在京キー局が、かつて敵対視していた大手動画サイトとの関係を強化し始めた。テレビ朝日とTBSテレビがそれぞれ9月29日、YouTubeとパートナー契約を締結。YouTube上に公式チャンネルを設置し、ニュース番組などを配信する。
キー局はここ数年、YouTubeに投稿される著作権侵害動画の扱いに悩まされてきた。YouTube上には今も、テレビ番組を無断でアップロードした動画が並ぶ。
それでも手を組む背景には、YouTubeの“内部”に入って侵害動画対策を強力に進めようという狙いと、屋台骨のテレビ広告事業が行き詰まる中、ネット動画に新たな収入源を求めざるを得ない厳しい台所事情があるようだ。
「違法動画は、あらゆる動画ビジネスに決定的なダメージを与える」(TBSテレビの氏家夏彦 コンテンツ事業部長)――そう考えるキー局がYouTubeとの関係強化に乗り出した要因の1つに、YouTube側の著作権侵害対策が進んできたことがある。
YouTubeは、権利者が登録した動画について、同じ動画や似た動画を自動で照合する「Content ID」システムを運用。各局も検証に参加し、「精度・スピードなどで実用に足る」(テレビ朝日の古川柳子クロスメディア専任局長)と判断した。「世界最大の動画サイトで違法動画を駆逐できるのは、動画ビジネスにとって大きなプラス」と、TBSの氏家氏は話す。
ただ両社とも、現状の対策だけでは満足してはいないようだ。YouTubeには今も、テレビ番組を無断でアップロードしたとみられる動画が並んでおり、著作権侵害動画の駆逐はできていない。「今後もシステムを詰めていきたい」(TBSの氏家氏)と、YouTubeと連携しながら違法動画対策を進めていく。
「ユーザーの動画投稿が一般化したが、投稿のルールなどリテラシーが置き去りにされたまま」(テレ朝の古川氏)という問題意識もあり、投稿動画のルールについても考えていきたいという。
テレ朝が29日にオープンしたのは、ニュースを配信する「ANNニュースチャンネル」と、YouTube上の“テレ朝ポータル”として番組プロモーションなどを行う「tvasahiちゃんねる」。TBSは「TBS Newsi」でニュース配信を始めた。
それぞれ、自社サイトでも無料配信している動画がほとんどで、ニュース動画が中心だ。「ライツの問題で、テレビ番組の映像をそのまま載せることはまだできていない」(テレ朝の古川氏)、「直接課金や広告、プロモーション活用などでビジネスになるなら、人気番組も配信したい。TBSは苦しい。何とかしてマネタイズしたい」(TBSの氏家氏)という事情があるためで、“人気番組も太っ腹に無料配信”ということにはならないようだ。
YouTubeもマネタイズ策を用意している。再生ページや動画内に広告を貼り付けられるようにしているほか、「Content ID」システムで、自社が権利を持つ動画の違法アップを見つけた際は、削除だけでなく、広告を貼り付けてマネタイズすることも可能。動画を有料配信する仕組みも今後、実装する計画だ。
「動画ビジネスに正解はない、いろいろ試していきたい」(テレ朝の古川氏)、「YouTubeの有料配信で、一緒に動画ビジネスを育てていきたい」(TBSの氏家氏)と、両社はYouTube動画のマネタイズに大きな期待を寄せている。
テレビ局を取り巻く事業環境は厳しく、TBSグループ、テレ朝とも、2010年3月期の連結最終損益は赤字の見通し。民放キー局各社はネットに活路を求め、自社サイトでも動画配信を行っているほか、動画サイトとの関係強化を図っている。
TBSは「ニコニコ動画」に公式チャンネルを設置。フジテレビジョンもニコ動への参入を発表している。フジとTBSはGyaOで動画配信を行っており、テレ朝もGyaOに参画する予定。フジと日本テレビ放送網はGyaOに出資している。
TBS、テレ朝とも、YouTubeオンリーではなく「全方位外交」だと強調する。「YouTubeだけとかニコ動だけ、といった展開はない。それぞれのサイトの特性をいかし、コンテンツごとにマッチングするサイトを使っていく」(TBSの氏家氏)
YouTubeに期待するのは、投稿型を生かした視聴者とのコミュニケーションとグローバル展開、月間4億2000万人という圧倒的なユニークユーザーの数だ。「世界展開するクライアントも多く、広告展開の要望がグローバルに広がっている」(テレ朝の古川氏)ため、テレビでは不可能だった、世界配信できる広告媒体としての期待もある。
YouTubeが“黒船”として日本のネット動画を席巻してから約3年。Googleのパートナー事業戦略担当副社長デービッド・ユン氏は、2007年2月の初来日から2年以上にわたり、日本の権利者と交渉を続け、キー局とのパートナー契約を勝ち取った。
「日本での新しいパートナーシップ構築はうれしい」――5回目の来日となった29日の会見でユン氏は、米国のパートナー数は数千社以上、日本は300以上と紹介。米国に次いでUUが多いという日本で、パートナー戦略拡大を進める姿勢を改めて示した。
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