デート企画は無事終了しましたが、連載はもうちょっとだけ続きます。100回以降は新企画も。さてさて、今日はミソノから紹介するようです。
春を感じる暖かい風が吹くこの街に、メイドが営む私設図書館がありました。
そこには書架を守る司書メイドがいます。ほんわりおっとりした司書メイド ミソノに、淡い思いを抱くメイドもいるようです。
今日はミソノからメイドへ、本をおすすめするようですよ。
エリスさんエリスさん、ちょっと絵本を開いてみませんか?
この間は飛び出る絵本の作り方だったけれど、これは普通の絵本なのね。
そうです。ひらがなの多い文章、ほんわりした絵、そして出版社は絵本界の老舗、福音館書店! 「かわいい絵本」というのにぴったりのイメージです。
主人公も小さな女の子と……きつねさん?
女の子の名前は「あき」ちゃん。この横のきつねは、ぬいぐるみの「こん」です。
それで『こんとあき』なのね!
産まれた時からずーっと一緒の、こんとあきちゃん。こんの腕がほころびたのをきっかけに、こんを作ってくれたおばあちゃんのいる“さきゅうまち”まで、二人で出発です! 表紙はまさに今、ホームから旅立とうとする二人の姿です。ちなみにこんは、自分で歩いたりしゃべったりできるタイプのぬいぐるみさんです。
女の子と自立歩行のぬいぐるみさんの旅……ものすごいメルヘン!
ええ、メルヘンです! かわいいです! ただし!!
ただし……(ゴクリ)!?
ものすっごくドラマチックですよ!
ほほう……刑事ドラマ好きで、波乱万丈なストーリーを日々噛みしめている総メイド長の私に、あえてドラマチックさを勧めてくるとは、よほどの自信が?
私、何度この本を読み返してもぎゅーっと心が切なくなるんです……。
かわいい女の子のあきちゃんに対して、ぬいぐるみのこんはちょっとお兄ちゃんみたい。汽車に乗るのにリードしてあげたり、途中駅の短い停車時間にもおいしいお弁当を買いに行ってあげたり。
あ! こん、お弁当を持ったまま立ちつくしてる……まさか……。
お弁当を買うのに時間ぎりぎりになってしまって、しっぽが扉に挟まってしまったんです……。
あー!!
もう……しょんぼり肩を落として立ちつくすこんの姿の雄弁なこと! お兄ちゃんとして、あきちゃんにお弁当を届けられないこと、動けなくなってしまったこと。そんなこんの心が200%伝わってくる絵ですよ、これは! もう、林明子さんの絵の力のものすごさたるや!
そんな時にこんが言う言葉が「だいじょうぶ、だいじょうぶ。おべんとう、まだあったかいよ」だなんて、こん、なんて健気なの……。
涙をふいてください、エリスさん。これはまだ序盤ですよ……。ひらがなばかりの優しい文章ながら、リズム良い言葉遣いに乗って、物語はぐいぐい進んで、二人にはまだまだ大冒険が待っているのです。
剣も魔法も出ないけれど、これはまさに大冒険旅行ねー!
こんがあきちゃんを引っ張っているようでもあり、あきちゃんがこんを支えているようでもあり……。エリスさんの言う通り、この絵本には剣も魔法も出てきません。ごく普通の電車に乗って、ごく普通の旅をします。でも、信頼関係が築かれた二人が互いの手に手を取って進む姿を実にさらりと、それでいて読者の心をぎゅっと掴むように描き切られているのが本当に素晴らしいです。
ドラマチックですよ、とエリスさんに勧めましたけど、実は言葉にしてみると何てことのない一幕かもしれません。
けれど、この小さなこんとあきちゃんにはとても大きなことだものね。
そして、それを大人になった私たちが読んだ時に、この愛らしいものたちに対してのいとおしさが、溢れるくらいにひたひたと押し寄せてきます。絵本の裏に「読んであげるなら4才から」とあるように、あきちゃんと同じ年ごろの子から、もっとずっと大きな大人までファンのとっても多い絵本です。
そして大事なこと、二人の冒険はちゃんと「よかった!」という気持ちになりますよー。どきどきして、はらはらして、そして大人になってから読むと、いじらしくって……。こんなやさしい絵本をたまにはぱらりとめくってみるのも、お勧めしますよー。
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