連載
» 2012年03月29日 10時30分 公開

ミッションを見つける時――自信も意欲も失った男が決意した日30代、V字回復への道

新連載「30代、V字回復への道」は現状にくじけそうな、もしくはくじけてしまった30代のビジネスパーソンがどうやってV字回復をしていけばいいのかを考える連載です。“V字回復のプロフェッショナル”千代鶴直愛(ちよづる・なおよし)氏の実体験を踏まえた記事をご覧ください。

[千代鶴直愛,Business Media 誠]

新連載のお知らせ

 新連載「30代、V字回復への道」を始めます。就職氷河期を経て、今や会社を支えるスタッフになっているはずの30代。ところがその内情はさまざまです。部下も上司も頼れず仕事に悩んでいる人、思っていたような成果が出ず悶々とする人――。そんなくじけそうな、もしくはくじけてしまった30代のビジネスパーソンがどうやってV字回復していけばいいのでしょうか。“V字回復のプロフェッショナル”千代鶴直愛(ちよづる・なおよし)氏の連載です。


 

 クリスマスが目前に迫ったある夜、男は自宅近くの小さな公園のベンチに一人腰を降ろし、身をすくめていた。時計の針は午前2時を回っていた。時折、環八を走る大型トラックが、けたたましい爆音を上げていたが、通り過ぎるとまた公園は静寂を取り戻していた。クルマの騒音が聞こえなくなると、途端にベンチの冷たさを感じる。男はさらに身をすくめ、両足をブルブル震わせた。

 男が深夜に一人でこの公園にやってくるのは、決まって妻と口論をした後だった。

どうしてこんな情けない男になってしまったのだろう……

 夫婦喧嘩の原因は、決まってお金のことだった。何しろ、生まれたばかりの子どもがいたにもかかわらず、借金だらけ。毎月わずかな収入しか得ることができず、借金の督促だけでなく、賃貸マンションの大家からも家賃の催促。妻が不満を口にするのは当然のことだった。普通の女性なら家を出ていって当然だろう。男は「俺だって必死なんだっ……」とだけ吐き捨てるように言うと、あとは家を飛び出すしかなかった。

 寒さと怒りに震えながら男は、しばらく公園のベンチで頭を冷やしていた。少し怒りが収まってくると、今度は自分の置かれている惨めな現実に向き合わざるを得なくなった。「オレはどうしてこんな情けない男になってしまったのだろう……」「女房一人幸せにすることができないなんて、子ども一人養えないなんて最低の男だ」「一体これからどうして生きていったらいいんだろう……」「オレなんて、生きている価値があるんだろうか……」。怒りの矛先は不甲斐ない自分自身に向かっていた。

27歳で脱サラしたが

 男の人生が狂い始めたのは、27歳で脱サラをしたときからだった。それまでは、地方の高校を卒業し都内の有名大学に進学、大手企業に就職し優秀な成績を上げ、3年後に人材系の会社に転職、すぐにチームリーダーに昇進――。何一つ苦労もなく順風満帆の人生だった。会社には何の不満もなかったが、起業家を目指して27歳の若さで思い切って会社を飛び出した。そこから男の人生はおかしくなり始めたのだ。

 その後、あるメーカーの新規事業子会社の社長を任されるという幸運に恵まれたが、わずか2年ももたずにクビ。30歳にして、完全に路頭に迷ってしまったのだ。今さら会社勤めに戻りたくないと思い、いろんなビジネスを自分で考えたものの、手に職もなく、事業資金もない三十男が簡単に食えるほど世の中は甘くはなく、結局あっという間にお金はなくなり、夜のアルバイトで生計を立てるしかなくなった。

 昼間は新しいビジネスを模索して人と会う必要があったため、日銭稼ぎは夜のアルバイトと決めていた。ガードマン、ビルの解体作業、道路工事現場の作業員……。一晩寝ずに働いても、往復の交通費や夜食代を差し引くと、わずか8000円くらいしか手元に残らない。1カ月精一杯働いても、アパートの家賃を支払ったらそれでおしまいだった。

 子どもを保育園に預けている間、妻はパートに出た上に、夜すらも睡眠時間を割いて調査業の内職をするなどして生計を助けてくれたが、それでも毎月の生活はカツカツ。考えたビジネスはどれも立ち上がりそうな気配すらなく、希望の光がまったく見えなかった。当然のように夫婦喧嘩は絶えない。無邪気な息子の笑顔を見ることだけが、男の唯一の楽しみとなっていた。

