反則スレスレの手口で店舗に新製品をねじ込むメーカー営業マン牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2016年08月27日 06時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
workaround

 家電量販店には、メーカーが発売する全ての新製品が並ぶわけではない。どの製品を仕入れるかを判断するのは、基本的にその量販店の本部にいるバイヤーだ。メーカーの営業マンは、過去の類似製品との売上比較など、必要な数量を判断できるデータをそろえて本部のバイヤーのもとに出向き、交渉することにより、ようやく自社の新製品を仕入れてもらえる。

 しかしメーカーが売りたい新製品の中には、全く新しいカテゴリーの製品など、売上を比較できる類似製品が存在しないケースもあり、メーカーの思惑通りに商談がまとまらないこともしばしばだ。もっとも、断られたからといってすごすごと引き下がっていては、営業マンの立場はない。店頭に並べて売れなければ、それは製品に魅力がなかった見なされるが、店頭に並べることができなければ、それは営業マンの力量不足と見なされてしまう。

 こうしたことから、メーカーの営業マンはさまざまな策をろうして、店舗に新製品を送り込み、会社に対して責任を果たしたことをアピールしようとする。その中には発覚すれば取引停止につながりかねない、明らかにルール違反と思える手口も少なくない。今回は、現在では使えなくなっている手法も含め、メーカーの営業マンが繰り出す「あの手この手」を紹介しよう。

バイヤーを経由せず店舗から発注させるため手口

 1つ目は、客を装った在庫のリクエストだ。店舗に設置されているアンケート箱などに客を偽って「こういう製品を置いてください」と投稿し、真に受けた店舗スタッフが発注するのを待つという手口である。

 要するに、バイヤーを説得するのは諦め、店舗から直接発注してもらうという作戦だ。量販店によっては、バイヤーに加えて店舗スタッフも独自の仕入れ権限を持っている場合があり、そうした場合に有効だ。店舗スタッフが他の売り場から移ってきたばかりでそのカテゴリーの知識があまりなく、なおかつ発注権限がある場合は、「これはお客さまの生の声として貴重だ」とばかりに、あっさり引っ掛かってしまうことがある。

 もし、実際に発注にまで至らなくとも、メーカーの営業マンが訪問した際に「そういえばお客さんからこんな要望があったんだけど、この製品って売れるの?」などと聞かれればしめたもので、うまく言いくるめて発注書をもらえば、他の店舗にも「あちらのお店でお客さんからこんなリクエストがあって、在庫を置くことになったんですが、こちらのお店でもいかがですか」と売り込みに回れるので、一石二鳥というわけである。

 これと類似した方法として、客を装って店に在庫確認の電話をする方法がある。声色がばれないよう、2人の営業マンが交代でお互いの担当店舗に電話をかけ、製品の在庫があるかどうかを質問し、ないと分かれば(もちろんないことを知って電話しているのだが)、「在庫があればすぐ買いに行ったんだけどなあ」とつぶやいて電話を切る。

 こうしたやりとりの後で店舗を訪問し、おもむろに「実はご紹介したい製品がありまして……」などとその製品を提案すれば、在庫分を発注してもらえる確率が高くなるというわけだ。

 さらに過激な手口としては、店舗で架空の氏名と連絡先を使って製品を取り寄せるというワザもある。注文を受けた店舗がメーカーに発注し、製品が店舗に届いたところで客に連絡するも、もともとダミーの連絡先なので電話が通じることはなく、「多分、客が電話番号を書き間違えたのだろう」と思って保管するが、いつまでたっても受け取りに来ず、最終的には店頭に並べて処分せざるを得なくなるという流れだ。俗にいう「客注キャンセル」を意図的に発生させるわけである。

 この方法、客からの連絡が来るのを店舗が諦めた頃には既に納品から日が経過していることから、いまさらメーカーに返品しづらく、店舗の責任で売り切らなくてはいけない空気になっているのにつけ込む、かなりあくどい手口である。

 ただしこの方法は、注文できる数量がせいぜい1個までで、また店舗が代金前払いを必須とするようになったことで、今では事実上不可能になっている。業界によってはまだ現役で通用するかもしれないが、家電量販店を舞台に行われるケースはもうないだろう。

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