麻倉氏: 今年も多くのカメラに触れましたが、メーカーごとに独自性を打ち出してきた年だと思います。切り口は2つあって、1つは機能美や性能といったハードウェア面の独自性、そしてもう1つは情緒的な部分です。使う人の撮影に対するテンションを上げたり、逆にゆったりとした気持ちで扱えるようなカメラが登場しています。
前者の代表はソニーの「α7」でしょう。フルサイズのCMOSセンサーを作り、可能な限り小さな筐体(きょうたい)に入れ、現代的なデザインで名機を復活させました(ミノルタ時代の名機のモデルナンバー)。垂直統合の製品作り(一社で企画設計から部材調達、組み立てまですべてをまかなう)ならではの機能美、デザインだと思います。センサーがフルサイズなので情報量が多く、画質も上々。今年の最高傑作だと思います。
一方、E-P5は、ゆるい気持ちでカメラ生活を送りたい人(私もそう!)に適した製品で、情緒的な部分で秀逸なカメラといえます。オリンパスには、PENとは対照的な多機能でゴツゴツとした「OM-D」もあり、それはそれで良いものです。しかし、PENは持ったときの味わいや目で見たときの優雅さ、エッジや表面の丁寧な処理、ボタンを押したときのシャッター幕の振動まで気持ちいい、情緒的に優れたカメラです。
独自の「アートフィルター」も代を重ねるごとに充実しています。カメラは眼前のシーンを切り取るだけではなく、撮影者の撮りたいイメージを映すものであってほしい。例えば期待した色をいかに実現するのか。アートフィルターは、それを説得力のある形で見せてくれます。
E-P5は、被写体を見て、撮り、最終的に作品に仕上げるという一連の行為を極めて情緒的にサポートしてくれる、麗しいカメラです。私の愛用になっています。
麻倉氏: 第7位は、前回のおまけコーナーで紹介したキヤノンのプロ向け4K液晶モニター「DP-V3010」です。来年の4K放送を控え、各社これから制作にかかるとき、絶対に必要なモニターディスプレイ。さらに素晴らしいのは、液晶なのに階調がリニアで、クセっぽいところがないことです。これまで業務用モニターでもなかった部分です。
開発陣は、“SEDの残党”です。自発光デバイスを手がけてきた彼らは、液晶パネルがどこに問題を抱えているか熟知しています。やはり黒の再現性はいまひとつなので、ローカルディミング(バックライトの部分駆動)の技術をコントラストの向上ではなく、全画面におけるユニフォミティー(輝度均一性)や階調性に活用しました。シャープの「ICC PURIOS」と同じアプローチです。その努力は実を結び、「液晶でここまでできるのか」と思うほど高いレベルになりました。
しかし、キヤノンの開発陣は満足していません。SEDと液晶パネルでは、もともとのコントラストがまったく違いますから、次はおそらく有機ELパネルを狙っているのではないでしょうか。ソニーが「InterBEE」(国際放送機器展)で技術発表した30インチ有機ELパネルなどは外販も想定しているはず。4K/8K時代を迎え、有機ELの高画質ハイレゾモニターが登場するのも、そう遠くないと思います。
麻倉氏: 第6位は、1965年公開のビートルズの映画「HELP!」をリマスターしたBlu-ray Discソフト「HELP!」です。過去の名作が修復され、再び注目を集めるケースが増えていますが、HELP!も「こんなにきれいな映画だったのか」と再認識しました。
私は高校生の頃に劇場で「HELP!」を見ましたが、当時、映像に対して特別な印象は残っていません。しかし、BDで見直すと素晴らしい画質です。色彩が豊かで、原色と中間色の彩度が高い。これは監督の画作りだと思います。
またカメラワークが今見ても斬新です。「恋のアドバイス」という曲の映像では、極端なインフォーカス/アウトフォーカスを利用していたり、逆光を使ったカットや極端なアップなど、あたかも現在のビデオクリップを見ているかのような映像テクニックが満載。1965年当時はさらに斬新に見えたことでしょう。
もう1つ、音もかなり良い出来です。現在の再生環境はサラウンドがメインなので、このBDでもミキシングし直して5.1chサラウンド音声を収録しています。エンターテイメント性も高く、ビートルズの曲を良い音で聴けるのですから、ファンにはうれしいディスクでしょう。私個人としても、今年の映画BDではベストワンに近い存在だと思っています。
――後半は第5位からカウントダウンです(→後編を掲載しました)。
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