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» 2011年08月08日 11時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:Windows Phone、日本市場での可能性と課題 (1/2)

2010年10月に欧州およびアジア太平洋地域でリリースされてはや10カ月。Windows Phone 7は、初の大規模アップデートによりWindows Phone 7.5となり、日本でも今秋からの販売が決まった。OSとしてのできは、先行するiOSやAndroidにも引けを取らないが、果たして今後第3のプラットフォームとして普及するのか。その可能性と課題について考える。

[神尾寿,ITmedia]
Photo KDDIが投入する「Windows Phone IS12T」

 7月28日、KDDIがWindows Phone 7.5を搭載するスマートフォン「Windows Phone IS12T」(富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製)を発表。2011年9月以降に販売する方針を示した。Windows Phone 7.5はMicrosoft製のスマートフォン向けOSであり、日本市場への投入は今回が初めて。日本市場は現在、AppleのiPhoneだけでなく、GoogleのAndroidを搭載したスマートフォンも一般コンシューマー市場に広く売れ出す中での、“第3の勢力”としての投入となる。

 Microsoftが満を持して投入したWindows Phone 7.5は、日本市場に橋頭堡を築けるのか。その可能性と課題について考えてみる。

変化したターゲット市場

 この数年、スマートフォン市場ではAppleとGoogleの存在感が強い。しかし、両社がスマートフォン市場に参入したのは2000年代の後半。一方のマイクロソフトは2000年以前からモバイル市場に参入しており、スマートフォンという観点でも草分けである。

Photo カシオ計算機が販売していたPalm-size PC「CASSIOPEIA E-65」

 同社は1998年の時点から、Windows CEをベースにしたPCと連携する“PDA向けOS”の「Palm-size PC」を投入。2003年には「Windows Mobile」と改称し、スマートフォン市場に乗り出した。同OSはタッチペンやキーボードでの操作を前提にしており、PCの用途・ニーズを補完する“PCコンパニオン”というコンセプトで、PCやインターネット好きのマニア層や一部のビジネス層から一定の支持を得ていた。その後、Windows MobileはWindows Phone 6.xシリーズとなったが、この基本コンセプトは踏襲されてきたと考えていい。日本市場でもウィルコムの「W-ZERO 3シリーズ」などで、マニア層を中心に支持された。

 しかし、誤解を恐れずに言えば、旧来のWindows Mobileはコンシューマー市場向けの製品として失敗作だった。確かに拡張性や自由度は高かったのだが、PC以上に使いこなすためには知識や工夫が必要であり、UIデザインも一般ユーザーに使い心地のよさを与えることができなかった。一言でいえば、“誰もが直感的に使えるもの”ではなかったのである。

 そこでMicrosoftは、Windows Phone 7から抜本的なターゲット層の転換を行った。AppleのiOSの大成功を参考に、一般コンシューマー市場向けのスマートフォンOSとしてゼロから作り直したのである。そのコンセプトやUIデザインには、Microsoftのデジタルオーディオプレーヤー「Zune HD」や家庭用ゲーム機「Xbox 360」のノウハウが生かされており、Microsoft製でありながら、PCとはまったく別の思想で作られている。Windows Phone 7、そしてそこから大きなアップデートが行われたWindows Phone 7.5は、従来のWindows Mobile 6.xまでのマニア層を切り捨てて、iPhoneやAndroidスマートフォンのように一般コンシューマー層を狙ったものになっているのだ。

“コンシューマー向け”として十分な競争力

 この「一般コンシューマー層向けのスマートフォンOS」として見た場合、Windows Phone 7.5のできばえはかなりよい。

PhotoPhoto iOSやAndroid OSとはまったく別の思想で作られているWindows Phone 7

 まずUIデザインだが、Windows Phone 7シリーズでは、iPhoneやAndroidスマートフォンとはまったく別の思想で作られている。アイコンではなくタイル上のボタン(ライブタイル)が多用されており、初心者でもあまり迷わず、目的の操作ができる。また、このタイルにはさまざまな情報が表示されるため、とてもインタラクティブだ。iPhoneのUIデザインにあるシンプルさ、AndroidのUIが持つ拡張性とは異なる、“ナビゲートを前提にしたUIデザイン”である。

 また、Windows Phone 7.5ではソーシャルネットワークサービス(SNS)がUIレベルで統合されており、特にFacebookとの相性は抜群だ。Facebookのアカウントを設定すると自動的にソーシャルグラフがスマートフォン上のすべての機能と連携。基本UIの中で、Facebook内での各種アクティビティが自動的に表示されるようになる。同様にTwitterとも連携可能であり、SNSとの密結合という点では、iPhoneやAndroidよりもはるかにレベルが高い。

 総じて言えば、Windows Phone 7.xのUIデザインは、“Androidよりも使いやすく、iPhoneよりも先進的”なものだ。後発の強みと言えばそれまでだが、ライバルをよく研究し、新たなオリジナルを作ったと高く評価できる。一般コンシューマー層向けで重要な直感的な分かりやすさも兼ね備えている。Windows Phone 7.5のUIデザインは、Androidを飛び越えて、AppleのiOSに勝るとも劣らないものになったと断言できる。

 次にスマートフォンにとって重要なアプリ/コンテンツのエコシステム設計についてだが、こちらもMicrosoftはライバルをよく研究したようだ。

 Windows Phone 7シリーズでは、Microsoftの共通開発環境である「Visual Studio」が利用できる。さらに同社はハードウェアメーカーに対して仕様の共通化をかなり厳しく要求しており、Androidスマートフォンで問題化しているメーカーごと・モデルごとの非互換性問題(フラグメンテーション問題)が起きにくい。かなり強権的にアプリ/コンテンツ開発環境をコントロールしているAppleほどではないが、Windows Phone 7のエコシステムは、少なくともAndroidよりは開発・ビジネスがしやすい環境になっている。

 そして、アプリ/コンテンツの流通を担う「マーケットプレイス」では、マイクロソフトの審査によってマルウェアが混入しにくい環境を整えた上で、ユーザーが適切なアプリ/コンテンツを探しやすい環境を作っている。今のところ日本語アプリは37社57製品と少ないが、“アプリ/コンテンツビジネスがしやすい環境を用意しているか”という観点では、Microsoftの取り組みは十分に合格点をクリアしていると言えるだろう。

 細かい部分に目を向ければ、Windows Phone IS12Tに実装されたWindows Phone 7.5は、iPhoneや一部のAndroidスマートフォンに比べて日本語フォントの表示が美しくないなど不満点もある。しかし、総じていえば、コンシューマー市場向けのスマートフォンOSとしてWindows Phone 7.5の完成度は高く、十分な競争力を持っている。

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