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» 2016年06月17日 06時00分 公開

アプリ1つで保育園の待機申請から入園手続きまで “保育無償化”の韓国・教育IT事情

[原美和子,ITmedia]

ネット社会ならではのアプリ

 「ネット社会」としてその名をはせている韓国では、行政、教育、福祉などさまざまな場面においてオンラインによる手続きや処理が充実している。

 中でも育児、教育分野でのオンラインサービスは群を抜いているといえ、保育園の待機申請から、入園手続き、入園後の諸費用の支払いなどを「保健福祉部」という国の行政機関が提供するアプリ1つで行えてしまうのだ。

 「保健福祉部」は日本で言うところの「厚生労働省」に当たり、役割は主に、保健衛生や社会保障、女性の人権問題、家族、児童福祉の分野の向上を担っている。女性の妊娠・出産から「オリニチブ」と呼ばれる保育施設に関連した全般を取り扱っているのも保健福祉部である。

 そして、保健福祉部が提供しているのが「アイサラン」と呼ばれるポータルサイトおよびアプリである。

2012年より本格化した無償化保育

 韓国では、2012年より未就学児の無償化教育が保育園からスタートした。それまでは、共働き家庭でありながら身近に頼れる家族などがいない場合に、子どもをオリニチブに送るケースが主で、月々の保育料も全額自己負担であった。しかし、日本以上の少子化や、核家族化、共働き家庭の増加が進み「少子化対策」の一環として、段階的に無償化保育が始まるにいたった。

 2016年時点で、オリニチブに通園する0歳児〜6歳児の保育料を無償としている他、入園希望申請の際には、「共働き家庭」、国際結婚家庭である「多文化家庭」、そして、子どもが3人以上の「多子女家庭」にはそれぞれ100点ずつのポイントが加算され、点数が高い程、待機順位も優先となるといった待遇も行われている。

 こうして、オリニチブへのハードルが低くなった反面、入園希望者は増加。それに伴う待機児童の発生や、通園児童の管理、国からの保育支援金の受け取りといった保育に関する一切の手続きをこのアイサランで行うように統一したのである。

「アイサラン」アプリのトップ画面。これ一つで保育に関する要件を全てカバーできる

待機申請から出席日数、乳幼児健診の管理まで

 例えば、1歳児が入園可能なオリニチブを自宅周辺で探すとする。この「アイサラン」のアプリを利用すれば、親は自身と子どもの情報をアプリで登録の上、自宅の所在地や、オリニチブのタイプなど幾つかの項目を入力。

 そして検索すると、該当のオリニチブの一覧が表示され、待機人数や現在のオリニチブの状況などが一目で分かるようになっている。そして、希望のオリニチブを3つまで選択し、待機申請を行うことができる。

 以前であれば、自治体の役所の児童課に問い合わせたり、周囲の口コミなどを頼りに独自で探していた。その手間を考えると、親にとってもオリニチブ側にとっても効率良く、合理的に手続きを進められるようになったといえるのではないだろうか。

 また、「アイサラン」では、これに加えて、登録された子どもの情報をオリニチブやかかりつけの小児科と連動、情報を共有することで出席日数や、予防接種、乳幼児健診の記録が全て分かるようにもなっている。

 出席日数、予防接種、乳幼児健診の情報を共有する背景には、無償保育の条件(1カ月の出席日数が11日以上)を満たしているかや、予防接種及び乳幼児健診の記録管理については、ネグレクト(育児放棄)や児童虐待防止にも一役を買っているといった事情がある。

 さらに、韓国ではオリニチブに通う子どもがいる世帯は、「アイサランカード」と呼ばれるクレジットカードタイプのカードが発行され、このカードでアイサランのアプリまたはサイトから毎月決済の手続きをすることで保育料の支援が受けられるという仕組みになっている。

 ちなみに、韓国が国で定めている保育料は0歳児で39万ウォン(日本円で約3万6000円)、1歳児で37万4千ウォン(同3万5000円)、2歳児で28万6千ウォン(同2万7000円)、3〜5歳で22万ウォン(同2万1000円)となっている。

 このように、表面だけをみれば、韓国の保育に関する支援や環境が日本よりも恵まれているように見える。しかし、やはり、国と自治体が毎年財源の確保に四苦八苦していることや、教育費がかかるのはむしろ小学校以上という現実を考えると、根本的な少子化問題の解決には至っていないというデメリットも加えておく。

妊娠、出産、育児関連の相談も

「相談室」というカテゴリーでは妊娠、出産、不妊、育児に関連した質問や相談の書き込みもでき、専門医や専門家が回答にあたる

 アイサランアプリは実は、保育以外でも、妊娠や出産、不妊、育児のジャンルでも活用されている。

 アプリ内にある「相談室」というカテゴリーでは、妊娠、出産、不妊、育児の掲示版が設けられ、アプリの利用者が質問や悩みなどを自由に書き込むことができ、専門医や専門家が回答すると言うものである。

 もちろん、これらのジャンルはプライバシーの問題やデリケートな側面も含んでいるため、質問者は書き込みを非公開とすることもできる。

 国の行政機関によってアプリ1つで妊娠、出産から保活までをカバーできてしまうのは、斬新であるばかりでなく、多忙を極める親たちにとっては実にありがたく心強いアプリといえるのではないだろうか。

ライター

執筆:原美和子、編集:岡徳之(Livit Tokyo)


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