 「オレは一体どうしてこんな不甲斐ない男になってしまったんだ!」。社会から完全に取り残された孤独感、妻一人幸せにしてあげられない罪悪感と無力感、20代のころ「オレは何でもできる!」と自信満々だったのがまるで嘘のように、すっかり自信も失っていた。情熱や意欲も失いつつあった。「これからどうやって生きていったらいいんだろう……」

宇宙全体を感じたあの日の夜空

 そんな絶望的な感情に苛まれながら、男は一人ぼっちの公園で夜空を見上げた。木々の間に星が2つ3つ輝いているのが見えた。しばらくその星を眺めていると、突如として自分が宇宙に抱かれているというような不思議な感覚に包まれたのだ。そして、視点が「自分」という個体から「宇宙全体」にスーッと移動したような感じになった。と同時に、いま自分が置かれている状況は、万物が刻々と移り変わる中のほんの一場面に過ぎないのだということを知覚したのである。これは理屈ではなかった。全身でそう感じたのだ。

 そんな感覚に包まれながら目を閉じると次の瞬間、男の脳裏に思いもよらない考えが浮かび上がってきた。

 「そうか……。今のオレの経験は将来、講演やセミナーをするときのネタになっているんだ。(将来出版するであろう)本にもこのことを書いているに違いない! そうして、多くの人を力づける役割を果たしているんだ。だから、この経験は、これからのオレにとってなくてはならないプロセスであり、これこそが最大の財産になるんだ!」

 そのまましばらく目を閉じていると、今度はタクシーから降りた自分がまぶたに浮かんだ。ホテルの玄関でセミナーの主催者が出迎えてくれる映像である。それは全国を飛び回って講演活動をしている自分の姿、未来のビジョンであった。

ミッションを見つける最高のタイミング

 この「男」とは、30代前半の私(千代鶴)自身のことです。人生のどん底にあえぎ苦しんでいた私が、その真っただ中で見たビジョンはその後の2〜3年で実現できました。窮地に陥った時、絶体絶命のピンチの時、理不尽な出来事が起こり怒りに打ち震える時、悲しみの淵にいる時、そんな時に、自分の奥底に眠っている一番強力なパワーが出てくるのです。

 「何が何でも絶対に達成してやる!」「これをやらずに死ぬわけにはいかない!」「自分はこれをやるために生まれてきたんだ!」――。そんな魂の声が聞こえるのは、そういう逆境の時です。なまじ「そこそこ上手くやっている」状態の時には、本当の自分の声は聞こえないのかもしれません。

 もしもあなたが、強いネガティブな感情を持つような出来事や状況にぶつかっているちょうどその時だとしたら逆にチャンス。今こそあなたの最高のパワー、達成したいビジョン、人生においてやらなければならないミッションを見つける最高のタイミングなのです。

筆者紹介:千代鶴直愛(ちよづる・なおよし)

 リード・コミュニケーションズ代表取締役。ビジネスパーソンの内なるパワーを解き放つ人材育成コンサルタント。業績不振に喘ぐ大規模事業部を半年でV字回復させたり、低迷していた中堅企業をわずか2カ月で成長軌道に乗せたり、400店舗中ワースト20の店舗2店を全店舗中ベスト5に導くなど、V字回復のプロフェッショナル。キャリア開発、意識変革、コミュニケーション、リーダーシップ、部下育成等のテーマで研修を行い、常時、受講者満足度95%以上のパフォーマンスを維持してきた。中でも特に、40代管理職の人材育成を得意としており、業績の低迷に悩むマネジャーやミドルを、これまでことごとく蘇らせてきた。2度に渡って人生のどん底からはい上がった自らの経験が、ビジネスパーソンに勇気を与える要因の1つとなっている。

 著書に『自分の値段がズバリわかる』(かんき出版)、『ビジネス・バカを極めろ』(ビーケイシー)、『「豊かさ王国」への完全移住マニュアル』(徳間書店)、『成功と幸せの法則 最終ハードル』(徳間書店・訳書)、『自信の作り方・持たせ方』(アイ・イーシー・通信教材)がある。


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