいけると思う。ちょうど自分が欲しかったもののデザインを頼まれて運命を感じた」と話す(写真=左/中央)。樋口監督も会場でスケッチを描いてみせた(写真=右)

 enchantMOONの用途には、共有可能な議事録のメモや、データ集計が容易な電子アンケート、インタラクティブなデジタル教育、英語の書き込み型学習などが想定されている。説明会と同日の4月23日より予約を受け付け、すでに1000台を超える注文があったという。価格は3万9800円だ。

なお、会場に置かれたデモ機は、試作段階ということもあって動作はかなり不安定かつ、技適の関係(申請中)からインターネット機能も利用できなかった。このため、製品版を触った印象とは大きく異なると思われるが、少しだけ気になった点を挙げておく。まず、試作機ではペンの追従がやや遅れ、ペンの動きが速いと入力が認識されなかった。また、パームチェックが甘く、ペン入力時にガラス面に触れた手が認識されてしまうことがあった。処理が追いつかないためか、文字を指で囲ったときのエフェクトがスムーズに表示されなかったり、システムが固まることも多い。もっとも、こうした点は製品版で改善される可能性はある(と信じたい)。ただ、そもそも手書きが起点になるユーザーインタフェースは、ユーザーがenchantMOONで何ができるのかを知るための「気づきのきっかけ」がなく(とりあえず目についたアイコンを押してみることもできない)、enchantMOONの操作方法をあらかじめ熟知していないと扱えないことにとまどった。製品コンセプトもデザインもプロモーションビデオも素晴らしいので、実際に出荷される製品も素晴らしいものであることを期待したい

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