学習するデータがあれば、AIはどんどんお利口になっていきます。そして、米Amazonにはユーザーがサービス上に残していく膨大な(AIが学習に使える)データがあります。
しかもAWS(Amazon Web Services)という人に売るほどのクラウドサービス(AWSは最初は社内で使っていたものを便利だからと売り始めたもの)があり、米国のクラウドインフラ市場ではトップシェアを独走しているとあって、自社のサービスでAIを採用しない手はありません。
そんなAmazon社内ではAI活用がどれくらい進んでいるのでしょう。米Bloombergが6月13日(現地時間)、「Amazonの賢いマシンが倉庫から本社に侵攻中」というちょっとセンセーショナルなタイトルの記事を掲載しました。
Amazonが倉庫でロボットを使っていることは有名なのでこんなタイトルになったようですが、本来AIは肉体労働よりも頭を使う仕事の方が得意です。
Bloombergが掲載した記事の趣旨は、かつてAmazonが扱う商品を書籍以外に拡大していったころに採用した、有名ブランドとの交渉を得意とする高給取りが君臨する小売りチームが、AIが牛耳る「Amazonマーケットプレイス」の台頭で居場所をなくしている、というものです。
Amazonマーケットプレイスとは、Amazon以外の売り手が商品を売るオンラインショッピングモールのような仕組みです。2000年の立ち上げ当初はAmazon社内でも不人気で、なかなか軌道に乗りませんでしたが、その試練がAmazonに「自社が持つ商品カタログを使ったマッチングアルゴリズム」を試させることにつながりました。
「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」(ブラッド・ストーン著、日経BP)によると、このアルゴリズムは最初は問題が多く、「神秘の短剣」という冒険小説の関連商品にジャックナイフが表示されたりするものだったそうです。それでもAmazonのジェフ・ベゾスCEOと幹部チームは「インターネット上で一番信頼できる商品カタログを持っているのはAmazonであり、それを活用しない手はない」と気付き、その気付きが成功のきっかけになりました。
その後のマーケットプレイスの勢力拡大はご存じの通り。商品を検索すると、「Amazon.co.jpが販売、発送します」というものがトップに出てくることが多いのですが、その横には「こちらからもご購入いただけます」として同じ商品を安く販売するマーケットプレイスがたくさん表示されます。
Bloombergによると、2015年にマーケットプレイスの販売量がAmazonの販売量を超えました。マーケットプレイスへの出店にはAmazon側の人間はほとんど関わらないので、小売りチームの出る幕はありません。
AIによる自動化はマーケットプレイスだけではなく、サービス全体で進められています。かつては倉庫に置く在庫の管理も人間がやっていましたが、今はAIが判断しており、人間よりずっと無駄のない管理になっています。
AIを採用し始めたころは、「これで面倒な表計算の入力がなくなった」と喜んでいた従業員は、気付いたらAIに取って代わられてしまった、なんてことも。
とはいえ、Amazonは無人になるわけではもちろんありません。今日も求人ページでは、AWSで6409人、AlexaとKindleチームは合わせて2729人も募集中。リテールチームも1130人募集していますが、その内訳はドローンプロジェクトの「Prime Air」や買収したWhole Foods Market関連など、新しいジャンルが中心です。
人間の仕事がAIに完全に取って代わられるのはまだ先のようですが、生き残るためにはAIが(今のところ)苦手なジャンルを探して、そのスキルを身に付ける必要があるのかもしれません。
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