米Amazon.comが本社キャンパスにあるバブル型の建物「The sphere」で9月20日(現地時間)、同社初のメディア向け製品発表イベントを開催しました。スマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズのアップデートも含めて15くらいの製品を、約80分で次々と披露しました。
車載ガジェットやら壁掛け時計やら、全て、Amazonの音声アシスタント「Alexa」がらみです。2014年11月発売の初代Amazon EchoとともにデビューしたAlexaは、わずか4年でスマートスピーカーだけでなく、さまざまな機器に入り込み、あらゆるところでユーザーの命令を待つようになってきました。
新製品で印象深かったのは、米国で11月14日に発売される電子レンジの「AmazonBasics Microwave」。AmazonBasics(日本では「Amazonベーシック」)というのは、2009年にAmazonが立ち上げたプライベートブランドですが、これまではケーブルとか電池とかのコモノが中心でした。
そこにいきなり電子レンジです。Amazonは初のオリジナル家電として電子レンジを選びました。
もちろん、Alexaで操作できる電子レンジです。マイクが付いているわけではなく、Wi-Fiで接続したAlexa端末(Echo Dotとか)経由で命令します。例えば、電子レンジにラップした1人分のシチューを入れて、そばに置いてあるEcho Dotに向かって「Alexa、電子レンジで1人分のシチューを温めて」と言うと、シチューがちょうどよくあったまる(らしい)のです。
シチューくらいだったら、うちにある電子レンジでも「あたため」ボタンでセットできますが、「ジャガイモを1個ふかす」とかだとマニュアルを引っ張り出して確認しないと正しい設定が分かりません。Amazonによると、そういうレシピがプリセットされているそうです。そしてもちろん、このプリセットはどんどん増えていく予定です。
いちいち近くのEchoシリーズに「Alexa、電子レンジで」と言わなくて済むように、電子レンジ側に「Ask Alexa」ボタンも付いています。これを押してからなら「コップ1杯のミルクを温めて」でOKです。
ところで上の画像で分かるように、この電子レンジには「ポップコーンボタン」が付いています。米国に住んでいたことがないので知らなかったのですが、あちらではポップコーンボタンが付いた電子レンジは普通にあるようです。文化の違いですね。
ただAmazonの電子レンジの場合は、このポップコーンボタンを使うと、「Dash Replenishment」で自動的にポップコーンを再注文します(あらかじめ好きなブランドのポップコーンをAlexaアプリで設定しておく)。
これでお値段は59.99ドル(約6800円)です。写真で見るとまあ、それほどハイスペックではなさそう(ターンテーブル式だし、オーブン機能はないし)ですが、それにしても原価割れなのではないでしょうか。
やはりこれも、ジェフ・ベゾスCEOのいつもの作戦だと思います。「Kindle」は電子書籍を売るための道具なので安いし、「Fire TV」はAmazonビデオを見てもらうための道具なので安いわけです。それでいくと、電子レンジは? まさか買収した米自然食スーパーチェーンのWhole Foodsで食料品を売るため……ではなくて、Alexaユビキタス作戦でしょう。
AmazonBasics Microwaveは、サードパーティーに対してAlexa対応家電のお手本を示すためのもののようです。この電子レンジには「Alexa Connect Kit(ACK)」という小さなMCU(Micro Controller Unit)が搭載されています。これを電化製品に搭載することで、Alexaの機能、Wi-Fi Simple Setup、Dash Replenishment Serviceなどの機能を追加できます。
Amazonは、サードパーティーに対し「このMCUを御社の製品に入れるだけで、簡単にうちの電子レンジみたいにAlexaで操作できるようになりますよ」とアピールしているのです。お代はMCUの分と、AWS(Amazon Web Services)の利用料(多分安くしておく)のみ。ライセンス料などはとりません。
ACKはまだプレビュー段階ですが、既にHamilton Beach(コーヒーメーカーやミキサーで有名)やProcter & Gamble(洗剤で有名。P&Gの略称でおなじみ)などの大手が採用製品を検討しているとのこと。
なので、最初の製品である電子レンジは売れてもらわないと困ります。それで、約6800円というわけです。
Alexaがユビキタスになったとしても、そこまでではAmazonの売り上げには直接貢献しませんが、Alexaとの会話データは全て、Amazonのクラウド上に集まります。これを使えばより効果的な広告を表示したりして、ユーザーにさらにいろんなものをAmazonで買ってもらえるかもしれません。
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