連載
» 2013年06月19日 10時30分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「販売店>>>>メーカー」を揺さぶる“限定”大作戦 (1/2)

あらゆる業界で「限定カラー」や「初回特典つき」の製品が増えつつある中、PC周辺機器などでもこうした例が増えつつある。新発売プロモーションの一環のように見えるが、実は違った面も……。

[牧ノブユキ,ITmedia]

「発売→即終息」のサイクルで売上ベースアップを図る

 食品業界や化粧品業界などでよく行われるマーケティング施策の1つに「トライアルユース」がある。お試し価格や発売記念価格などの名目で値下げして販売したり、あるいは試供品をばらまいてユーザーに使ってもらい、新製品のリピーターになってもらおうとする施策だ。従来の製品ですでに満足している人は、ちょっとやそっとでは新しい製品に乗り替えようとしないし、試そうともしない。これらの施策は、その乗り替えのきっかけとなり得るものだ。

 もっとも食品業界などでは、将来的にリピーターになってもらうことを前提とせず、スポットで売上を稼げばそれでよしとする例も増えている。お菓子やドリンクでよくある「季節限定○○味」がそれである。売り方はトライアルユースのそれに近いが、特にリピートを前提にしておらず、どれだけ売れても既定数が出荷されればすぐ終息という繰り返しだ。これらの積み重ねがメーカーにとっては重要な収入源になるとともに、コンビニなどの重要な商材ともなっている。

 メーカーとしては、本来なら一品種を大量に作るのが効率がいいことは言うまでもないが、ユーザーの嗜好(しこう)が多品種少量に向かいつつある中、いつまでも1つの製品の定番化にばかりこだわっていてはジリ貧になってしまう。そこでユーザーおよび販売店のニーズを満たしつつ、確実に売上を稼ぐために編み出されたのが、一見するとトライアルユースにも見えるこれらの方法というわけである。実際には「発売→即終息」のサイクルを複数の製品で連続して回していくことで、年間を通して売上のベースを作っているわけだ。

 メーカー事情を知らない人の中にはよく「売れているんだから、もっと作ればいいのに」などと高説を垂れる人がいるが、これらの商材はトータルで売上のベースをどれだけ作れるかがポイントであり、生産する側も限定数に見合った原材料しか仕入れていない。いきなり大ヒットして品切れになるというのは、むしろ多くの場合は困ったことなのである。もし原材料になんとか折り合いをつけて増産しようものなら、その期間だけ売上が極端に上がってしまい、翌年に「前年同月比でどうしてこんなに売上が低いんだ」などと責められることにもなる。あらかじめ「限定」と銘打っているのは、それが故の事情なわけである。

「限定カラー」や「初回特典つき」で優位に立てる?

 さて本題、ではPC周辺機器業界をはじめとするIT系の製品では、こうしたトライアルユース商法は起こり得ないのだろうか。結論から言えば、トライアルユースは対象となる製品が消耗品であることが前提なので、IT系ではまったくといっていいほど必然性がない。「まずは試しに使ってみてください」と安値で提供した製品が、ライフサイクルいっぱい、具体的には2年も3年も使われてしまうと、本来上がるはずだった売上がそれだけ削られてしまう。これでは商売上がったりだからだ。

 ただし「一定数を必ず売り切るビジネスモデル」という意味での商品開発や売り方は、IT系でもここ数年、確実に広まりつつある。例えば「限定カラー」や「初回特典つき」がそれだ。いずれも台数を限定して販売するというスタイルで、よほどのことがない限り、既定の台数を売り切ったら終了となる。「発売→即終息」のサイクルを繰り返して年間で一定額の売上を稼ぐという、さきほどのケースと同じだ。

 「限定カラー」や「初回特典つき」のメリットは、既存の店頭販売ルートで起こりがちな、たたき売りや返品を避けられることだ。通常在庫として店に納入すると、時間がたてばたつほど他店と価格をシビアに比較されるようになり、値下げや返品の元凶となる。また店頭に長期間滞留すると、常に目新しい製品を店頭に並べたい店のニーズとも相反してくる。

 台数と時期を区切って一気に売り尽くせば、こうした問題は起こりにくい。カメラ系量販店で起こりがちな滞留による大規模返品も発生しにくいし、値引きしてたたき売るにしても台数が限られているので懐は痛まない。

 また、要因として大きいのは、これら台数限定の商材は、販売店の側も「何としても売り切らなくてはいけない」というインセンティブが働きやすいことだ。その理由は、これら限定商材の導入台数の決定権が、販売店のバイヤーに委ねられがちなことにある。メーカーから「この数量だけお願いしますよ」と言われて決定した台数ではなく、自分たちから「これだけ売るから」と要望を出して決定した台数が万一売れなければ、それこそ恥というわけだ。値引きで売り切るにしても、メーカーの補填や協賛金を当てにするのではなく、自腹を切って、ということになりやすい。

 普段はどれだけ不動在庫の返品にシビアな販売店でも、こうした限定商材については「限定なので売らないともったいない」という意識が働きやすいことも、理由の1つだ。台数限定というプレミア感のある商材を、売れなかったからといって返品してしまうのは、せっかくの商機を逃すようなものだし、ましてや店員の立場からすると、他店で完売しているのに自店舗でだけ売れ残ったりしていると、販売力がない証にもなりかねない。限定というフレーズを過剰に意識するのは、何も客ばかりではないのである。

 一般的に、販売店とメーカーの力関係は圧倒的に「販売店>>>>メーカー」だが、このように「限定カラー」や「初回特典つき」製品では、同格とまではいかなくとも、メーカーは販売店に対してはやや強い立場に立てる。こうした状況下で商談を優位に進められるのが、メーカーにとっての限定商材の魅力と言えるし、限定商材がますます増えつつある理由でもある。

 以上のように、限定商材の増加は、見た目はユーザーの嗜好の細分化に対応したためのように見えるが、実際にはこうした要因も大きかったりするわけだ。トライアルユースという販売方法こそなじみにくいIT系の製品だが、業界に合った販売手法は、このように徐々に広まりつつある。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.