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» 2013年06月27日 11時15分 UPDATE

“泣ける恋愛”から“ファンタジー”へ――スマホ時代のケータイ小説事情 (1/2)

一時のブームが過ぎ去ったケータイ小説だが、その人気は衰えていない。読者・著者ともに利用者が増え、作品ジャンルも幅を広げている。またスマホ全盛の今、CGMビジネスの成功例としても脚光を浴びている。

[佐野正弘,ITmedia]

 「恋空」「赤い糸」などの人気タイトルを輩出し、2007年前後に大きなブームや論議を巻き起こしたケータイ小説。その後ケータイ小説に関する話題も少なくなり、独特の表現と泣ける恋愛ストーリーという当時のイメージが固定化してしまった人もいるだろう。

 だが現在のケータイ小説は、執筆者の層や対応デバイスなど、環境の変化とともに作品の内容面にも大きな変化が起きており、実像はそのイメージから大きく変わってきている。ブーム以後から現在に至るまで、ケータイ小説がどのように変化してきたのか、改めて追いかけてみよう。

ブーム沈静化も読者層に幅 CGMの成功事例として脚光

 ケータイ小説とは、「魔法のiらんど」(アスキー・メディアワークス)や「野いちご」(スターツ出版)などの携帯電話向けCGMサイトで執筆された作品を指し、読者とコミュニケーションしながら執筆が進められる点に特徴がある。

photophoto 代表的なケータイ小説サイトの「魔法のiらんど」(写真=左)と「野いちご」(写真=右)

 身近な携帯電話で読むことや読者層を意識して、リアルさを感じさせる独特の表現形態が注目を集めるとともに、恋空などに代表される、やや過激な内容を含みながらも泣ける恋愛ストーリーが人気を集め、大きなブームを巻き起こした。だが一方で、その内容や表現に対する批判的な見方もあり、文学やネットカルチャーなどさまざまな側面で、大きな論議も巻き起こすこととなった。

 しかし一連のブームが落ち着くと、ケータイ小説が(読者以外の)目に触れる機会は大幅に減少していった。その要因は、ブームが落ち着いたことで、主に都市部の書店にケータイ小説が置かれなくなり、人気書籍のランキングなどに現れなくなったことが大きいとみられる。

 だが、ケータイ小説自体の人気がなくなってしまったわけではない。ブームの後も、そもそものターゲットである女子中高生を中心とした層からの支持は継続して獲得していたのだ。Web上でも従来より多くの作品が投稿されるようになり、現在に至るまで書籍もコンスタントに刊行されている。

 現在ケータイ小説が多く売られているのは、住宅地にある書店や、郊外や地方にあるロードサイド型の書店など。都市部ではなく住宅地や郊外が販売の中心になのは、読者層が女子中高生であり、行動範囲が居住地域中心になるためと思われる。

 本になる前のケータイ小説、つまりWeb上の作品は、読者層が広まる傾向にある。例えばディー・エヌ・エー(DeNA)とNTTドコモが出資して展開している「E★エブリスタ」は、女性だけでなく男性からも支持を得ているし、スターツ出版は中高生に人気の野いちごに加え、成人女性をターゲットとした小説投稿サイト「Berry's Cafe」を、2011年10月から新たに展開。OLや主婦など、従来とは年齢構成が異なるターゲットを獲得している。

 また一過性のブームのあと、ケータイ小説が継続して人気を得ていることが、ほかのジャンルにも影響を与えているのは無視できない。

 例えばNTTドコモは、アクセサリーやインテリアなどのハンドメイド作品にも対象を広げた「dクリエイターズ」を5月15日に開始している。この背景には、同じくクリエイターが参加するコンテンツサービスのE★エブリスタが、2012年度に20億円の収益を上げたこと、そしてサービス開始から2年9カ月の間、4000人のクリエイターに約4億円を還元したという“実績”が大きく影響している。

photophoto NTTドコモが「dクリエイターズ」でアナログのハンドメイド作品にも対象を広げたのには、E★エブリスタの継続した人気が大きく影響している

泣ける恋愛からラブコメへ、オフィスラブ作品も増加

photo ライトな恋愛ストーリーが現在の主流。E★エブリスタ発の「偽コイ同盟。」(著:榊あおい)のコミック化作品は無料アプリとしても配信され、累計ダウンロード数80万を超える人気に。写真はコミック版(作画:アヤノ、集英社刊)

 ケータイ小説はブームによってその存在が世に広まっただけでなく、利用者の幅が広まったことで、作品内容にも大きな変化が出てきた。

 先にも触れたが、ブーム以前は自身の体験談などをベースとした、泣ける恋愛ストーリーが高い人気を博していた。これは、女子中高生にとってリアルさと共感を得られる要素がストーリーに多く含まれていたためといえる。もちろん現在もそうした作品が多く存在し、根強い支持を得ているのは確かだ。しかしブーム以後に急増して現在の主流となっているのは、空想を主体とした、ライトな感覚で楽しめる、甘く、淡い恋愛ストーリーである。

 ライトな恋愛作品が増加した背景には、執筆者の変化が影響しているとみられる。ケータイ小説のブームによって、各CGMサービスがコンテストを実施し、書籍化作品を多く輩出するようになった。それゆえこれらのサービスが、“自分の書いた小説を多くの人に見てもらえ、しかも書籍化への道筋が敷かれている”と認知され、若年女性を中心とした“小説を書きたい人”達に注目されるようになったのだ。

photo Berry's Cafe発の書籍「無口な彼が残業する理由」のように、年齢層の広がりにあわせてオフィスラブ系の作品も増加(著:坂井志緒、スターツ出版刊)

 小説を書きたい人がCGMサービスに多く流れたことで、小説執筆者の主流が、従来の“体験談をつづりたい人”から大きく変化した。当然作品の傾向にも大きな変化が現れ、読者の嗜好にも変化が現れてきたといえよう。

 ちょうど同時期に、「DECOLOG」(ミツバチワークス)や「CROOZblog」(クルーズ)などの携帯電話向けブログサービスが人気となり、同世代のリアルな声を求める層がそちらに興味を示すようになったことも、ある程度影響しているだろう。

 読者や執筆者の年齢層が広がったのに伴い、恋愛ストーリーの舞台にも変化が生じている。社会人世代が多く参加しているBerry's Cafeなどでは、学校ではなく会社などを舞台としたオフィスラブ作品が増えている。

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