インターネットの中心は“モバイル”と”アジア”に──ソフトバンク 2009年3月期決算(1/2 ページ)

» 2009年05月01日 14時09分 公開
[園部修,ITmedia]

 ソフトバンクは4月30日、2009年3月期の連結決算を発表した。売上高は2兆6730億円と前年同期比で約3.7%減少したが、営業利益は3591億円と4期連続で創業以来最高益を記録、前年同期比11%増となった。

 2008年後半から開示を始めた業績予想は、結果的に3回の上方修正を行ったが、最終的な結果はそれをさらに上回った。会見を行った社長の孫正義氏は冒頭で、「ボーダフォンジャパンを買収して以来、モバイルインターネットの世界が着実に前に進んでいる。そして今回、借金を返せる日を明確に示せるときが来た」と、2兆円近い買収費用の返済のめどが立ったことを明らかにした。

端末販売台数の減少に伴う売り上げ減は狙いどおり

Photo ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏

 同社の売り上げの過半数を占める移動体通信部門(主にソフトバンクモバイル)の売上高は、1兆5547億円。2008年3月期の売上高は1兆6189億円だったので、前年同期比では微減となるが、減ったのは端末販売などにともなう売上高で、通信料売り上げは増収だったと孫氏は言う。

 「携帯電話は、ハードウェアをたくさん売って、それで売り上げの見せかけのかさを稼いだとしても、利益は出ない。売れれば売れるほど赤字になる。だが、買って3カ月や6カ月ですぐに買い換える、世界の中でもいびつだった日本の販売構造を、ソフトバンクは率先して割賦販売に切り替えたことで、ほとんどのユーザーが端末を2年以上使うようになった。1人あたりの保有期間が延びたので、販売台数が減っている。経営的には意図してそのように改善したので、端末の販売台数減少に伴う売り上げは狙いどおり。それより大切なのは、利益が出る方の通信料収入が上がっていること」(孫氏)

 ソフトバンクモバイルの通信料収入は、2007年3月期、2008年3月期はともに対前年度比でマイナスだったが、2009年3月期は前年比でプラスになり、増収基調に転じた。通信料収入は、NTTドコモが−7.8%、KDDIもー1.8%と下落が続いているが、ソフトバンクは1.4%増と「唯一V字回復した」(孫氏)と胸を張った。

 この通信料収入の増加は、データARPU(1人あたりの平均月間収入)の増加と、割賦販売の24回払いが終了し、月月割の適用がなくなったユーザーが徐々に出てきているところが大きい。基本料金と音声ARPUおよびデータARPUを足した数字だけで見ると3840円と過去最低のレベルにまで下がっているが、あんしん保証パックなどのサービス利用料と端末の割賦代金などを加えた平均支払額は5760円。通信料収入が増収となったことで、来期以降は下げ止まり、上昇していくと孫氏は見る。

 「端末売り上げが減って減収増益というのは、いささか言い訳がましい。この通信料収入を着実に増やして、増収増益を達成する」(孫氏)

2010年3月期は増収増益を達成、5年後には純有利子負債をゼロに

 移動体通信事業で、通信料収入が増加しつつあることに加え、EBITDAマージン、自己資本比率、DEレシオ(有利子負債÷自己資本)、ネットDEレシオ(純有利子負債÷自己資本)など、主要な財務指標はすべて改善の方向にあり、2008年3月期には−1642億円だったフリーキャッシュフローは、2009年3月期には1815億円と3500億円近くも増えた。2010年3月期には2500億円のフリーキャッシュフローを持つと予測する。そして、ボーダフォンジャパンを買収した直後から、設備投資を前倒して実施した結果、現在ではそのピークを過ぎ、かなり落ち着いてきたという。

 こうした要素を踏まえ、孫氏は「2010年3月期は増収増益の見込み」だと明言した。予測では営業利益4200億円、フリーキャッシュフロー 2500億円としており、今後3年間の累計で1兆円前後のフリーキャッシュフローを確保する。そして2012年3月期にはリース債務をのぞいた純有利子負債を半減させ、さらに2015年3月期(5年後)までには、純有利子負債をゼロにするという。純有利子負債がゼロになるまでは、大規模投資は抑制する。

