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» 2011年04月22日 10時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:Android元年、キャリアの役割も変化する――auのスマートフォン戦略(後編) (1/2)

スマートフォンを主軸とする戦略に舵を切ったau。オープンプラットフォーム時代のキャリアの役割や“auらしさ”に対する考え方、コンテンツベンダー、端末メーカーへの期待について、KDDIの増田氏に聞く。

[神尾寿,ITmedia]

 “Android元年”といわれる2011年のauの戦略を聞く本企画。後編では、オープンプラットフォーム時代のキャリアの役割や“auらしさ”に対する考え方、コンテンツベンダー、端末メーカーへの期待について、KDDI サービス・プロダクト企画本部で本部長を務める増田和彦氏に聞く。

スマートフォン時代のauらしさとは

Photo KDDI サービス・プロダクト企画本部 本部長の増田和彦氏

―― (聞き手:神尾寿) 御社はソーシャル電話帳の「jibe」を端末にプリセットしたり、「Skype au」を展開したりしており、先日は「foursquare」との提携も発表しました。オープンなスマートフォンの時代には、“キャリアとしての差別化が難しくなる”わけですが、今後どういう形でauらしさを打ち出していくのでしょうか。

増田和彦氏(以下増田氏) ベースとしてはなかなか差別化しにくい時代になっていくんだと思うんですが、“キャリアがどれだけの提案ができるのか”ということだと思います。EZwebの世界で今までやってきたものを、どれだけスマートフォンに持っていけるのかというのも1つの方向性としてあります。今までのお客様に安心して移っていただけるようにする、要は「他に行くよりこっちの方がいい」といってもらえるようにすることです。

 加えて、ソーシャルサービスに対する提案です。新しいコミュニケーションのスタイルでもありますから、そういったものがフィーチャーフォンに比べてスマートフォンは格段に使いやすい。そこで、(jibeのように)あらかじめキャリアの選択肢として入れておくことで、新たな世界を体感していただく。この両面が重要だと思うんですね。そういったものを、いかにタイムリーにご紹介できるかが1つ大きなポイントかなと思います。

―― auは、スマートフォン分野のソーシャルサービスや新サービスについて、グローバルのトップグループの企業とスピーディにアライアンスを組んでサービスを展開しています。これは特徴的なアプローチですね。

増田氏 フィーチャーフォンの時代は、キャリアはとにかく“何でもかんでも自分たちが主導でやる”という内製主義でした。なぜかというと、携帯電話でアクセスできるライトなコンテンツがインターネット上になかったのです。そういうものを作りながら進歩してきたのが今までの時代だったのですが、これだけ汎用的なプラットフォームになると、やり方が変わってきます。例えば、これから開発したい50の案件があったとすると、すべてを時間軸で優先順位を付けてやっていたのが今までの方法です。

―― そうですね。順番に3年くらいかけてやりましょう、というような感じですね。

増田氏 あるいは、「これは、今やるととんでもない処理能力を求められるから、もうちょっと後だよね」というプライオリティの下げ方もあったでしょう。そういう中で、ちょっとずついろいろものを付加してきました。ところが、今はものすごいCPUのパワーを持った汎用OSがあるので、プライオリティが一律で、やりたい人が同時にやっていくようになってしまった。そうすると、何も我々が全部ガリガリやる必要はない。我々がやるべき領域とそうじゃない領域が明確にあるんです。

 全部を放棄するつもりはないです。音楽サービスに関してはLISMOをきっちり提供していますし、「LISMO WAVE」という新しい取り組みも始めています。これは他にないものですし、キャリアがやるべきものだと思うんですね。けれど、他の分野、特にソーシャル系は、いろんな人たちがいろんな特徴あるサービスをすでにやっているので、そんなにこだわる必要はないと思っています。

Photo LISMO WAVEのサービス画面。全国民放52局のFMラジオを聴ける「ラジオチャンネル」と、無線LAN経由で音楽映像を視聴できるストリーミングサービス「音楽映像チャネル」を提供する

―― ソーシャルサービスは、参加する人がどれだけ多いかというのも重要なので、キャリアとしてくくらない方がいいでしょうね。ではその場合、キャリアとしてやるべき領域と、世界のトップグループとコラボレーションして密にやっていくべきだという領域の、区分けのラインはどいうったところなのでしょうか。

増田氏 明確に「これ」というのはないと思いますが、コンテンツ領域でいえば、キャリアが得意なのは、さまざまなものをアグリゲーション(集約)することですね。これまでもやってきましたし、「キャリアがアグリゲーターになってくれるなら、そこに一枚乗りたい」という方も当然いらっしゃるわけで、LISMO WAVEはまさにそうだと思います。ああいった分野は、むしろキャリアがやった方が、賛同していただける方を集めやすいということがあるかもしれませんね。

