変革期のモバイルゲーム業界、次の「Angry Birds」になるには――新興ゲーム企業が討論Dublin Web Summit 2012(2/2 ページ)

» 2012年11月06日 11時34分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
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 オヌル氏が成功のためのもう1つのポイントとして挙げるのがサービスだ。「ゲームはソフトウェア事業ではない。顧客を理解し、何を望んでいるかを理解することが重要であり、これはサービス事業のアプローチに近い」(オヌル氏)。Angry Birdsのように世界的に成功したゲームもあるが、一方でローカルの要素が強いゲームのニーズも高く、「グローバル企業とローカル企業が共存するのではないか」というのがオヌル氏の見方だ。

 「すばらしいゲームを開発することに集中している。良いゲームにはユーザーがついてくるし、それに伴う良いレビューはゲームの利用者の拡大につながる」と話すのは、ZeptoLabのモルダフスキー氏。同社のCut the Ropeは、iOS向けにアプリの配信を開始してから24時間後にApp Storeのゲームカテゴリで1位を獲得している。

Photo アプリの公開後、24時間でゲームカテゴリーのトップを獲得した「Cut the Rope」

 StoryToysは、インタラクティブな3Dデジタルポップアップブックでモバイル市場に進出。iPhone/iPad向けにアプリを提供するとともに、Android版をSamsungのアプリストアを通じてリリースしている。赤ずきんちゃんなどの古典的な童話にゲームの要素を加えた「教育コンテンツ」という特徴で差別化を図っている。

 ディスカッションでは、データの分析にも話が及んだ。「ソーシャルやバイラル(口コミ)を生かしてゲームを配信するためには、データを読み解く必要がある」とPeak Gamesのオヌル氏。「ユーザーのインタラクションや行動を分析し、それに合わせてゲームを調整してアップデートする。これにより、プレミアムゲームとしての収益を維持しつつ、口コミで新規ユーザーを獲得できる。“ゲームを通じて交友関係が深まった、広がった”というユーザーもいる。ユーザーにとって、友達を招待するような場所になることが理想」と話す。ZeptoLabのモルダフスキー氏も、データ分析には時間をかけていると同意した。

子供もスマートデバイスを使う時代、グッズ展開で相乗効果を

Photo Mind CandyのCEO、マイケル・アクトン・スミス氏

 しかし、いくら参入障壁が低くなったといっても、モバイルゲームで成功している企業はごく一握りだ。その中の1社、英Mind Candyはグッズ販売などのリアル展開で成功した企業だ。

 Moshi Monsterは仮想のモンスターを育てる子供向けのオンラインゲーム。仮想の都市で交流するといったソーシャル性も備えており、昨年末に6000万人だった登録ユーザーは現在では7000万人を超えている。ニンテンドーDS向けにもタイトルをリリースする一方、英国やアイルランドなどの一部の国ではCD、カード、人形などのグッズ販売も展開しており、子供向けグッズではAngry Birdsを超えるほどの人気ぶりだ。

 Mind Candyを立ち上げたマイケル・アクトン・スミス(Michael Acton-Smith)氏は、欧州では成功した起業家として知られている。Web Summitに登場した同氏は、「エンターテインメント業界は既存のビジネスモデルが崩壊しつつあり、大きな変革期にある。エキサイティングな市場で、ベンチャーにとっては大きなチャンス」と意気込む。

 “たまごっちの現代版”ともいえるMoshi Monstersは、Flashを利用したPC向けオンラインゲームとして2007年にサービスを開始。子供を取り巻く環境が変化し、タブレット端末を利用する子供が増えていることから、同社はこの春、iOS端末向けアプリの「Moshi Monsters:Moshilings」を公開した。

Photo 子供向けオンラインゲームの「Moshi Monster」

 アクトン・スミスは当初、親が子供に数百ドルのタブレットを買い与えるとは想像しなかったという。しかし、実際には利用者が増えていることが分かったといい、「タブレットなどのモバイル端末は、今後数年で子供にとっても主要な端末になる。これはゲームだけでなく、教育や動画にも大きな影響を与えるだろう」(同)と予言する。

 Moshiのブランド戦略で特徴的なのが、グッズなどのリアル製品への展開だ。「売上の足しになれば」と軽い気持ちで始めたグッズ事業は今や、同社の売上げの半分に達している。「これまではテレビや映画がブームの火付け役だったが、これからはモバイルなどのオンライン体験が契機となり、本、映画、テレビなどに拡大するのではないか」(アクトン・スミス氏)。エンターテインメント業界のベンチャー企業は、“Webからオフライン”と“オフラインからWeb”の両方を考えて事業戦略を検討する必要があると説いた。

 アクトン・スミス氏はMind Candyを「デジタル時代のエンターテインメント企業」と位置付け、オフライン事業ではキャラクターグッズや書籍の販売に続いて、今後は映画に進出することも明らかにしている。当初はハリウッドの映画産業と話を進めていたが、最終的には自分たちで手がけることになったという。すでにゲームや雑誌でMoshiに親しんだユーザーにクロスマーケティングができるので、“大がかりな配信は必要ない“と踏んでのことだ。Angry Birdsで知られるRovioもオフライン戦略を重視しており、ぬいぐるみやテーマパークなどのリアル世界への拡大を図っていることに触れ、「オーディエンスと直接結びついているという点で、大きな可能性やチャンスがある時代」(アクトン・スミス氏)と述べた。

 しかし、競争が激化しているこの市場では、成功を維持するのも難しくなっている。新規株式公開を果たしたZyngaは、早くもリストラを発表しており、RovioもAngry Birds以降、これに匹敵するような大ヒットが生まれていないのが実情だ。

 アクトン・スミス氏は「品質やブランドの価値を下げないためには、ノーということも大切。ブランドやゲームを強化して補完するような事業、子供に新しい窓を提供するような事業を考えている」といい、これこそが、長期にわたって愛される息の長いブランドの確立につながると述べている。

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