コラム
» 2016年05月26日 19時37分 UPDATE

林信行が見る:映像業界3つのトレンドと、25年目の「Premiere」が目指す次の1歩 (1/3)

国際放送機器展「NAB Show」の現地取材で見えてきた25年目のAdobe Premiereが向かう先。

[林信行,ITmedia]

 キワどい予告編がネットでも話題の映画「デッドプール」、ゴールデンウィークに公開され話題を呼んだコーエン兄弟の最新映画「ヘイル・シーザー」、2016年に世界的フィーバーを巻き起こした「スターウォーズ:フォースの覚醒」。これら3つの映画に共通しているのは何だかお分かりだろうか。そう。これらはいずれもAdobeのPremiere Pro CCやAfter Effects CCといったビデオ編集スイートで制作されたものなのだ。

ネットで話題の「デッドプール」

コーエン兄弟の最新作「ヘイル・シーザー」

 24年半前、Macworld Expoというイベントで彗星のごとく現れた最初のPremiereは、ハードウェアを追加しても320×200ピクセル程度の動画しか扱えなかった。しかし、四半世紀の年月で世の中は大きく変わった。今ではiPhoneでもフルHDや4Kの動画撮影ができ、家庭用テレビ以上の解像度での映像作品作りが楽しめるし、VRなどのこれまでにない新しい表現も出てきた。25年目のPremiereはどこまで進化したのか、先月開催のNAB Showにて取材をしてきた。

ハリウッドの話題作を生んだAdobe Premiere Pro CC

 毎年ラスベガスで開催される国際放送機器展、通称「NAB Show」。Adobeのブースで主役を張ったのは、2016年末に誕生25周年を迎えるAdobe Premiere Pro CCだった。それもそのはず、実は前述した映画3本の制作においてAdobe Premiere Pro CCが大活躍しており、制作に関わったスタッフたちが豪華ゲストとして登場し、滅多に見られないメイキング映像をAdobeのブースで披露して制作舞台裏を語ったのだ。

 アカデミー賞4度受賞のコーエン兄弟と言えば、ジョージ・クルーニー主演でスカーレット・ヨハンソンらも登場する映画「ヘイル・シーザー」が日本でもゴールデンウィークから公開されているが、実はこの映画の編集もPremiereで行われた。

 コーエン兄弟が本作の77のシーンの撮影に使ったのは35mmのフィルムカメラ。編集作業は膨大な量のフィルムをパソコンに取り込むところから始まった。従来の作業では、編集をしながら「あの絵が足りない」「この絵が足りない」とフィルムを探し回ることも多いが、Premiere Pro CCのキーコード付加機能のおかげで、どの絵がどこにあるか分かり、少ない手間で編集が済んだという。コーエン兄弟も「画面上で行う作業は次々と編集点をマークすることと、フィルムに一切触れないこと以外は、従来通りで、迷うことなく作業ができた」と語っている。

 Adobeのツールをもっと大々的に使った作品がいよいよ6月1日から封を切る。マーベルコミック原作の過激すぎるヒーローが主人公の映画「デッドプール」だ。同映画の編集を手がけたVashi Nedomansky氏が、NAB ShowのAdobeブースで明かしたAdobe Creative Cloud製品を使った映画制作裏話は驚くべき内容だった。

 キワどいジョークを飛ばしながら小気味よく映像が移り変わる同映画は全編4K品質で、1万5000のシーンで構成されている。製作陣は185TBのストレージを用意したが、それでも最後には足らず付け足したという。

 これだけの大掛かりなプロジェクトを編集するには共同作業がしやすいPremiere Pro CCしかない、というNedomansky氏の考えで、制作陣はそれまで慣れていたシステムから移行するが、ほとんどトラブルなく使いこなせたと振り返る。それを機に特殊効果はAfter Effects CCで、音はAudition CCでと、Adobe Creative Cloudの製品群を使って制作が行われた。

 驚くべきは、どこからどう見ても実写にしか見えない映画(実際にインターネットでも「ついに実写化」と話題になっている)の1万5000の主要シーンはすべて1度、3D CGで作られているというのだ。絵コンテ代わりに制作されたリアルな3D CGで動きを確認し、そこに撮影した実写を合成して望み通りの絵に仕上げていく。

先に3D CGで動きを確認した後、実写を合成して作っていく

 例えば、映画の中に出てくる1分半のカーアクションもからめた戦いのシーンでも驚くほど多くのカット割りが行われているが、これらは1度、すべて動きの確認用にCGで描かれ、そこにグリーンバックで撮ったスタントマンの映像が重ねられ、背景のビル群やハイウェイ上の他の車、銃弾や打たれる人々、デッドプールのマスク越しのわずかな表情、ガラス窓の反射などがAfter Effects CCを使って合成されていったという。その過程は特殊効果を手がけたAtomic FictionのWebサイトに掲載されている動画で細かく確認できる。

 CGっぽさをまったく感じさせない作品だが「デッドプール」の背景で行われたデジタル編集は最先端レベルのもので、米国などでは多くのWebサイトで詳細なメイキング秘話が語られており、Nedomansky氏のブログでは映画の制作に使われたPremiereプロジェクトの一部もダウンロード提供されている(映像は含まれていない)。

Deadpooの制作デモ

 一方、舞台は宇宙だし、これは実写でない部分が多いんだろうなと想像がつく「スターウォーズ:フォースの覚醒」は当然のようにかなり細かくCGが随所に使われている。NAB ShowのAdobeブースでは主要キャラクターの1つ「BB-8」に映り込むわずかな光までが、どれほど緻密に練られ、After Effects CCを使って、どう映像化されたのかなどの制作秘話が公開された。

「スターウォーズ:フォースの覚醒」の制作にもAfter Effects CCが活用された
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