―― DRMに対する安心感とか、課金に対するビジネスモデル的なオプションが大きいので、アグリゲーションに関しては強みが出ますね。音楽に限らず、著作権が関わるコンテンツに関してはキャリアの強みが出ます。

増田氏 ライツ(権利)をどう守るかは、ある意味キャリアの努めでもあると思うんです。ライツを持っていらっしゃる方は、当然、それを生業にしているだけではなくて、それなりの価値があるから評価されてマネタイズができているわけです。そこを我々(キャリア)が自ら壊していくというのは、ちょっと違うんじゃないかと思いますよね。

 きちんとした対価を払えるコンテンツについては、きちんとお金を払うべきで、そうしないとコンテンツ産業自体がガタガタになって成り立たなくなります。そこの部分に関してはきちんしますが、ただ、そうはいっても新しい時代のビジネスモデルのあり方については、当然、権利者の方々と話をしていかなくてはなりません。ともあれ、きっちりやっていく安心感をキャリアに求めるということはあると思います。

―― 選択肢を広げるという話で、例えば、アマゾンもAndroid上でアグリゲーションをやっていこうとしています。そこでアプリもやれば音楽もやれば、映像もやるといった場合に、排他する考えはないということですか。「LISMOがあるので、auのAndroidスマートフォンには、アマゾンさんのサービスは載せません、排除しますよ」という考え方にはなりませんか。

増田氏 それは排除しようがないですよね。止められないものはどうしようもないというか、止めたいかどうかということもありますし、たぶん、そういうことをやりたくても、やれない世界がAndroidなんじゃないでしょうか。

―― そうなると、コンテンツプロバイダの方々も安心できるし、ユーザーさんにとって使いやすいものとしてLISMOやau oneマーケットはあるけれど、ほかのストアがあることはAndroidの世界なので当然だし、これは選択肢の問題だと。

増田氏 そうです。まあ、ショートカットやプリインストールをどうするかという話はあると思います。各社、すでに相当数がプリインストールされ始めていますから、「これ以上、次に何を載せるのか」ということでは、これから相当悩むと思います。今までは、フィーチャーフォンからスマートフォンへという流れの中で、まず出すことが重要だった。スマートフォンを出して、中にアプリが載っていれば「おっ」と思いますけど、もうアイコンがすごくたくさん並び始めているので、このあとどうしようかなと(笑)

―― 導線設計が難しいですね。

増田氏 今までの感覚で移行されたお客様だと、このサービスをキャリアがやっているのか、別の誰がやっているのか、たぶん分からないですよね。ショートカットがホーム画面にあったら、あまり詳しくない方はキャリア提供のサービスのように感じると思うんです。でも実際はそうじゃなくて、コラボレートしてやっているということが、なかなかご理解いただけないケースも出てくるんじゃないかと思います。

―― ホーム画面が複雑すぎますよね。

増田氏 スクリーン上のアイコンの場所の取り合いが、そろそろ始まってくるはずです。Androidである以上、当然グーグルのレギュレーション(規制)もあるでしょうし、メーカーさんのポリシーが強く出てきやすいですし。しかも、キャリアがやりたいこともあるので、そこをどうバランスするかですよね。

―― 恐らく、今夏くらいからその問題は大きくなるでしょうね。コンテンツプロバイダのみなさんはプリインストールアプリに入りたがっていて、「Androidの世界でビジネスをやるとしたら、今のところプリインしかない」ということをおっしゃっています。

“作り込み”をどうするか

―― 先日のMWCで、HTCが“Facebookフォン”を発表しました。海外のスマートフォンメーカーにとってFacebookはTwitterみたいなコミュニケーションツールというより、感覚としてはアドレス帳に近いんですね。ライブなネットワーク側にあってインタラクティブな電話帳という感じで使っています。この点が、日本のFacebookの捉え方や今までの電話帳文化との違いになっていると感じているのですが、ソーシャルサービスのいわゆる電話帳化については、auはどう考えますか。

増田氏 そこに関してはきちんと取り組む必要があると思っています。jibeに一部そういった機能も入っているんですが、そもそも電話帳化ということだと思うんですね。

―― 「アドレスブック」なのでしょうね。

増田氏 そうですね。だから、UIも含めたきちんとした形のものを何かしら、ユーザーの方は今よりも強く求めてくるようになるかもしれません。個人に紐づく情報が、せいぜいケータイ番号と会社の電話番号と住所が1つか2つだった時代から、SNSのアカウントも含めてものすごい量になってきているので、その情報に見合ったものが今後は重要になってくると思います。

―― しかも、日本と海外と、受け入れられ方が少し違うということもありますし。

増田氏 そうですね。でも、AndroidはグーグルのサービスやFacebookなんかと同期が簡単にできるようになっているので、そこに入れておきさえすれば移行も簡単だし、いろんなシーンで使えるので便利ですよね。

