“EI=M2C”が方程式――韓国KTが考える、スマホ時代のマシン間通信Mobile IT Asia(1/2 ページ)

» 2012年03月26日 12時30分 公開
[井上翔(K-MAX),ITmedia]

 2011年末、日本で携帯電話・PHSの契約数が総人口を超えた。その理由として、用途に応じて通信端末を複数台使い分けるユーザーが増えたことが挙げられるだろうが、機械間通信(M2M)での活用も契約数増加の要因の1つだ。自動販売機の管理、タクシーでのクレジット・デビットカード決済、スマートメーター、デジタルサイネージなど、何気なく街中で見かけるものに、通信回線が内蔵されているということも珍しくはなくなってきた。

 韓国は、M2M分野の取り組みが世界でも進んでいると言われている。韓国で携帯電話事業を展開するKTで、M2Mを含めたビジネス分野(B2B)を担当している上席副社長、B2B Product Unit, Global & Enterprise Group. を統括するハン・ウォンシック氏は、「KTではM2M事業を“EI=M2C”と表現している」と紹介した。元はアインシュタインの特殊相対性理論の“E=MC2"という数式に由来している。EIは、“Enhanced Industry”(広がる産業)、M2は“M2M”を、Cは“Customers' passion”(顧客企業の熱意)を表す。つまり、M2Mと、それを利用する企業が結びつくことによって、今までとは違う新しいビジネスモデルが生まれる、ということを表現している。ハン氏は、「これほど、我々が取り組んでいる新しい(M2M)事業の多くを表現しているものはない」という。同氏のMobile IT Asiaでの講演を紹介しよう。

PhotoPhoto KTのハン・ウォンシック氏。KTではM2Mビジネスを“EI=M2C”と表現している

M2Mは競争力を高める“鍵”

 現在、私たちは携帯電話を始めとして、さまざまな“ネットワーク”の中で生活している。「個人レベルでは、機器がネットワークを介してつながることで、より安全で、使い勝手が良い形でコントロールできるようになった」というウォン氏。企業では「資源、財産、時間、仕事など、あらゆるものがネットワーク化された環境にある。そのネットワークをより良くすることで、コスト削減や生産性や競争力の向上につながる」という。ネットワークをより活用することが、企業としての競争力をより高める“鍵”になるというのだ。

 そこで、企業のネットワークを「より良く」する手段としてM2Mが活躍する。

 「固定通信、固定データ通信、携帯通信、スマートフォンといった通信手段を全てM2Mのドメインに統合していくことによって、企業のビジネス上の競争力を高めることに留まらず、情報をベースとした新しいビジネスチャンスが生まれる」(ウォン氏)

PhotoPhoto あらゆる通信手段をM2Mの中に統合していくことで、ビジネスの競争力を高めるだけでなく、情報をもとにした新しいビジネスも生まれる。韓国国内と世界のM2M市場予測。韓国市場では2015年までに現状の倍以上となる9兆5000億ウォン(日本円で約7000億円)が見込まれる

すでにさまざまな取り組みを進めているKT

 ウォン氏は、「M2Mサービスは顧客のニーズを理解し、(それを元にサービスを)開発し、意義ある技術にしていくことが大切だが、率直に言ってそれは難しい部分もある」という。その背景としては、従来のサービスと比べると契約期間が長い、という長所がある一方でARPU(1ユーザーあたりの利用料金)が低く、バリューチェーンも複雑で、対象とするサービスがものすごく広範に渡るという弱点が挙げられる。更に、従来の通信事業者が主導するビジネスモデルではなく、通信事業者に加え、デバイス、ソリューションなど、多様なプレーヤーが関与することになることも難しさを高めている。しかし、「さまざまなプレーヤーが協業・強力でき、相乗効果を高めてくれる機会がM2Mである」と、前向きに取り組んでいることを強調した。

 KTではM2Mを拡販するに当たり、まず自社グループ内での導入を積極的に進めた。「エコシステムを構築することにより、子会社間の相乗効果を発揮する」(ウォン氏)という、ある意味では自らを実験台にした取り組みだ。通信事業だけでなく、子会社を通してコマース、セキュリティ、ファイナンス、広告などの事業を行っている同社ならではだ。

PhotoPhoto 従来市場とM2M市場の比較。M2M市場は、利用する通信帯域は少なく、長期間の通信契約が望める一方、ARPUが低く、更に関与するプレーヤーが多いことが特徴的。KTではまず自らのグループでM2M導入を率先して行った。これが、グループ外への拡販に当たっての「強み」(ウォン氏)になっている

 KTではM2Mにおけるアーキテクチャを「サービス」「プラットフォーム」「ネットワーク」の3つに、サービス領域を開発中のものも含めて「クルマ」「ユーティリティ」「コマース」「セキュリティ」「ヘルス」「エレクトロニクス」の6つに大別して展開している。アーキテクチャの中でも、「カスタマイズやネットワークのローカライズをする上で、最も重視している」(ウォン氏)のは、プラットフォームだという。だがアーキテクチャは必要なものをまとめて「ソリューション」としてクライアントに提案する。

Photo KTのM2M構造図。グローバル化を果たす上で、ネットワークとサービスの“橋渡し”となるプラットフォーム層を特に重視している

音声チャネルでデータ通信を載せるユニークな取り組みも

 そのソリューションの1つが、“SMCT”だ。SMCTは“Space Mobility Communication Technology”の略称で、電話の音声チャネルにデータも載せることができる、というものだ。サーバからデータを受信するクライアントを呼び出すことや、複数のクライアントへ同時に同じデータを送信することが容易になる。データ回線と音声回線を別々に持つ必要もない簡便さも持ち合わせる。

 これにコールセンター管理や付随するプラットフォームなどをセットしたタクシー会社向けソリューション“SMCT Taxicall service”を開発し、すでに販売を始めている。タクシー会社側のメリットとしては、リアルタイム配車やクレジットカード決済システムを従来より安価に導入できることが挙げられる。すでに4万件の導入実績があるという。KT側では、M2Mの強みである長期契約を獲得できるだけでなく、単純に回線と端末を売るよりもARPUが向上し、コールセンター管理サービス料金も得られ、結果、従来市場で同様の取り組みをやった時と比べて10倍の収益が得られる“Win-Win”なサービスに成長した。

PhotoPhoto 音声通話チャネルを利用したSMCT(Space Mobility Communication Technology)。通常のパケット通信では対応が面倒なサーバ側からの通信開始要求がやりやすくなる利点がある
PhotoPhoto タクシー会社向け“SMCT Taxicall service”ではSMCTだけでなく、コールセンター管理など、さまざまなソリューションをセットにして販売することで、従来よりも10倍の収益を挙げられるようになったという
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