ID統合にインフラ強化、サイバーエージェントが挑んだ情報システム改革スピード経営の足かせになるな!(2/2 ページ)

» 2014年04月22日 08時00分 公開
[伏見学,ITmedia]
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グループ企業全体でAWSを導入

 並行して取り組んだのが、利用するクラウドサービスのコスト最適化だ。サイバーエージェントは、本社の各部門や子会社のサービス運用基盤などにAmazon Web Services(AWS)を活用している。以前までは、子会社ではAWSを年間契約していなかった。理由は、立ち上げたサービスが短期間でクローズしてしまうことで、AWSの費用が無駄になるのを避けたからだ。

 しかし今回、一括請求(コンソリデーティッドビリング)に切り替えることで、グループ内すべてのAWSアカウントの支払いを統合した。これにより、本社で年間契約した割引きのAWSのインスタンスが子会社でも適用できるようになった。「サイバーエージェントグループ全体でインスタンスを購入しておけば、たとえ子会社がクローズになってもリスクが少ない。全体最適なIT投資が可能になり、結果的に大幅なコスト削減につながった」と佐藤氏は強調する。

 さらにはネットワークも強化。同社では元々、東日本大震災をきっかけにVPN環境を用意し、社員が自宅や社外からでも勤務できる体制を作った。しかしながら当時、時間のない中での突貫工事で、今となってはネットワークのキャパシティ、セキュリティともにぜい弱であるため、今回大幅な改善を図り、サイバートラストのクライアント証明書とユーザーをひもづける形にしてセキュリティを強固にした。

 VPN環境が整備されたことで、外部からスマートフォンやタブレット端末でもセキュアなアクセスが可能になった。「今後、BYOD(私的デバイスの業務利用)を加速するための土台も出来上がったと言えるだろう」と佐藤氏はメリットを語る。

 社員の利便性向上と同時に、システム部門の負荷分散にも取り組んでいる。その1つが“社内ミニコールセンター”だ。これまでメールや内線電話などが中心だったサービスデスクへの問い合わせを、電話の場合、IVR(自動音声応答装置)を間にかませることにした。IVRは米Twilioが提供するクラウド型電話APIサービスを応用。社員が音声ガイドに従って問い合わせを進めていくと、最終的に社員番号とひもづいた形でサービスデスクにつながる。着信のあった時点で誰がどのような内容で問い合わせてきたかがおおよそ把握できるほか、問い合わせ件数や会話内容や時間などをすべてデータ化できるため、その後にデータを分析してサービスデスクのFAQサービスなどに生かすことが可能だ。

すべてを内製化する理由

 子会社のシステムも含め、サイバーエージェントグループ全体のシステムを統括しているのが、佐藤氏をトップに約30人から成る全社システム本部だ。驚くべきことに、上記で紹介したような新たなシステム基盤は基本的にすべて自社開発である。

 「コアなシステムは内製でなければ駄目だ」と佐藤氏は言い切る。その理由は、組織改編に合わせてスピーディーかつ柔軟にシステムを刷新することは、とても外注先には不可能だという。「例えば、経営会議であるシステムの統廃合が決まると、その数日後には新たな取り組みに向けて動き出しているようなスピード感だ。外注して“1カ月後に対応します”では遅すぎる」。

 システム本部に求められているもの、それは、このように、サイバーエージェントのコアコンピタンスを最大化するため、経営のボトルネックにならないためのバックエンドシステム作りなのである。

 「システム本部はプロフィット部門ではないので、あらゆる取り組みにおいてコストは厳しく見ている。結果的に今回のプロジェクトもユーザーの利便性とコスト削減を両立させることができた。また、3年構想で予定していたが、8割方をこの2年間で完了させた」(佐藤氏)

 今後の展開について、1つはシングルサインオン(SSO)の実現である。SSOのシステムを導入すると、SAML認証やOAuth認証に対応できるようになるため、例えば、社員がAmebaのサービスでWebアプリを使う場合に、TwitterやFacbookのIDでも許可されるのだという。

 もう1つは、新卒および中途採用システムの刷新だ。佐藤氏がイメージするのは、応募者がWebでエントリーしたら、彼らのモバイル端末にQRコード付きの説明会案内メールが届き、それが面接会場などでの認証IDとなる。試験は同社が既に運用するeラーニングの仕組みを活用し、応募者はタブレット端末で受験する。その結果はすぐに自動集計できるため、次のアクションも迅速に起こせる。このように、すべての工程をデジタル化することで、サイバーエージェントならではの特徴を人材採用においても打ち出していきたいとしている。

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