―― 著作権コンテンツとソーシャルの話が出ましたが、今年注目しているコンテンツサービスやインターネットサービスの分野は何かありますか。

増田氏 CES(Consumer Electronics Show)やMWCで今年出てくるいろいろなプロダクトを見ると、格段に処理能力の高いハードウェアが出てきそうなので、ああいったものを使ったゲームなんかは、またすごく盛り上がりそうな気はしますね。

―― 私もMWCで見て感じましたし、コンテンツプロバイダとの議論や意見交換でも出てきたんですが、Androidの世界はレギュレーションがバラバラ。タブレットもあって、スクリーンサイズも違えばCPUも違う。アグリゲーター的な存在がいないので、iPhoneに比べると格段にビジネスがやりにくい。結局、何に合わせて作ればいいのかが分からない、という声が多いですね。

増田氏 機種ごとのフラグメンテーション(断片化、バラつき)が想像していたよりあるということなんじゃないかと思います。

―― フラグメンテーションの進行が、MWCを見ていると進んでいますね。

増田氏 メーカーさんがUIを含めて結構手を入れ始めているので、差分がちょっとずつ拡大しているのかもしれないですね。

―― おっしゃるとおり、ハードウェアの性能はすごく上がってきているんですが、ハードを生かすものを作るとなると、誰かがそこら辺の整理をしてあげないと、マス市場は取れないですね。デュアルコア、クアッドコアを生かすゴリゴリのゲームはプリインストールしかありえない、という世界になっている。

増田氏 作り込みの部分でいうと、キャリアの作り込み以上に、メーカーさんの作り方がどうなるかが問題です。どちらかというと、個人的にはそっちの方が強くなるんじゃないかと思うんです。1つのOSでも複数のメーカーさんが作ると、作り込んだ結果は全然違ったものに見える。メーカー色が作り込みに出てくるとなると、むしろメーカーごとの分かれ方をしてくるような気がしないでもない。ちょっとそこは分かりません。

―― Samsung電子のモデルを見ていると、作り込みから退いている印象を受けました。ハードウェアのスペック競争が加速してしまったので、いち早く一番いいチップを使った最新のAndroidを入れるために、作り込みを減らしてきているんですね。ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズもそうですよね。「Xperia arc」は作り込みを減らしています。

増田氏 減らしましたね。前の機種で相当、痛い目を見たといわれていますからね。

―― Androidはちょいちょいバージョンアップする。CPUも、あっちがデュアルコアを出したら、こっちはクアッドコアだ。今度はクロック周波数だと、やればやるほど拡張する時間がなくなってしまう。

増田氏 そういう状況になれば、それを解決するソリューションを出す人が出てくるかもしれない。そこら辺がインターネットの面白い部分だと思うんですね。

―― モデルによって違うとは思うんですが、今年もメインストリームのモデルに対しては、KDDIとしてUIの作り込みは続けていくということですか。

増田氏 そうですね。あれは続けていこうと思います。でも当然、僕らも全機種でやろうとは思っていません。メーカーさんのUIで優れたものがあればそれでもいいと思いますし。そういった中で、ある一定量はああいったインタフェースを継続していく、あるいはバージョンアップする、そういったことも含めて色々と考えてやっていきます。

―― スマートフォンの今年のラインアップ戦略は、どういう形になっていくんでしょうか。

増田氏 裾野が拡大する時期であることは間違いないです。我々はスマートフォンの分野では後発なので、まずは品揃えですね。いろいろなマーケットセグメントに向けた品揃えを充実させる、ということが今年、真っ先にやらなきゃいけないことだと思います。

―― SIRIUS α IS06でスタンダード的なモデルが1つ出ました。まずは、メインストリームで他社がやっていなかった領域をやってきていますが、次はスタンダードなものを入れる、というように徐々に広げていくという形ですね。

増田氏 そんな感じになると思いますね。我々が提供するものだけにこだわっているわけではないので、ニーズがありそうなものは、きっちり揃えていきたいと思います。

―― テザリングに対応する「HTC EVO WiMAX ISW11HT」はどのあたりを狙ったモデルなのでしょうか。

sa_kd08.jpgPhoto 3GとWiMAXに対応し、テザリングも可能な「HTC EVO WiMAX」

増田氏 これはギーク層ですね。真っ先に買っていただけるんじゃないかと思います。僕も使っていますが、やっぱりWiMAXは速い。新浦安の駅前でスピードテストをすると、10Mbpsくらい出ますね。テザリングもできますし。

―― ハイエンドユーザーからすると、分かりやすい魅力ですよね。

増田氏 質感も高いんですよね。飛び道具的なモデルではありますが、結構行けるんじゃないかと思っています。WiMAXに関しては、当面はハイエンドユーザー向けというスタンスになるでしょう。

―― このあたりはauの戦略商品として、インフラ面からの差別化も含めて使っていくという感じですね。では、ハイエンドゾーンには、かなりスペックが高くて、WiMAXも対応するようなものも出てくると。

増田氏 そうですね。

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