なぜ「名刺は99枚」なのか名刺は99枚しか残さない

そもそも名刺手帳に選ぶ名刺がなぜ99枚なのか。今回はその理由について、お伝えしましょう。

» 2012年04月27日 10時00分 公開
[荒木亨二(荒木News Consulting),Business Media 誠]
『名刺は99枚しか残さない』 本連載はメディアファクトリー新書『名刺は99枚しか残さない』からの転載です

 「名刺は99枚しか残さない」という説明をしてきました(前回前々回)が、そもそも名刺手帳に選ぶ名刺がなぜ99枚なのでしょうか。今回は99枚の理由について、お伝えしましょう。

 ビジネスの最前線で戦うのは、あなたというたった1人のビジネスマン。結果がよくも悪くも、すべてあなたが責任を負います。しかし、あなたをサポートしてくれる力がないわけではない。それが99枚の名刺たち。これをカードゲームの世界に置き換えてみると、あなたというたった1枚のカードを、99枚が全力で援護していることになります。

 1+99=100。99のサポートを得たときに初めて、あなたは100%の力を発揮することができる。もちろん、99のサポートを得るためには、あなた自身がその99人をいつも全力でサポートする気構えが必要なのですが。ともあれ、99という数字には、実はそんな意味が込められているのです(詳しくは書籍の最終章をお読みください)。

効用その1:瞬発力が生まれる

 では、名刺手帳が手元にあると、あなたのビジネスは具体的にどうパワーアップするのでしょうか。まずいえるのは、あなたのビジネスに瞬発力が生まれるということ。仕事を処理するスピードが格段に速くなるはずです。

 名刺手帳には、あなたが厳選した99人の名刺が収められています。現時点で、あなたにとって最も頼りになる99人。この99人の目を、耳を、頭脳を活用しないのはもったいないというもの。

 名刺手帳に収まっている99枚の名刺は、ただの紙切れではありません。それぞれの名刺の主は、日々ビジネスの現場で、情報収集のアンテナを張り巡らし、常に頭脳を高速回転させている、それぞれの分野のエキスパートたち。しかも、あなたの名刺手帳に選ばれるほど、あなたとビジネス上の信頼関係を築いている人々でもあります。生きたニュースソースとして、知りたいことはなんでも聞いてみましょう。判断に迷ったときや、なかなかいい企画が思い浮かばないとき、意見やアイデアを求めるのも有効だと思います。

  • 最近の中国経済の情勢について知りたいときは、商社の中国担当で1年前まで上海駐在員だったAさんに直接聞いてみる。
  • いま人気のスイーツが知りたいときは、情報感度の高い女性編集者のBさんに電話してみる。
  • 小学生のあいだで流行っている遊びを調べたいときには、小学生の父親であり、「イクメン」を自認しているCさんに聞いてみる。
  • 「クルマと温泉」をテーマにした企画がなかなか思いつかないときには、ディーラー勤務で根っからのクルマ好き、アウトドアの話題にも強いDさんを飲みに誘ってみる。
  • K-POPの旬な話題について教わりたいときは、頻繁に韓国に旅行し、K-POPのブログを書いている生保営業のEさんを、おいしいチゲ鍋屋に招待して情報収集する。

 このように、99人の専門分野と趣味・嗜好を、あなたが的確に把握してさえいれば、「あの問題なら××さんに聞いてみよう」と、問題解決の手段や糸口がすぐに見つかるでしょう。しかもそこで入手できるのは、インターネットや雑誌などで出回っているものより、ずっと信頼できる情報のはず。ときには、まだマスコミにも流れていない極秘情報だったりします。また、たとえ二次的な伝聞情報だったとしても、信頼できる人物のフィルターを通した情報であれば、確度はぐんと高いはずです。

 名刺手帳は常にデスク上に置いておいて、仕事上で疑問や悩みが生じるたびに中身を開き、そのうちの誰かと連絡を取ってみる。これが名刺手帳の正しい使い方です。私自身、自宅兼オフィスの仕事用デスクの右端にいつも名刺手帳を置いています。そして、ことあるごとに99人の誰かと連絡を取る。このビジネススタイルを確立してから、仕事が目に見えてはかどるようになりました。

