新規事業の採算性を「図解思考」で実感するプレゼンがうまい人の「図解思考」の技術

新規事業の計画というとなんだか重大な感じがしますが、実は採算性と最大リスクをチェックできればOKなのです。この2つを実感するのにExcelは向いていません。ぜひ手書きでグラフを書いてみませんか。

» 2011年07月11日 12時40分 公開
[永田豊志Business Media 誠]

 先日、弊社でも新卒を中心としたチームによる新規事業がスタートしました。その名も「肌ログ」。女性向けのスマートフォン専用フリーペーパー配信サービスでして、女性にとってか欠かせない美肌アドバイスを利用者のバイオリズムに合わせて届けるという、ユニークなサービスです。

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損益分岐点分析(CVP分析)とは

 ところで、新規事業のプレゼンテーションではいかほど採算性があるかどうかは、大変重要なファクターです。特に、新しくビジネスを始めるときには、どの程度の売上があれば採算が取れるのか、売上いかんでどの程度のリスクがあり、目標売上を達成できればどの程度の利益が得られるのかをしっかり見極めることが重要です。

 採算性を検討する上でもっとも一般的に用いられるフレームワークが、「損益分岐点分析(CVP分析)」です。これは、コストを大まかに売上に連動して増えない固定費と売上に応じて増えていく変動費に分け、それらをグラフ上に示し、売上との交点が損益分岐点になるというものです。

損益分岐分析。利益と損失の境界点がどこにあるのかを探るために便利なフレームワークです。目的に合わせて、あらかじめ、最適なかたちを頭に入れておくと図解思考がスムーズ

 損益分岐分析では、X軸に販売数量、Y軸に売上あるいはコストをとります。売上は(0.0)を起点に線形に描かれ、コストは固定費の値を起点に、売上線よりも傾斜がなだらかになります。そして、2つの交点が損益ゼロの分岐点となります。

 損益分岐点はもちろん、公式で導けますが、単純にその値を知るだけではなく、売上とコストの関係や、コストの増え方を図解通訳で可視化し、関係者で共有することが大切です。ここでは、新しく始める事業についての採算性を話し合う場で、あなたは記録係として参加しているというイメージをしてみてください。

新規事業の採算性を分析しよう

 新規事業担当役員が新しいサービスの採算性について説明します。

 まずコスト面ですが、今回の商品の原価は1個あたり1000円となる見込み。そのうち、75%は仕入れ原価で、残りは仕入れにともなう雑費です。また、固定費はこの事業に関わる約10人のスタッフの人件費が500万、あとは家賃の案分や設備費などで、月額1000万円かかる見込み。今回の販売価格は1個あたり2000円で営業的には2万個の販売目標を掲げています。

1:日付とタイトル、相手の名前などを明記

2:次に変動費について内訳をメモ

 変動費の内訳をメモしておきましょう。割合についての話なので、円グラフで仕入れ原価75%ということが分かるように描きます。数字は絵で分かれば特に記載しなくてもOKです。売上原価は「@1000円」と書いておきます。


3:固定費も内訳をメモ

 固定費についても、同様に円グラフ上に主要なコストの打ち合わせを入れていきます。人件費は半分の500万かかり、一番コストを圧迫しています。人数もフキダシ線で強調しておきましょう。


4:X軸、Y軸を作る(損失をイメージ)

 固定費は月額1000万円なので、Y軸のコストの起点に「1000万」を書き入れます。損益分岐点売上高は固定費/(1−変動費率)で計算できますが、グラフからも交点がいくらになるのかは容易にイメージできるでしょう。このケースの分岐点は売上2000万円ですから、数量でいえば1万個売らなければ赤字だということになります。交点よりも左は損失となりますので、斜線を引いて「損失」と書いておきます。


5:X軸、Y軸を作る(利益をイメージ)

 損益分岐点の右領域は黒字で、利益が出ている状態ですから斜線を引いて、「利益」を書いておきます。ちなみに、目標としているのが2万個なので、そのときの売上高は4000万円。これも点線で値をX軸、Y軸に示します。


6:成功イメージを演出

 目標としている数量が達成されれば、コストは固定費1000万円+変動費2万個×1000円=3000万円です。この時の利益は1000万円ですから、笑顔な絵文字で成功イメージを演出してみます。


7:完成!

 いよいよ完成図です。完成した図を見てみると、目標としている販売数量の半分以下になったときに赤字になるということがよく分かると思います。損益分岐点の売上高が実際の売上高や目標売上高に占める割合を安全率といいますが、この場合は、安全率が50%ですから比較的リスクの少ない事業計画であることが分かります。

採算性と最大リスクがチェックできればOK、ぜひ手書きで実感して

 損益分岐や事業計画というと、多くの人が眉間にしわをよせながら、大量の数字が並んだExcelの表をチェックするのですが、細かいからといって本質が読めるわけではありません。

 新規事業はまず採算性がどれほどあるのか、最大リスクはいかほどかをチェックできればOK。そのためには、なるべく図解で整理し、損失と利益がどのようなポイントでイーブンになるのかを肌身で感じれることが大事だと思います。私はそのため、わざわざExcelにせずに、手描きのグラフでトレンドを把握することが少なくありません。

 みなさんの会社でも、新しい商品やサービスの採算性を検討する場合に、このフレームワークを描きながら、議論してみてはいかがでしょうか?

集中連載『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』について

『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』 『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』(永田豊志・著、中経出版・刊、A5判/208頁、本体1500円)

 パワポの前に「図」で考える――。ベストセラー『頭がよくなる「図解思考」の技術』の第2弾となる本書は、プレゼンテーションの根幹とも言える「メッセージをどう作り、どのように伝えるのか」を図で整理する方法を解説しています。

 「見栄えのいいスライドを作ること」や「説得力のある話し方をすること」も当然大事ですが、プレゼンの目的(メッセージ)そのものが洗練されていなくては、聞き手の心には届かないからです。営業プレゼンテーションや講演に限らず、ちょっとした説明や商談、または報告などにも応用可能で、あらゆるビジネスシーンで活躍するはずです。


目次

  • 第1章:残念なプレゼンは、なぜ眠たくなるのか?…面白いプレゼンの秘密とは?
  • 第2章:考えがスッキリまとまる図解プロットの技術…自分の考えを整理する方法
  • 第3章:「合体ロボ作戦」でシナリオに磨きをかける…プレゼンの流れを作り出す
  • 第4章:魅力的なスライドラフを描いてみる…ハイクオリティなラフ描きの技術を公開
  • 第5章:図解プロットに挑戦!…実際に、考えをまとめ、シナリオを作り、ラフを描く
  • 第6章:魅力的なアイデアを作り出す10のテクニック…使えるアイデア発想法

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

Twitterアカウント:@nagatameister


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