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» 2011年10月14日 13時32分 UPDATE

“愛されるスマホアプリ”を生み出す3つの要素とは――フェンリルCEOの牧野氏が指南

国産のWebブラウザ「sleipnir」の開発で知られるフェンリルは、スマートフォンアプリの開発も手がけている。人気アプリを生み出してきた同社が考えるアプリ開発の極意とは。

[ITmedia]
Photo フェンリルの牧野兼史氏

 スマートフォンの普及が本格化する中、アプリの数も急速に増加している。しかし、星の数ほどあるアプリの中でも、ユーザーに愛され、使い続けてもらえるアプリはごく一部だ。

 使われるアプリとそうでないアプリはどこが違うのか、ユーザーの評価はどこで分かれるのか――。アプリ開発者なら誰もが直面するこの疑問に答えたのが、フェンリルのCEOを務める牧野兼史氏だ。

 フェンリルは、使いやすさで定評がある国産Webブラウザ「sleipnir」(スレイプニル)の開発を手がける企業で、2008年からiPhoneアプリの開発事業に参入。以降、自社アプリとしてブラウザアプリの「Sleipnir Mobile」やアドレス帳アプリ「Flick Address」などをリリースするとともに、受託アプリとして気象情報アプリの「ウェザーニュースタッチ」や飲食店検索アプリの「ぐるなび」といった人気アプリの開発を手がけてきた。

 数々のアプリを開発する中で見えてきた“アプリ開発でこだわるべきポイント”とは、どのようなものなのだろうか。IT系イベント「スマートフォン&タブレット2011秋」(主催:日経BP)のセミナーに登壇した牧野氏が説明した。

ポイント1:目的を明確に

 アプリ開発でフェンリルが重視する1つ目のポイントは「アプリを提供する目的を明確にすること」。誰がどんなシーンで使うのか、なぜ、そのアプリでなければならないのか――。こうした要素をつきつめるところからフェンリルのアプリ開発はスタートするという。

 「どんな感情をもって、どういう時に心が動くかを考えて、アプリのユーザーをイメージするのがフェンリル流」(牧野氏)というように、ユーザー層を想定する場合にも、性別や年齢、職業で分けるのではなく、“何をしているときに楽しいと感じるか”を切り口にする。それは“とにかく可愛いものが好きというユーザー”“ITの最新情報が常に気になるユーザー”“新しい美味しい店を探すことが趣味のユーザー”といった具合だ。

 利用シーンについても、“いつ、どこで、どのように”を、人の感情をもとに考えればいいと牧野氏。“何がユーザーの感情に訴えかけるのか、ユーザーが気持ちいいと感じるのは何か”を突き詰めていく中で、必要な機能やUIが次々と明らかになり、それがそのままアプリの仕様になっていくというのが同氏の考えだ。

Photo マイコミジャーナルアプリ

 そして目的を明確にするまでの具体的なフローを、IT系ニュースサイト「マイコミジャーナル」のアプリ開発の事例で説明した。

 フェンリルではこのサイトのメインユーザーを、“最新のIT情報が気になり、すきま時間に手軽に情報収集できることを求め、得た情報をSNSを通じてシェアすることに喜びを見いだす人”と想定し、その人たちがどんなシーンでどう使うかを考えた。通勤時の混んだ電車の中で使うかもしれない、電波が通じないこともあるだろう、つり革を握りながら片手で使うかもしれない……。このような利用シーンのイメージから「ヘッドラインを見やすくする」「オフラインで読める仕組みを用意する」「(片手でも使いやすいよう)よく使う機能を画面の下のほうに配置する」といった機能やUIのアイデアが浮かび上がってきたという。

 「具体的なイメージで目的を設定することで多くの人に使ってもらえるアプリになる。“仕様ありき”で作ると、アプリの押し売りになってしまう」(牧野氏)

ポイント2:実用性を高める

Photo Sleipnir Mobile

 2つ目のポイントとして挙げるのは、実用性を高めることだ。「目的に基づいて実用性を高めたアプリはユーザーに感動を与え、愛させるプロダクトになる」(牧野氏)。実用性を高めていくまでのフローを、自社開発のWebブラウザアプリ「Sleipnir Mobile」を例に挙げて説明した。

 Sleipnir Mobileの目的は、「インターネットが生活の一部になっている中で、ちょっとした時間に、かつてない気持ちのいいタブを使ってインターネットで目的を果たせる」というもの。この目的のために必要な機能として挙がってきたのは「ジェスチャーやフリックによる軽やかなページ操作」「iPhoneやiPad、Windows、Mac、Android向けのSleipnirと完璧に同期するブックマーク」「たくさんのページを開いていても手間どることがないタブ」といったものだ。

 こうした要件に沿って実用性を高めた結果、「指を左右に動かすだけで目的のページにたどりつける」「画面上でLを描くとタブが閉じる」「下にフリックしてタブを閉じる」「お気に入りのページをカラフルな画面で整理できる」「iPhone版Sleipnirで見ているサイトを他のプラットフォームでもそのまま使えるブックマーク機能」といった機能が実装された。

ポイント3:愛情を注ぐ

Photo ウェザーニュース タッチ

 牧野氏が最後の、そして最も重要なポイントとして挙げたのは、アプリに愛情を注ぐことだ。

 これまでさまざまなアプリを共同開発してきたフェンリルだが、高い評価を得られたものもあれば、そうでないものもあったと振り返る。そして評価を分けたのは、“サービスにかけるパートナー企業の熱い思いや、高度に創造された価値を、アプリに反映することができたかどうか”ではないかと分析する。

 同社が最初に共同開発したiPhoneアプリ「ウェザーニュース タッチ」は、まさにその成功例だ。気象情報サイトを手がけるウェザーニューズは、フェンリルの開発陣を天気予報番組の収録スタジオに案内するなど会社の隅々まで紹介し、天気アイコンへのこだわりなどを熱く語ったという。このような時間を共有したことで、気象サービスにかける思いをアプリに反映でき、それがユーザーに伝わってヒットアプリになったというのが牧野氏の見方だ。

 愛されるアプリを作るためにもう1つ重要なのが、ユーザーの心地よさを重視すること。フィードバックの演出は最適か、意図した通りの動きをしているか、ユーザーへのメッセージに誤解を与える表現は含まれていないか――。こうした点をユーザー目線でチェックし、違和感を覚える部分は徹底的に調整して、気持ちよいと感じるまで続けることが大事だと牧野氏は訴える。「神は細部に宿るというが、“細部にまで愛情を注ぎ込んでアプリを作る”ということを忘れないでほしい」(牧野氏)


 牧野氏が挙げた3つのポイントは、細やかな心配りや根気が要求されるものの、いずれも特別なことではない。すでにあるアプリでも、この3つのポイントを見直すことで、使いやすいアプリに変身する可能性もあるだろう。

 「ユーザーのことを一番に考え、アプリに愛情を込めれば込めるほどその愛情がアプリを通してユーザーに伝わる。愛されるプロダクトを作るにはユーザーを愛することが何よりも大切」(牧野氏)――。アプリの開発競争が激化し、スペック主義に陥りがちな今こそ、こうした“ものづくり”の原点に立ち返ってみるべきなのかもしれない。

photo Sleipnir Mobile
photo Sleipnir Mobile
photo Sleipnir Mobile

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