名刺手帳は常にデスク上に置いておいて、何か思いつくたびに、そのうちの誰かと連絡を取ってみましょう

 例えば、それまで書き上げるのに3日くらいかかっていた新規イベントの企画書も、名刺手帳を駆使することで、1日程度で仕上げられるようになったのです。それまで資料探しだけで1日潰れていたのが、まるでウソのようです。名刺手帳は貴重なニュースソースであり、そこからヒントをもらえるアイデアの宝庫でもあります。上手に活用することで、あなたのビジネスはかつてないスピード感と確かな実績を獲得するでしょう。

効用その2:人間関係が濃密になる

 名刺手帳をあなたのビジネスに取り入れると、あなたの人間関係がこれまで以上に濃密になります。名刺を1枚1枚見直す時間や精神的な余裕が生まれ、名刺の人物に思いを巡らせやすくなるからです。

 どういうことなのか、ご説明しましょう。

 名刺手帳を作る前のあなたは、それまでに名刺交換で受け取った膨大な数の名刺を、名刺ホルダーなどで漠然と管理していたはず。おそらく、名刺を1枚1枚見直すことなどほとんどなかったのではないでしょうか。そのなかに、実はもっと関係を深めるべき人、あなたに将来恩恵を与えてくれるかもしれない人の名刺が混じっていたとしたら、あまりにももったいない話ですね。

 しかし、99枚の名刺を厳選して手帳に収めた瞬間から、あなたはその主である99人を強烈に意識するようになります。他でもないあなた自身が、悩みに悩んで選び抜いた99人なのですから。

 先ほど、名刺手帳はデスク上に置いて、ことあるごとに開いて見るのが正しい使い方だと述べましたが、そうやって名刺手帳をパラパラめくるうちに、あなたの頭には自然と名刺の人物像が次々に思い浮かぶようになります。「Fさんがこの前話していた新規プロジェクトは、もう動き出したのかな。週明けにでも連絡を取ってみよう」「そういえばGさん、使いやすい自動翻訳ソフトを探していたっけ。昨日会った雑誌編集者が話していたソフトを紹介してあげたら、きっと喜んでくれるぞ」「このところ、Hさんとはすっかりご無沙汰しているなあ。来週、博多に出張に行くから、大好物の辛子明太子を現地で買って、宅配便で送ってあげよう」などなど。

 このように、自分のビジネスにおける最も重要な99人を限定することで、あなたはその1人1人ときちんと向き合いやすくなります。1人あたりに割ける時間が増えますから、その人の近況や動向にも細かく気を配れますし、本人に関する情報もアップデートしやすくなるでしょう。これが、名刺手帳を作って活用することの2つ目のメリット。名刺手帳によって、あなたの仕事上の人間関係はより深く、より豊かで、より充実したものになるに違いありません。

 こうした人間関係の緊密化、名刺99枚とのリレーションの強化は、あなたのビジネス力も確実にアップさせます。なぜなら、名刺手帳の99人との絆を強めることで、99枚の名刺のビジネス戦闘力がさらに上がるからです。

 あなたが選んだ最強の99枚(99人)と深く知り合えば知り合うほど、彼らの専門分野や得意分野に対するあなたの理解も深まり、彼らからさらに多くの情報を引き出すことができるようになります。と同時に、名刺の99人もあなたについてより深く知るようになり、人としてより強固な信頼関係が築けるようになります。

 ある名刺の人物との関係が「ごく普通に会話できる関係」から「信頼し合える関係」に発展すれば、名刺のビジネス戦闘力は一気に倍増します。あなたを信頼してくれる相手であれば、より親身で本音に近いアドバイスをしてくれるだろうし、ビジネスのより重要な部分をあなたに任せてくれるようになるはず。それだけビジネスの現場であなたの実力を発揮しやすくなるのです。

効用その3:人を見る目が養われる

 名刺手帳を作る3つ目のメリットは、あなたの人を見る目が養われるということ。しかもこれは、名刺手帳を最初に作ったときはもちろん、名刺手帳を使い続けるあいだ、常に磨かれ続けるすばらしいスキルです。

