先日、米国のMicrosoft Storeに立ち寄ったとき、Windows 10 Mobileの代わりにAndroidとiOSを搭載したスマートフォンとタブレットが店内でクローズアップされている様子を報告した。
これはOffice 365などのMicrosoft製品やアプリ、サービスを紹介するためのコーナーなのだが、このファーストデバイスの分野でMicrosoftは既にプラットフォーマーではなく、サービスやアプリを提供する一事業者にすぎない。
もちろん、Officeはそれ単体でキラーアプリと言えるが、かつて「WinTel」などと呼ばれ、MicrosoftのWindows OSおよびIntelのプロセッサが支配的な地位にあった時代に比べて、コンシューマーIT市場における影響力は明らかに下がっている。
ただ、Microsoft自身もこの状況は理解しており、まずは「PCにおける常時接続環境」を推進する可能性を考えている。
本連載でも「QualcommのSnapdragon向けにフルバージョンのWindows 10が提供される予定」について紹介したが、これは「ARM SoC(System on a Chip)搭載のPCが発売される」というだけでなく、「Qualcommのチップセットが搭載された常時ネット接続型PCが登場する」という可能性も考えられる。
2016年初頭に「Microsoftが“Microsoft SIM”を提供してWindows Store経由でデータプランを購入できるようになる」といううわさが出ていたが、こうしたサービスを提供することで、少なくともAppleの「iPad Pro」のように「購入してデータプランを契約すれば、誰もが好きな場所でいつでもインターネットに接続しつつ、スマートフォンより高性能で高機能なデバイスを利用できる」ようになる。
現状でもSIM搭載モバイルPCや2in1デバイスは存在するが、その数は限られている。こうした(Windows 10 Mobileではない)Windows 10のARM SoC対応は、冒頭で紹介した「ファーストデバイスがPCからスマートフォン(もしくはタブレット)へ」という一連の流れに、ある程度の歯止めをかけられるかもしれない。
現状のトレンドを見る限り、スマートフォンがかつてPCが担っていたパーソナルなコンピュータの市場を奪いつつあるようにも思える。
しかし筆者は、スマートフォンは数ある「入口」のデバイスの1つであり、シェアこそ最大であるものの、これが世界のルールを決めるような決定的な存在にはなり得ないと考えている。
冒頭で触れたAmazon Echoが代表例となるが、「入口のカタチ」は別にPCやスマートフォンのようなディスプレイを内蔵した製品である必要はない。音声アシスタントのAlexaのように、デバイスの先にある存在との対話インタフェースさえ確保できれば入口になり得るわけだ。その意味で、ポストPC時代のパーソナルなデバイスは「多種多様なインタフェース」を持ち、今もなおその将来像はカオスな状態なのだと思う。
音声対話が全てとは考えていないが、将来のコンピュータはより賢くなり、人間の生産性を向上させるうえでの最良のアシスタントとして機能するようになるだろう。ゲームやSNSなどの遊びの要素はあるが、現在PCやスマートフォンで行っているタスクは自動化されるか、あるいはアシスタントとしてコンピュータがその多くを担うようになる。
Microsoftは現在クラウドのAzure事業やCortanaのようなAIアシスタントの機能強化を積極的に行っているが、これら仕組みをデバイス全体を横断して提供できるベンダーほど競争面で優位に立てる可能性が高い。
そのときは、特定のベンダーに依存した仕組みであるよりも、よりオープンな仕組みのほうが好ましい。この点では、iMessageなどクローズドな仕組みをプッシュするAppleが競合他社に比べて不利なのではないだろうか。
Windows 10 IoT CoreでのCortanaサポートは、こうした流れを受けたMicrosoftの先行投資的な意味合いが強いと言えそうだ。
いずれ、あらゆるデバイスがスマート化して互いに接続され、アシスタント的に振る舞う世界を想像してほしい。そのときインテリジェンスな存在は手元のデバイスではなく、その先にあるクラウドの上でわれわれを見守っている。
本当のポストPC時代とは、このように緩やかにネットワーク接続されたデバイス同士がクラウドを通じて連携して、ユーザーのさまざまな行動を補助する仕組みのことを指しているのではないだろうか。
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