 また、フリーキャッシュフローの黒字基調が定着することに合わせ、配当政策の方針を転換、2010年3月期は配当を2.5円から5円へと増配、さらに純有利子負債が半減する2012年3月期はさらに増配、純有利子負債がゼロになる見込みの2015年3月期にも増配を行う考えであることを明らかにした。

 「ソフトバンクと言えば、経営が荒っぽい、ソフトバンクと言えば、借金過多の会社である、というのが多くのみなさんの残存イメージだと思うが、再来年度には、そのイメージは大幅に変わる。そしてそこから数年たてば、“ソフトバンク”イコール“借金”という連想はもうあまりわかなくなる。そういう時代が来ると想像している。ソフトバンクは1995年にインターネットカンパニーになると宣言し、しばらくは利益も売り上げもキャッシュフローも関係なく、将来大きく伸びるであろう種(エクイティ)を、100年に一度のチャンスと考えて取りに行った。そのためソフトバンクは営業キャッシュフローのない会社、投資会社だなどと言われたこともあった。しかし、ついにキャッシュフロー経営を語れるステージがやってきた。これから着実に種が開花していく」(孫氏)

携帯電話事業はモバイルインターネット事業へ

 「2008年の初頭、私はモバイルインターネット元年、インターネットマシン元年であると宣言した。そして夏にはiPhoneの販売も開始した。これから一気に、携帯電話事業はモバイルインターネット事業へと転換していく」と話した孫氏は、この1年を振り返り、顧客基盤が大きく拡大したことに加え、データARPU向上策が奏功していることを強調。S-1バトルのようなコンテンツや、「コンテンツ○得パック」のような施策で、多くのユーザーにデータ通信サービスを利用してもらうことで、今後も通信料収入を大きく伸ばしていきたい考えを示した。

 顧客基盤の拡大には、やはりテレビCMによるマーケティングの効果が大きかったようだ。ソフトバンクの決算発表ではもはやおなじみとなったが、CM好感度が男女を問わず、また小学生から高齢者まですべての世代で年間1位を獲得したことをアピール。また15ある指標のうち、「音楽・サウンド」と「セクシー」をのぞいた13の指標でナンバー1を獲得したことに触れ、「自動車や家電、飲料などを含んだ全9472ブランドの中で、1年を通して13の指標でナンバー1になった。これはテレビ広告史上初の実績ではないか」と自信を見せた。

 ちなみに孫氏は「広告においても、いち早く印象を転換してもらっているのは都市部。どの業界でも、新しいサービスや物事は都市部から地方へ、時間をおいて波動が伝わっていく。今後は地方にも徐々に広がっていくと思う」と、さらなる発展にも楽観的な見通しを示した。

 そのほか、かつては10万件以上あった短期解約数は、4万件以下に減少したこと、それにともなって貸倒引当金や損失額が大幅に減少したことで、経営の効率化が進んでいることも報告。解約率は1%になり、ネットワーク満足度も大きく向上していると説明。在庫も大幅に削減してコスト削減に励んでいることも明らかにした。ちなみに2009年3月期の年間販売台数は842万台だった。

 なお解約率については、ドコモが0.5%、KDDIのauも0.76%とすでに1%を切っており、世界的に見ても低い状況だ。一方ソフトバンクモバイルの解約率は1%。孫氏はPDCの停波にともなって、解約が今後増える可能性もあると見ており、場合によっては若干上向くかもしれないが、しばらくは1%程度で推移するとの見通しを示した。

 他キャリアからのユーザー獲得が望めない状況で、今後どうやって成長していくかを問われた孫氏は、「法人市場」と「M2M分野」で大きく上乗せしていきたいと話し、「顧客基盤の拡大は、まったく悲観する必要はない」と力説した。ただ、着実に利益を上げ、フリーキャッシュフローを増やした上で成長を目指したい考え。無理をして利益を犠牲にしながら契約を取りに行くことはしないという。

 「ただ、我々は第3位のキャリアで、日本市場の2割しかシェアがない。まだ8割が残っていると、前向きに考えている。他キャリアからのユーザー獲得は、10年20年という時間をかけて、薄皮をはがすようにやっていくつもりだ」(孫氏)

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年