 最初に99枚の名刺を選び出すとき、あなたは相当に悩まれるはず。人である以上、好き嫌いの感情は当然芽生えますが、感情に流されることなく、残すべき名刺を真剣に選ばなければなりません。人事考課などを日頃から職務としている人以外、おそらく多くの人にとって、生身の人間を採点するのは初めての体験のはず。しかし人間は誰でも明確に意識することで、その作業のスキルを高めることができます。いままで人を客観的に評価することなど意識していなかった人も、名刺選びの体験を通して、人を見るポイントが分かってきます。「仕事のできる人は結論から先に言う話し方をする」とか、「仕事のできない人はメールの返信も遅い」とか。意識して人を観察すれば、人材を的確に判定できるようになるのです。

 また名刺手帳作りは、最初に99枚の名刺を選んだ時点で完結するわけではありません。手帳がとりあえず使える状態になっても、日々の業務はエンドレスで続いていくのですから、あなたはその後も多くの出会いを重ね、さらに名刺交換を繰り返すはず。そういった新たな出会いのなかで、ときには「名刺手帳に加えたい」と思える人と知り合うこともあるでしょう。とはいえ、あなたの名刺手帳には、すでに99枚の名刺が収まっています。新たな1枚を加えるためには、代わりにどれか1枚を捨てなければなりません。

 自分なりに「最強」と判断した99枚のうちの1枚を捨てるのですから、かなり難しい作業になります。名刺手帳の99枚(99人)をあらためて見渡し、様々な角度から人物を評価し、その力量を分析して、熟慮を重ねたうえで、捨てるべき名刺はこれだと決断を下す。この、人物の評価と査定に費やす濃密な時間こそが、あなたの人を見る目を養うわけです。

 こうした名刺の入れ替えは経験上、1カ月ごとに行うのが効果的です。例えば毎月の第1土曜とか、第4日曜とか、あらかじめ入れ替え日を決めて、名刺手帳の中身を定期的に見直すのがいいでしょう。なお、名刺手帳の日常的なメンテナンス方法については、書籍の第3章で詳述しています。


編集部より ゴールデンウィーク明けには著者である荒木さんのインタビューを掲載する予定です。お楽しみに!

連載「名刺は99枚しか残さない」について

 名刺を99枚まで絞り込むと、驚くほどにビジネスを回せるようになる――。本連載は4月27日発売のメディアファクトリー新書『名刺は99枚しか残さない』から、序盤の一部を転載したものである。

 「ビジネスの本質はいたずらに名刺を増やすことではなかった。名刺を減らすという“逆転の発想”こそが人脈を呼び込み、ビジネススタイルを劇的に変えた」。本書は、十数年にわたってコンサルティング業を手掛けてきた著者の経験に基づく、実践的なビジネス書である。

 名刺を99枚に絞り込む「9つの法則」、名刺を人脈やプロジェクトごとに収納する「4つのファイリング法」など、まずは「99枚名刺手帳」の作り方を詳細に解説。さらには、ビジネスアイデアに効果的な発想をもたらす「名刺サーフィン」や「名刺マインドマップ」など、著者が編み出したオリジナルの名刺活用テクニックを初公開する。

 おそらく世界でも類を見ない名刺活用法となるだろう本書。ぜひとも実際に本書を手に取り、世界に1冊しかない「あなただけの名刺手帳」を作っていただきたい。

著者紹介:荒木亨二(あらき・こうじ)

 1971年、千葉県生まれ。ビジネスコンサルタント。荒木News Consulting代表。早稲田大学教育学部で心理学を学び、卒業後、帝人に入社。半年で退職。その後PR会社で働きながら独自のマーケティング理論を確立し、28歳でフリーランスとして独立。以降、全国展開する書店の経営企画室向けにマーケティングリポートの執筆やセールスプロモーションのプランニングなどを手掛ける。その他、PRコンサル、新規ビジネスのプランニング、カルチャースクールの企画開発など、業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う。


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