連載
» 2016年06月21日 06時00分 公開

キーボードが使えなかった6歳児が「亀」という文字だけ異常なスピードで打ち込めるようになるまでの話

はじめに亀ありき。

[上田啓太,ITmedia]
オレの知ってるネットと違う

 今回はインターネットを始めた頃の思い出ではなく、さらに過去にさかのぼって、はじめてパソコンをさわったときの話。とくに、「キーボードで文字を入力する方法」を教わったときの話である。

ライター:上田啓太

上田啓太

1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

個人ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita


 私の父親はAppleの熱心なファンだった。だから1990年の時点で、我が家にはMacintoshがあった。当時の私は6歳で、もちろんコンピュータに興味を示したが、6歳児にはキーボードを使うことは難しかった。だから最初は『Kid Pix(キッドピクス)』という子供向けのお絵描きソフトで遊んでいた。これならマウスだけで遊べるからだ。

 キッドピクスについて少しだけ書いておこう。子供向けと銘打っているだけあって、このソフトは操作のたびに面白い音が鳴った。とにかく子供というのは面白い音に弱い生き物であり、そこを的確に突いていたのである。例えば「スタンプ」ツールでは、ひとつスタンプを押すたびに面白い音が出る。「やりなおし」ツールは最高で、外国人男性の「ウップス!」という声が出る。まったく、6歳児に外国人のうめき声など聞かせてはいけない。笑い転げるに决まっている。

文字入力の方法を説明されたときの「絶対無理だろ」という感覚

 面白い音にもやがて飽きる。

 キッドピクスも楽しいが、やはり他のソフトも使ってみたい。となると、文字入力を覚えなければ先に進めない。しかし小学一年の自分はローマ字というものが何なのかすら分かっていなかった。つまり、「かきくけこ」なら「K」、さしすせそなら「S」という基本的なことすら知らなかったわけだ。そんな状態でいきなり文字入力の方法を覚えようとしたのである。

 キーボードには50個以上のキーが並んでおり、それぞれにアルファベットが書かれている。これを1つずつ押していくことで文章を入力する仕組みらしい。「絶対無理だろ」と即座に思った。この感覚は、自転車という乗り物はゆくゆくは補助輪なしで乗るのだと知ったときの「絶対無理だろ」に近い。父親の説明を聞きながら、「無理、絶対無理」と思っていた。

 「かな入力」があることも教えられたが、それにしたって、キーは「あいうえお」では並んでおらず、でたらめな順序で散らばっている。「どっちにしろ無理だろ」と思ったが、父親は「こんなもんは慣れだよ、慣れ」とあっさり言い、「ローマ字入力を覚えたほうが後々役に立つし、練習すればいい」と提案した。

「亀」だけ入力できる子供の誕生

 最初に覚えたのは「亀」と打ち込むことだった。

 当時、亀を飼っていたからである。子供というのは単純なものだ。K、A、M、E、スペースキー、エンターキー。この順番で押せば、「亀」と入力できると教わった。言われた通りにすると、確かに「亀」と表示される。私はこれに妙な興奮を覚え、何度も「亀」と打ち込んだ。繰り返すうちに、「亀」という文字を入力する速度はどんどん上昇していった。他の日本語は一切打てない。しかし「亀」だけは瞬時に入力できる。カタカタカタッとキーを打ち、最後にエンターキーをポンとやると「亀」と出る。その快感はすさまじかった。

 結果、テキストファイルには「亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀」というふうに文字が並び、当時の自分はそれに大喜び、両親はそんな私の姿がツボだったようで、二人で笑い転げていた。当時はなぜ自分が笑われているのか分からなかったが、確かにキーボードでひたすら「亀」と打ち込んでいる子供がいたら笑いますよね。

 父親に「これ保存するか」といわれて、「ウン」と言い、保存してもらった。もちろんファイル名は「亀」である。父親は専用のフォルダも作ってくれた。フォルダ名も「亀」だった。「亀」というフォルダの中に「亀」というファイルがあり、それを開けば、自分が打ち込んだ大量の「亀」が表示されるのだ。

 「すげえ……」

 当時の自分は感激に震えていた。

 それからしばらくの間、私は「ローマ字すら分かっていないのに、亀という文字だけは異常なスピードで入力できる子供」だった。自宅以外でも、パソコンを見かければ「亀」と打ち込みたい欲求に駆られていた。親戚の家のパソコンで「亀亀亀亀亀」と高速で打ち込み、自慢げに周囲を見回したのを覚えている。親戚も笑い転げていた。

オレの知ってるネットと違う

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