状況が悪い時ほど計画を――ある出向社員の物語樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

本社勤務の筆者が突然、通信系の会社に出向することになった。当時、この会社は巨額の累積赤字を抱えていた――。

» 2009年10月16日 23時20分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 思い起こせば計画マンの筆者は変化の時には、すぐ計画の立て直しをしようという気になった。悪い変動や根本的な変動と思える時は、新しい計画を立てることが習慣となっていた。海外でかなり大きな案件を失注した時も、頭を剃るより新しい計画の立案に向かった。

 そんな筆者だが、本社で営業を担当していた時に突然、通信系の会社に出向することになった。当時、この会社は巨額の累積赤字を抱えていた。

 当初はさすがにその赤字額に仰天し、大変なことになったと思ったが、それから実際に出向するまでの2週間、筆者なりに調査し、分析した。前向きに将来性も考え始め、未来の形態を夢見た。当然、考えたアイデア群はノートに書き込んだ。出向する前なのに、その赤字会社の業績見込みを強気で想定した。もちろん勝手に。たくさんの条件を付けてファイルに綴じて、出向したのである。

 出向してみると、計画で考えた想像の業態と、実際のポテンシャルが合っているところと異なっているところが明確になった。さらに計画を書き加え訂正したのだ。これは机の下に置き、筆者のお守りとなっていた。

 出向して数カ月後、たまたま出向先の社長と話をする機会があった。社長は筆者の計画案に「面白いじゃないか、説明してくれ」という。筆者も「分かりました」と説明を始めた。まず大前提である累積赤字の一掃と、売上1000億円達成までの道程を話したのだ。特に「X社、Z社を吸収合併する」「Y社の業務を引き取る」「K社とは徹底的に闘う」など、勝手に書いていたのことをここぞとばかりに説明した。「そして20XX年には売上1000億円達成を目指します」――。当時の通信業界は群雄割拠、弱肉強食の時代だった。

 「君ねえ、そのX社とZ社を合併するとか、Y社の業務を引き取るとかいうのは多少どころか、かなり乱暴な計画だな。でも面白いよ。その目標1000億円は気に入った。私も1000億円の売り上げを実現できると信じているよ」と社長が笑ったのを覚えている。

 実のところ、もともとの計画は自分自身を励ますものであった。だから内心で「社長は本気で、この超強気計画を信じているのだろうか」と疑心もあった。一方、根が素直な筆者は「社長がこれだけ強気なんだから、がんばろう」とも思えたのだ。

 結局都合10年間、その会社に出向していた。そこで見たのは、強烈な成長と売り上げの増大だった。出向からちょうど10年後、とうとう売り上げが1000億を突破したのである。その後、社長の退任パーティでその社長はこう言った。「君と俺と2人だけだよな。最初から売上1000億円を信じていたのは」。ワッハッハと筆者の肩を叩いて笑う社長。以前と変わらぬ豪快な笑顔が印象的だった。

今回の教訓

 計画は人のためならず。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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